貴女は美しい
ジャクソン様が国王陛下に相談した結果、ひとまずダリア・ブルーム様とお話をしてみて的確であるのならば問題ないという結果となりました。
現状。手段を選んではいられないということなのでしょう。
「それで、アレクサンドラ嬢、我々は隠れていた方が良いのだな?」
「ええ。緊張させてしまってはお可哀そうではありませんか」
「緊張、するか?」
「グレイ、少しは一般常識を身に着けた方が良いと思いますわ」
「お前だけには言われたくない」
普通に考えて、自国の王子に隣国の王子、女生徒の憧れの令嬢、方々から人気の男子生徒に囲まれて緊張しない方はあまりいらっしゃらないと思います。しかも、高位貴族の子息令嬢となればなおさら。
そこら辺の常識をグレイは身に着けた方が良いと思います。
「いらっしゃったようですね」
「グレイ、その魔術具の使い方は説明した通りです。起動してください」
「わ、わかった」
ダンジョンへ潜った際に発見したガラクタ、もとい、古代の魔術具の残骸が面白かったので直してみたのですが、まさかこんな形で披露することになるとは思いませんでしたわ。
「あ、アレクサンドラ様、ごきげんよう」
「ダリア様、ごきげんよう。急におよび立てしてしまい、申し訳ありません」
「い、いえ、そんな、」
「お変わりはありませんか?」
「はい、体調も良くなって、頭がすっきりして清々しい心地になりましたわ。アレクサンドラ様並びに皆様にはなんとお礼を申し上げたらよいか、」
「そ、そこまで恐縮しないでくださいませ。共に学園に通い、接点があった者ですから、気に掛けるのは当たり前だと思いますわ」
「な、なんて、お優しいの...」
ち、違います。ただ経過観察のために接触していただけなのですが...。黙っておきましょう。
「実は、本日は少しお願いというかご相談がありまして、」
「私にですか?アレクサンドラ様のお願いならば何でも引き受けますわ。それがたとえ過酷な命令だとしても」
「そ、そこまで重たく受け取らないでください。私は従属関係でなく友好関係を結びたいと思っていますの」
「失礼いたしました。それで、ご相談とは?」
ダリア様、真面目過ぎるところが少々心配になります。だからこそ洗脳にかかりやすかったのかもしれませんが...。
解けた後は後遺症もなく、私が使用した自白剤の副作用も見られなかったので安心しましたわ。もしこれで異常がありましたらダリア様のご家族から責を問われ、お返しと言わんばかりにお父様がお家自体を取り潰す可能性がありましたもの。
「あ、あの、アレクサンドラ様?」
「いえ、失礼いたしました。ダリア様は聖女候補についてどのように思われていますか?」
「聖女候補、ですか?そうですわね、私は実際にお目にかかれなかったのですが、片方は凛として、美しい佇まいの神秘的な方で、もう片方は天真爛漫で、可愛らしい方、とお聞きしていますわ」
なるほど...。神殿がどうにか良い方向に情報操作して入り努力が見えますわ。涙ぐましい努力です。
「実は、天真爛漫な聖女候補の教育係を現在探しているようですの。それで、ダリア様にお願いできないかと思いまして、」
「私に?ですか?失礼ながら、それは学生には荷が重いのではないでしょうか?」
この判断ができるあたり、やはり本来は非常に優秀な方なのでしょうね。
「仰る通りですわ。ただ、ユウリ様は大変気難しい方のようでして、同年代の教育係を御所望のようなのです」
私が指名されかけたことは黙っておきます。事態が厄介なことになりえます。
「聖女候補が、ですか?それは何とも珍しいような。普通ならば質の良い教師から教えを受け、さらに自身を磨き続けることが理想なのではないでしょうか...もしかして、見知らぬ大人の方々に囲まれて不安にさいなまれているのかもしれませんわね」
「今回、お教えするのは主にマナーや所作など貴族女性としての基礎の基礎の部分となります。教養についてはやはり、専門的な知識をお持ちの方が良いでしょうし」
「なるほど。それならば、何故私なのですか?言っては何ですが、我が家は高位に行くことは難しい中位の家です。教育に関しては高位の令嬢の方から学べるものは多いと思うのですが」
ダリア様の瞳には不安と困惑が滲んでおります。確かに、普通であればそうなのですよね。
「私が、ダリア様の所作が美しいと感じたからですわ」
「アレクサンドラ様が...?しかし、私は貴女を傷つけようとしました」
「それとは別に考えてくださいませ。共にお茶をした時にとても美しい所作だと見惚れるくらいに気品に溢れていました。お部屋の空間が良いとは言えない状況で貴女の雰囲気はその場をお茶会室へと変えてしまいましたわ。それに、立ち姿や歩き姿は見本として素晴らしいほど洗練されています。幼少期からの努力の賜物だと私は思っておりますの」
「アレクサンドラ様...」
「そして、最も重要な胆力が貴女には備わっております」
「た、胆力、ですか?」
「ええ。貴女はあの日、物怖じすることなく私を攻撃しようとしました。洗脳状態であったとはいえ、あのような行動を取れる方はなかなかいらっしゃりません。その胆力が少し悪い方向へ働いてしまった結果だと私は思っておりますの」
「アレクサンドラ様、あの時は、本当に、」
「ダリア様、お顔を上げてください。もう済んだことで私達は和解をしました。貴女はきちんと反省することができたのです。だから貴女はもう道を違えない、私はそう信じておりますわ」」
「はい、アレクサンドラ様」
ダリア様は涙を拭いながら微笑んでくれました。
「ダリア様、貴女の所作とそのお心は美しいものです。そのことを誇りに思ってよいと私は思うのです」
「あ、アレクサンドラ様、その、そこまで褒められると照れてしまいますわ...」
「失礼いたしました。やはり、笑った顔の方がより素敵ですわ」
「アレクサンドラ様が殿方でなくて良かったです。同じことを言われましたが、アレクサンドラ様の方が嬉しく思えますわ」
ダリア様は私が握った手をさらに握り返してきました。
「アレクサンドラ様のお願い、私は前向きに検討したいと思います。しかし、引き受けるには両親の許可が必要でして、」
「もちろんです。ご家族としっかり話し合ってくださいませ。断られたとしても、私が今話したことは偽りではありませんし、またこうして交流したいと思うかもしれません。その時は、お話をして良いですか?」
「アレクサンドラ様のご迷惑でなければ、ぜひ、お願いいたしますわ」
ダリア様と最後に握手をしてダリア様は退室していきました。
さて、あとは彼女のご家族がどう判断するかですね。




