心が広いわけではありませんわ
「なるほど...確かに大々的に行いつつもこれならば批判は少なくなるだろうな」
いくつかアイデアを出し合い、ジャクソン様もアウロラ様も納得のいく形に収まりそうで安心しました。しかし、婚約者という立場となられても完全に安泰とは言い難いのが現実です。
実際にその立場がひっくり返った事例もあるため、警戒しつつお2人の仲が良いことを常にアピールしていかなければなりません。
...。ジャクソン様がアウロラ様に現を抜かしていると思われない程度に。
「な、なんだ?アレクサンドラ嬢」
「いえ、ただ、やはり兄弟は似る者なのだと改めて実感しただけにございますわ」
「それは、嫌味ととっても良いのだろうか?」
「まさか...。家族を大切に思う気持ちは私も充分に理解しておりますわ」
「答えになっていない気もするが...。まさか、ジェイコブがまた迷惑を...?」
「接触もございませんのでご安心ください。別に憤りを感じることはありますが、恨みがあるわけではございませんので」
私がそう言うと皆さま驚いたように私を見ます。
「あれだけのことをされておいて、アレクサンドラ嬢は懐が広いのだな...」
「あら、今更ですの?アレックス様は心が広くて優しい方ですわ。最近はそうでもありませんが、少し前まで誤解されることが多くて心苦しく思っていましたわ」
「本当に辛いことがあったら僕たちに何でも言うんだよ?アレックス」
「下手な攻撃をする前に必ず言えよ?でないと危険すぎるからな」
「グレイは言い過ぎだと思うが、皆が君を心配しているのは本当だ。シャーロットにも快く対応してくれたしな」
皆様、様々な誤解をされているようです。グレイに関しては私を危険人物に指定している感が否めませんが。
恨みがないのは本当のことではあります。私の大切な感情をそのようなことに消費するのは実にもったいないですし、心を砕くのは大切な方々のみで十分です。
「ジャクソン様、次のお話に移ってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。すまない。それで、私に頼みたいこととは?」
「神殿の聖女候補、ユウリ様の教育についてですわ」
ジャクソン様はお顔を少し引きつらせました。
現状の報告はきちんとされているようですね。少しは良い方向に変わられたようで実に喜ばしい限りです。
「どの教師でも上手く教えられないようでな...どの者も傾倒しすぎるのがよくない」
言葉の端々から疲弊がにじみ出ております。
「アレクサンドラ嬢を教育係に、という話もいくつかあったのだがな...」
「私に神殿での教育は務まりませんわ」
「恐れ多い、とは言わぬのだな」
「マコト様の教育の関与している以上、その逃げは使えませんもの」
「逃げという自覚はあったのか...」
なにやら頭を抑えてしまわれました。
「君の教育を希望していたのはユウリ嬢本人なのだが...。」
「それは、大変変わった方なのですね。神殿側はお止めになったことでしょうね、私、神殿を出禁になっておりますし」
「その話、本当だったのか...」
今度は頭を抑えられています。
最近、お忙しそうに過ごしておられましたし、疲労でも溜まっているのでしょうね。
「あ、アレックス様は教師役に思い当たる方がいらっしゃるのですよね?」
「アウロラ様の仰る通りですわ。ただ、彼女も学生の身分ですので、ご家族や国王陛下の許可が必要だと思い、ジャクソン様に相談したい次第でございます」
「な。なるほど?それでその令嬢とは?言っては何だが、身分が低すぎる者や聖女に傾倒しすぎる者には任せられる者ではない」
「最低限のマナーであれば教えられるかもしれない方です。以前、所作などを拝見しましたがとても優雅で優美でしたわ」
「アレックスがそこまで褒めるだなんて珍しいな?頭でも打ったか?」
「良いものは素直に賞賛するのが私の主義です。校舎裏、もしくは闘技場で待っていた方が良いかしら?グレイ」
「じょ、冗談じゃないか。それで、どんな令嬢なんだ?」
「ダリア・ブルーム様ですわ」
その名前に部室の空気が凍ります。
ダリア・ブルーム嬢。かつて、香水騒動の際の被害者であり、私に危害をもたらそうとした加害者。
洗脳状態にあった彼女は様々な情報を提供してくださりました。現在は女生徒の間で孤立気味であるとか。
「アレクサンドラ嬢、正気か?」
「もちろんですわ」
「待て、アレックス。その令嬢は以前。洗脳状態にあったとはいえお前の命を奪おうとしたんだぞ?」
「そこまで記憶力は悪くありませんわ。それに、彼女とは1対1できちんとお話をして和解致しましたもの」
幻影魔術と自白剤を用いてのお話でしたが、和解は和解です。
それに、元来の彼女は聡明で穏やかな方。そのような方だからこそ洗脳されてしまったことは残念ですが、起こってしまったことは仕方がありません。
「彼女以上の適任を私は存じ上げませんわ」
「理由を聞いても良いだろうか?アレクサンドラ嬢、其方のことは信頼している。誰かを巻き込むことをあまり良く思っていないことも知っている。そして、反省の意思があるのならばそれこそ重罰を望んでいないからこそ、彼女を被害者として扱うことにしたのだろう?」
表向きの理由はそのようになっていますわね。正確には情報源として情報提供をしていただくためでしたが。ついでに、貸しを作るという目的もありました。
「もちろんですわ。では、理由を説明いたします。まず、先ほども申し上げた通り、所作が大変優雅であり優美であること。次に、彼女の名誉をある程度まで回復するため。そして、神殿に受け入れられやすい人物であるということです」
「名誉の、回復ですか?」
「ええ。彼女の立場は今なお、厳しいものです。被害者であることを強調しましたが、私に害を為そうとした事実は変えられませんから。ですが、聖女候補に所作の指導を行ったとなると彼女を見る目も変化するでしょう」
「な、なるほど?でも、神殿に受け入れられやすいというのは?暴力的な行為をしようとした人間を神殿が受け入れてくれるかどうか...」
マシュー様の指摘は普通であれば正しいものです。そう、普通であれば。
「神殿はアレックスと敵対関係にある。そのアレックスに危害を加えようとした令嬢。つまり、神殿側の人間として受け入れられる可能性が高いということか?お前は王族とも関係が深くなってしまったからな」
「グレイの仰る通りですわ」
「苦々しい顔をするな。ジャックが傷つくだろうが」
「グレイ、その言葉が今最も私の心を抉っているのだが...」
各々思う所はあれど、納得はしてくださったようです。
「聖女候補に傾倒しすぎないというのはどうなんだ?この国の人間は神殿を神聖視しているのだろう?彼女も聖女候補に傾倒するのではないか?」
「そこは、恐らく問題ないと思いますわ」
「いったい、何を根拠に...」
あの後、接触してわかったことではあるのですが正直、厄介ではあるものの利用しない手はないというものです。
「...。わかった。父上に話を通してみよう。ただし、アレクサンドラ嬢、君の直接の説明を求められる可能性がある」
「その時はお任せください。お父様と共に向かいますわ」
「こ、侯爵も、か?」
「当然ですわ」
だって、面倒な勧誘をされても嫌ですし、ね。
下校時間となり、本日の活動はこれで終わりとなりました。




