物騒ではありません
翌日、約束通りグレイはジャクソン様を部室へと連れてきてくださりました。
やるべきことを成せていないと不満げではありますが、それは一旦無視を決め込みます。
「アレックス、連れてきたぞ。逃げ出さないように縛った方が良いか?」
「グレイ、よくやりましたわ。さすがに縛らなくても良いですが」
「俺は、誘拐現場を見させられているのだろうか...?」
私とグレイの会話をノア様は引いた目で見ていました。
若干、不穏な感想が聞こえた気もしますがそちらも聞こえなかったことにします。
「グレイ、アレクサンドラ嬢、いったい何のつもりだ?マシューとアウロラが見たら卒倒するぞ」
「ジャック、何を言っているんだ?この程度で卒倒する人間はいないだろ?」
「卒倒なさらないために拘束は行っていないのですが...」
「君たちが自国の王子に対して経緯を払うつもりがないのは理解できたよ...」
うなだれた様子でジャクソン様は大人しく席に着かれました。
「アレクサンドラ嬢もグレイもジャクソン殿に対して当たりが強くはないか?」
「2人とも、何か私に恨みでもあるのか...?正直、君たちは敵に回したくない。アレクサンドラ嬢だけでも厄介だというのにグレイまで敵になってしまったら...」
「ジャクソン様、落ち着いてください。私達、特に恨みは抱いておりませんわ」
「抱いていないのに物騒な言葉が出てきたのか...」
「ノアもノアで神経質すぎないか?」
「俺とジャクソン殿がおかしい、のか...?」
アウロラ様もマシュー様ももうじき来られるでしょうし、お茶の用意を致しましょう。
「申し訳ありません、遅くなってしまいましたわ」
「僕も、遅くなって、すま、な、い?...この状況は?」
入室後、アウロラ様とマシュー様は大変驚いた表情をされていました。
項垂れているジャクソン様に、何やら自問自答しているノア様、ため息を吐きつつ武器の手入れをしているグレイに、お茶の用意をしている私。
なんて、カオスなのでしょう。
「アウロラ、マシューどうにか知恵を貸してはくれないか?」
「ジャクソン様、いったいどうしましたの?なにがあったのですか?」
「アレクサンドラ嬢とグレイの機嫌を取りなす方法を考えてほしいのだ」
「えっと...?アレックスもグレイも不機嫌なようには見えないのですが...」
「お茶の用意ができましたわ。グレイも武器を仕舞ってください。ジャクソン様が怯えていますわよ」
「しかし、リックと手合わせをするんだ。しっかりと磨き上げておかねば」
「もう少し後のことでしょう。それよりも議題が大切です」
私がお茶をテーブルへ置くとグレイも渋々と武器を仕舞いました。
ジャクソン様もほっとした表情を浮かべ、お茶を受け取ります。状況がイマイチ呑み込めていないアウロラ様とマシュー様も席に着かれました。
「それで、アレクサンドラ嬢が言っていた議題とはなんだ?また新たな魔法陣でも発見したのか?」
「違いますわ。グレイ、貴方から話した方が良いと思いますわ」
「まあ、確かに...そうか...ジャック、大事な話がある」
「な、なんだ?」
グレイの真剣な様子にジャクソン様も表情を固くします。
一大事ではありますが、そこまで気負う必要はないのに...。
「アウロラ様との婚約発表についてだ」
「あ、ああ!そのことか!実は素晴らしい計画を練っている最中でな、半日大通りでパレードを行った後に大規模な祝宴を開くつもりなのだ。それから、その日を婚約の日と制定し、毎年恒例の祝日に、」
「正気か?」
「もちろんだ。アレクサンドラ嬢と魔王殿から派手にやった方が良いとの進言を貰ってな、大通りの封鎖についてはこれから、」
「アレックス、思い切り毒を吐いてやれ」
「それでは私が不敬になってしまいますわ。グレイが吐かれてはどうですか?友人間のものであれば大目に見てもらえるはずです」
「いったい、どんな暴言を吐くつもりなんだ?君たちは...。」
今日のノア様は頭を抱えてばかりいますね。
「ジャクソン様、私のためにそこまで考えてくださるのは嬉しいのですが...その準備のせいで体調を崩されないか心配なのです。私は私を大切に思ってくださる方達がこの婚約を認めてくださるだけで胸がいっぱいになるくらい嬉しく思います。ですから、」
さすがアウロラ様です。ジャクソン様の体調を第一に感がる姿勢でどうにか婚約発表の縮小化を図ろうとするだなんて。
「アウロラがそこまで言ってくれるとは...わかった。これまで以上に準備に取り組むとしよう」
しかし、ジャクソン様には通じなかったみたいです。
致し方ありません。ここは私とグレイで援護射撃をしましょう。
「ジャック、最近公務も立て込んでいるのだろう?これ以上婚約者であるアウロラ様に心配をかけるのはやめた方が良いのではないか?」
「グレイ、しかしだな、愛しい婚約者のためだからこそ頑張れるものだろう?この国で1番の女性はアウロラだと知らしめる必要があると私は思うのだ」
「婚約者のために、まあ、気持ちは分からなくもない」
グレイ、そこで折れないでください。感情を刺激する方法は高揚感により打ち消されるみたいです。
「ジャクソン様、今の国内の情勢についてどう思われますか?」
「安定しているだろう?聖女候補が現れたといえ、まだ聖女になると決まったわけではないし、今の状況だからこそ、アウロラの立場を固めるべきだと、」
「確かにそうですわ。しかし、見積もりが甘すぎますわ!そのような様子で私の大切な友人であるアウロラ様の身を預かるなど言語道断ですわ!」
「あ、アレックス様!」
「まてまてまて!アウロラもなぜときめいているのだ!?そもそも、君にそんな権限は、」
「権限はなくともできることは世の中に多くありますのよ?」
アウロラ様のご家族や国王陛下に根回しさえしてしまえば延期など容易いものなのです。あまりやりたくはありませんが。
「確かに...アレクサンドラ嬢ならば、出来てしまう...。しかし、私はアウロラとの婚約を諦めるつもりはない!」
そして、私とジャクソン様による議論が幕を開けるのです。




