気楽にいこう
「そういえば、マコト様とユウリ様はどちらのクラスに配属されたのでしょう?」
テスト問題を作るべく目を向けていた教科書から顔を上げると、グレイに呆れたような視線を向けられました。
「結構話題に上がってただろ。なんで把握してないんだよ?」
「テオの入学の方が大切に決まっているではありませんか。あんなに小さかったのに立派になって姉としては誇らしい限りです」
「2つしか変わらないのによく言うな...お前のそういうことリックにそっくりだよな」
「お兄様と似ているだなんて嬉しいですわ」
今度は残念なものを見るような視線です。解せません。
「マコト様は4年生の黄色クラス、マシュー様と同じクラスですよね?」
「アウロラ様の言う通りです。まさか、黄のクラスに来るとは思ってなかったから皆驚いてたよ」
マシュー様は困ったように笑っていました。クラスの方はかなりの盛り上がりを見せていたのでしょうね。
「ユウリ様は、その、3年生の緑色のクラスに配属されたとお聞きしましたわ」
「それは、教育にかなりの差がついてしまったと考えても良いのでしょうか...?」
「アレックス様のお考えの通りだと思いますわ...。本来なら2年生のクラスでも良かったのでは、との意見もあったようなのですが、ご本人の意思を加味しての選択だそうです」
「さすがにダリア様には基礎魔法をお教えすることは難しいですものね...」
立ち居振る舞いや教養に集中した教育でしたし、2年生どころか1年生としての入学もあり得た話ではないでしょうか。
「そもそも教師以外で基礎魔法を教え切れる学生が少ないことを念頭に置いとけ。それにしても、弐年の緑とはまた厄介な」
「グレイ?」
「お前、最近どうでもよくなって忘れているとは思うが、2年の緑クラスにはマリエル・ブランシュ嬢がいるだろ」
「そういえば、そうでしたわね...」
「本気で忘れてたのか?」
「アメリア達と過ごす日々が楽しくて有意義だったものでつい...。確かに、マリエル様も気が強い部分がありますから、同じクラスの方々は大変そうですわね...」
「そこじゃない」
「え?」
グレイはマリエル様とユウリ様の衝突を危惧していたのではないのでしょうか?
そうなった場合、どちらの肩を持っても大変そうだと思っていたのですが。
「ユウリ嬢はお前に教育係を頼みたいと考えていたくらいにはお前に興味を持っている」
「立場上それは難しいですわね」
「マリエル嬢は、その、お前を蔑ろにして切られたのにも関わらず、妙な執着を見せている」
「なる、ほど?執着される理由が分かりませんわ。結局、お父様はブランシュ家との取り引きはこちらに有利な条件を提示して続けていますし、伯爵並びに夫人からは謝罪を頂きましたもの」
「かなり大ごとになっていたのですね...」
「コリン家の宝石に手を出したら恐いってこういうことなんだろうね...」
「宝石はお母様のことです」
皆して残念なものを見る視線をやめてほしいのですが。
「話を戻すぞ。つまり、2人ともお前に近寄りたいという目的は一致しているわけだ」
「非常にめいわく、いえ、困ってしまいますわ」
「本音漏れてるし隠しきれたないからな...。」
「マリエル様がアレックス様に近寄りたい理由は察しがつきますが、ユウリ様に関しては情報が少ないので判断が難しいですわね...」
「確かに...お茶会が開かれるのはもう少し後になりそうですものね...探りを入れるにしても接触を図るのは控えたいですし、ダリア様も教育係を終えますし...」
「そうなのか?てっきり在学中は常にともに行動するよう言っているのかと思ったが」
「それではダリア様が疲れてしまうではありませんか。かなり苦労をされたようですしこれ以上負担を掛けられませんわ」
神殿での教育は報告をお聞きする限り相当大変なものだったようです。ユウリ様を過剰に持ちあげる方々が多く進行に支障があったようですし。
それなりに名誉も回復することができたでしょうしこれ以上は被害を被る前に退散した方が賢明というもの。ダリア様なら自らの手で苦境を跳ねのけられますわ。
「いつものお人よしか...。だが、この中で1番狙われやすいのはお前だ。そこはきちんと気を付けてとにかく1人にはなるな」
「グレイもそれを言いますか...」
「グレイの言うことは間違ってないと思うよ。正直僕も心配かな」
「マシュー様まで...。クラスでは常に誰かしらがそばにいてくださりますのでご安心ください」
「それは心強いですわね。アレックス様が皆様に大切に思われているようで安心しましたわ」
「それはアウロラ様もですわ」
私がそう返すとアウロラ様の瞳が揺れました。
やはり、不安はぬぐえないものですよね。多くの方々が聖女伝説に憧れを抱いている今、最も大きな重圧を抱えていらっしゃるのがアウロラ様です。
いくら婚約発表を大々的に行うとしても婚姻されるまではその不安が消えることはないのでしょう。
「アウロラ様を大切に思っている方はたくさんいらっしゃりますわ。グレイやマシュー様、ノア様、それに私だってアウロラ様を大切な友人だと思っています」
「アレックス様...」
「ですから、堂々と胸を張ってください。何かあれば私が必ずお助けいたしますわ」
「ふふ、ありがとうございます。少しだけ気が楽になりましたわ」
「アレックス、これ以上アウロラ様を口説くな。ジャックが知ったらめんどくさい」
「口説いてませんわ。失礼です。それよりも、テスト問題の確認をしてください」
「え?もうできたのかい?」
驚いたマシュー様とグレイを少し見てアウロラ様は微笑みました。いつもの優しい空気をここにいる時だけは存分に楽しんでほしいものです。
もちろん、テスト問題は凶悪だとグレイにダメ出しを食らいました。




