口説いているつもりはないのですが
ダリア様が退室された後、魔術具を解除された皆様は複雑そうな表情を浮かべておりました。
「皆様、どうなさりましたの?」
「アレクサンドラ嬢、1つ聞いてもいいか?」
「はい、ノア様。どうされましたか?」
「君はダリア・ブルーム嬢に聖女候補の教育係としての勧誘をしていたのだよな?」
「その通りですわね。それが何か?」
「...グレイ、俺たちはいったい何を見せられていたのだ...?」
「ノア、諦めろ...アレックスのいつもの人たらしだ...本人に口説いている自覚はない」
「そうか...」
なんだか、諦めた視線を向けられている気がします。何故でしょう?
「グレイ、言いたいことがあるのならば正直に仰ってくれないかしら?」
「お前、本気で言っているのか?先ほどおれに常識を説いておいてか?」
「だって、普通に考えてくださいな。王族、女生徒憧れのアウロラ様、様々な方から人気のあられるマシュー様...とグレイ。囲まれてしまっては緊張してしまうのは必然でしょう!」
「自分が1番緊張感を与える存在だという自覚はないのか?明らかにお前と対峙する方が緊張するに決まっているだろ」
「下級生の大人しい女生徒に緊張するはずがありませんわ」
今度は一斉にため息を吐かれました。
「それに、お前のあの言動、明らかにダリア嬢を口説いていただろ?」
「口説く?そのような事はしていないのですが...」
「お前、しきりに美しいだの、笑った方が魅力的だの、言ってただろ」
「?魅力的な部分を愛でるのは淑女の嗜みですわ。おば様やお母様もそうですし」
「それを一般的な人間の目から見ると口説いているように写ってるのが問題なんだろうが」
「そんな...アウロラ様もそのように見えましたの?」
この中で最も淑女として優れた感性をお持ちなのはアウロラ様です。アウロラ様はお顔を少し赤らめています。
「そうですね...アレックス様のそのような素直で誠実な部分はとても良い印象を持たれていると思いますわ」
「アウロラ様、甘やかさずに言ってやってください。このままだと被害者が増える一方です。こいつがアウロラ様に甘い言葉を吐く機会が減りますよ」
「それは、いけませんわね...」
「アウロラ!?其方は私の婚約者であろう?」
「冗談ですわ、ジャクソン様」
ジャクソン様、こちらを恨めしそうに見ないでくださいまし。
「確かに、アレックス様の言動には、かなり甘いものが含まれていましたわ。アレックス様が殿方でしたら間違いなくお口説きになられていると勘違いされていた可能性がございます」
「そ、そんな...。」
「しかしながら、ダリア様のお心が救われたのも事実だと思いますわ。その点は評価すべきだと思いますの。それに、ダリア様が受け入れてくださった場合、危険なことに巻き込まれる可能性がありますし、アレックス様が味方だと印象付けることで心強く思えるのではないでしょうか」
「それは、そうですが...。」
どうやら少なからず反省する点があることは分かりました。どの部分かは理解できていませんが。
「アレクサンドラ嬢、少し良いか?」
「はい、ノア様」
「君は彼女を聖女候補の教育係として立場の救済を与えるとともに、利用するつもりだったのだろう?それならば利益だけを提示して害を及ぼそうとした償いとしてさせるのが最適だったのではないか?」
正直に言うと、ノア様の考えは最適ではあるものの最善でも最良でもありません。そもそも私に任命権はありませんし、何より、失敗に終わった際の責任問題が曖昧になりかねません。
王族からの命令であれば仕方がありませんが、今回はそうもいかないのです。
王族からの命令であった場合、神殿は彼女のことを警戒するでしょう。警戒されると失敗される可能性が上がってしまいます。それではいけないのです。
「私は一方的な搾取があまり好きではありませんの。利用するにしてもそれなりの褒賞や一定の報酬は支払われるべきだと思いますわ」
「褒賞や報酬?だが、彼女は君を害そうとした。その罪がなかったことになったことこそが報酬ではないのか?」
「違いますわ。彼女はきちんと罰を受け、反省し、私と和解致しました。ですから今は加害者と被害者ではなく対等な立場となります。それならば命令でなくお願いするのが筋というものです」
ノア様はよくわからないという表情を浮かべておられます。まあ、絶対的な権力をお持ちの方は命令さえしてしまえば一定の成果を上げられることが多いため仕方がないのかもしれません。
「それにしても、ダリア様、随分と印象が変わられましたよね。驚いてしまいましたわ」
「本来のダリア様は慎ましく穏やかで聡明な方ですから。あと胆力があります」
「それを褒められて喜ぶ令嬢はあまりいないだろ...」
「洗脳状態にあり、それが暴走してしまっただけに過ぎませんわ。それに、良いものは良いと褒めるのが私の主義です」
「前も言ってたな、それ。魔獣寄せの笛の性能を褒めるとは思わなかったが」
「あら、だって危険な魔獣を呼び出せるということはそれほどの戦闘力と技術力を持ち合わせて言えることと同義ですのよ。素晴らしいではありませんか」
「そういう思考があまりされていないんだよ、阿保」
可哀そうなものを見る目をしないでください。
「だが、アレクサンドラ嬢、これ以上女生徒を口説くのはやめてくれ!アウロラが、アウロラが、」
「ジャクソン様はもう少しご自身の婚約者を信頼してくださいませ」
「グレイもカミラ嬢が日頃口説かれていたら不安であろう!?」
「それは、男なら許さないが、相手はアレックスだしな...まあ、こいつが褒めるくらいカミラは魅力的で素敵な女性ということだ」
「間違いありませんわ。カミラは素敵な女性ですもの。普段は凛としているのに親しい方達の間でお見せになる表情が特に素敵ですの!」
「わかってるじゃないか!アレックス!そういう所が最も愛らしいんだ、カミラは」
「それでいいのか...グレイ」
カミラもそうですが、アメリアもリリーも違った魅力が素敵な方々です。
「アレクサンドラ嬢は女性しか褒めない印象があるのだが...」
「あら、ノア様失礼でしてよ。私だって、殿方に魅力を感じることくらい、あり、ますわよね?」
「何故疑問形なんだ」
「考えてみますと、異性を正直な言葉で褒めると口説いていると思われるのでは?と思っただけです。今後気を付けますわ」
「同性にも気を付けた方が良いのではないか?なあ?アウロラ」
「私はアレックス様の素直なお言葉を嬉しく思うのですが...。大切なお友達として肯定し合える仲を築きたく存じますわ」
「私もですわ、アウロラ様」
ジャクソン様が肩を落とされましたが、気にせず部室へと向かいます。
さて、残りの時間は以前よりマシュー様と相談していた実験を行わなければなりません。きっと面白いものができるはずです。




