ある意味一大事
お茶を飲みつつ雑談をしていると疲れた様子でアウロラ様がやって来ました。
「遅れてしまい、申し訳ありません」
「いえ、しかし、お疲れの様子ですが、どうかされましたの?」
「ええ、少しだけ聞いていただきたいことがありますわ。特に、アレックス様」
「私に、ですか?」
首を傾げつつもアウロラ様の分のお茶を用意します。
少し飲んだ後にアウロラ様は落ち着いた様子で話されました。
「いくつか、意見をいただきたいことがありますの。アレックス様からは淑女の目線で、殿方の皆様からは殿方の目線で意見をいただきたいと存じますわ」
「いや、アレックスに淑女としての意見を聞くのは...」
「よろしいですね?」
「は、はい」
グレイの無粋な一言はアウロラ様の笑顔により散りました。
皆、真剣にアウロラ様に視線を向けます。
「婚約発表のことなのですが、」
「学園内ではかなり噂になっていますわよね。ジャクソン様が大変張り切られた様子ですが、」
「うん、男子生徒の間でもかなり噂になっているよ。ジェイコブ様が話していたのもあって、」
第2王子の話は極力耳にしたくはありませんでしたが、兄弟仲はよろしいようですし、自慢のお兄様を誇らしく思い、周囲に自慢したくなる気持ちは分からなくもありません。
同類としては扱われたくありませんが。
グレイ、その憐れむような視線はやめなさい。
「だが、婚約発表で頭を悩ませているとは、アウロラ嬢はジャクソン殿との婚約に不満があるのか?」
「そういうわけでは、ありませんわ...ただ、」
「ただ.?」
アウロラ様はため息を吐かれた後に意を決したように言葉を紡ぎました。
「婚約発表の日を、特別な祝日として扱おうと調整をし始めていて、」
「「は?」」
グレイと声が重なってしまい、思わず口を抑えます。淑女らしからぬ声を発してしまいましたわ。
ノア様とマシュー様も驚きのあまり固まってしまわれました。
「やはり、一般的な事ではありませんよね?いえ、王族の方の意を一般的な視点で考えてしまうのは無礼なのは理解していますわ。だとしても、」
「お、落ち着くんだ、アウロラ嬢」
「そ、そうだ。ジャックが急にどうしてそのようなことを言いだしたのか心当たりはありませんか?」
「それが、発表は大々的に行った方が良いと話は以前よりいただいておりましたの。少々お恥ずかしい気持ちはありますが、嬉しい気持ちもございましたわ。ただ、パレードや祝日の制定までは想定していませんでしたわ」
大変困惑されていますが、この原因はもしかしたら私とオスクリタにあるのではないでしょうか?冷や汗が背中を伝います。
グレイ、やめなさいその視線は。この中で1番危機感を覚えているのは私なのです。
「アレックス、お前ジャックに何を吹き込んだんだ?」
「ふ、吹き込んだとは失礼ですわ。私は想定外のことに困惑しているのですから」
「アレックス様は何かご存知なのですか?」
「存じ上げていますというか、何と言いますか、」
ここは、素直に白状した方が良いのかもしれません。
「確かに、ジャクソン様にアウロラ様との婚約発表は大々的に行った方が良いとオスクリタ、魔王様と共に進言は致しました」
「やっぱり、お前が原因か...」
「グレイソン様、落ち着いてください。アレックス様がそのようなことを無責任に言うはずがありません」
「アウロラ様はアレックスに甘すぎます」
「グレイソン様が厳しすぎるのです」
「どちらかというと、アレクサンドラ嬢がグレイに対して厳しすぎるのではないか...?」
ノア様、静かに私を刺さないでください。
「と、とりあえずアレックスはどうしてそんなことを進言したのか聞いてもいいかな?」
マシュー様が場を落ち着かせるように仰ってくださいました。
「聖女候補が降臨した今、アウロラ様の立場を盤石にするには今しかないと考えたからですわ」
私の一言に皆様真剣な表情をされました。
聖女候補は次年度に学園に通うことになります。候補とはいえ、特別な存在として扱われることになるのでしょう。
「神殿側は王族の方々と聖女候補を接近させようと画策する可能性がございますわ。ジャクソン様がアウロラ様を離すつおちもりはないでしょう。ですが、世間はそう見てくださらないかもしれません」
「聖女伝説、か」
「グレイの仰る通りです。貴族も平民も皆、幼き頃から耳にするそのお話に親しみを覚えております。伝説の聖女と王族が同じ学び舎で過ごしたという事実から逃れる方法はありません」
「それならば、外堀を先に埋めてしまおうということか...。お前、そんな高度な戦術思いつくんだな」
「グレイ、失礼ですわ。私は常に考えて行動していますのに」
「そのように見えないから言っているのだろう。だが、お前が危惧していることは分かった。問題は、」
「ジャクソン様があまりにも高揚してしまったことですわね」
国王陛下が成長してくれたと以前誇らしげに仰っていましたが、アウロラ様を前にすると何も変わっていないのかもしれません。
「やはり、殿方からしてもジャクソン様の高揚はおかしく見えるのですね...」
「おかしくないとは、思いますが、王族以外にそのような発想はないし、できないというか、」
グレイが視線を逸らしながら言います。カミラへの態度を考えると納得感しかありませんが。
「結婚式当日を祝日にされたりパレードをされるのは恒例となっているとお聞きしたことはありますが、まさか婚約発表で行おうとするとは思いませんでしたわ。どのように予算を確保されるおつもりなのでしょう?」
「王族の活動費から出るとは思うが、」
「...。グレイも同じことを考えたのではありませんか?神殿側から詰められそうですよね...。」
聖女候補の部屋を王宮に用意するように要望するくらいです。予算と時間を言い訳に断っていますのに。
ノア様1人だけ首を傾げられていますが、それは隣国の王族として予算区分についてきちんと理解されているからなのでしょう。
国民からしてみればどこに宛てられた予算かはあまり関係ないのです。お金はお金で、国家運営予算は国家運営予算という大きな枠組みでしか認識していない方が大多数なのですから。
「アレックス、明日は必ずジャックを部室へ連れてくる」
「承知しましたわ。アウロラ様もジャクソン様へ言いたいことをまとめておきましょう。これは一大事です」
「か、かしこまりましたわ」
アウロラ様は困惑しつつも頷いてくださりました。




