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勇者召喚の儀

「……どういうことですか?」


 気味の悪い笑みを浮かべる目の前の男を、マリアは大きく見開いた瞳で見つめる。


「神聖アルテミス王国の王女によって行われる儀式……と言えばあなたにも伝わるでしょうか? そうです、【勇者召喚の儀】ですよ……」


 マリアの手から飴玉の詰まった瓶が滑り落ちて、辺りにガチャリと耳障りな音が響いた。




***




 元来、レイミールが感情を表に出さないのは、一々それをするのが面倒だと言う、強烈な怠惰からくるものである。


 【魔王族】


 これだけを聞くと酷く恐ろしいモノのように感じないこともないのだが、果たしてその実態は酷く面倒な問題を抱えた困った奴らだ。

 酷く面倒くさがりだったり、感情の一部が欠如していたり、子供のようだったり、馬鹿みたいに堅物だったり、馬鹿だったり、鬼畜だったり、外道だったり、寂しがり屋だったり、しゃべれなかったり、偉そうだったり、絶対に勝負どころでは勝てなかったり、常識が無かったり、醜かったり、逆にムカつくほど美形だったり、差別主義だったり、嫌味な奴だったり、実はいい奴だけど悪ぶってるめんどくさい奴だったり……エトセトラエトセトラ……


 というわけで、例にもれずレイミールもそれはそれなりに面倒臭がり屋なのだ。その他の面で大した問題を抱えていないので、まあ彼女は魔王族の中でもマシな部類に入るわけではあるのだが……

 旅仲間の行方が分からなくなっている際にも面倒としか考えていない彼女は血も涙もないと言えば無いのかもしれない。


 嫌味なほどに雲一つない青空を見上げながら、商店街のざわめきを耳に入れてレイミールは考え込む。もちろん行方知れずの迷惑王女、マリアの事などでは無い。


 どうやって自分の屋敷に帰るのか、ということだ。

 異世界だか何だかは知らないが、この異世界とやらとレイミールのいた世界が何やら怪しい儀式で一時的にでも繋がりを見せたのならば、帰れる可能性は零では無い。


 酷く面倒臭がり屋だとしても、何もしないでこんなわけのわからない世界で生きていくなんてとんでもない。初めはここのやり方に合わせていこうとは思ったものの、価値基準が違いすぎるが故に、疲れるのだ。


「……そういえば」


 不意にそう呟いたレイミールは若干欠けたティアラを一撫ですると、眉を吊り上げる。


「何か大事なことを忘れている様な……」


 何だったか自分が、ひどく小さい時の事なのは分かるのだがそれが何だったのかさっぱり思い出すことができない。


 確か白くてふわっとしていて金属的だった気がするのだが……


「勇者様~!! 玉が帰ってきましたよ!!」


 と、ここまで考えた所で、ティアの呼ぶ声が聞こえてレイミールはそちらへと目を向ける。どうやら、大昔レイミールが父から貰ったティアラを粉砕した玉が帰って来たらしい。

 恐らく父の気紛れだったのだろうが、レイミールがまだ小さい時にこのティアラを父が買って寄こしたのだ。当時は大きすぎて上手く頭に付けられないティアラに、腹を立てて何かしたような気もするのだが……あいにく記憶が曖昧だ。

 ところで実はレイミールが父からもらい受けた物は土地と屋敷以外ではこのティアラだけだったりする。だから思い入れがある……というのでは全くないし、別に欠けたままでも大いに結構なのだが末の妹が見たら何やら口うるさくティアラについて言いそうなので、不安だ。

 

 そう言う意味では絶対に末の妹のいないこの異世界も悪くないのかもしれないが。


 

 少し離れた所にいたレシアムとティアの元へと向かうとティアの掌には一つの玉が転がっている。


「戻ってきたのは良いんですけど……どうやって王女様の居場所を突き止めるんです?」


 レシアムの疑問に、ティアは答えることなく玉を軽く上へと放り上げる。

 と、先程までくすんでいた玉が妙な光を放ちながら、ティアの頭上でピタリと止まった。しばらく不安定な様子でフワフワと漂っていた玉は、ゆっくりと移動を開始する。


「この玉について行けば、恐らく王女様が見つかると思うのですが……」


「随分と簡単なんですねえ……」


 玉について行けばマリアに行きつくのかもしれないが、すでに息絶えていた……ということも十分あり得そうだし、そうしたら魔物退治どころの話ではなくなるなぁなどとのんきに考えながら、迷惑王女を探しに勇者と呼ばれる魔王の娘を含む一行は、その場を後にした。




***




「……なっ、何のことですか!? ふざけないでください!!」


 【勇者召喚の儀】

 

 神聖アルテミス帝国が代々行ってきた国の極秘事項。


 ……その極秘事項が漏れている。

 

 その事実にマリアは自分の体から血の気が無くなっていくような錯覚に陥る。どうしてこの男が儀式について知っているのか、今はそれだけがマリアの頭をグルグルと回っている。


「マリア殿、彼方は言わば我々の捕虜になったも同然なのですよ。大人しく勇者召喚を行ってくだされば、今後もあなた達の国とは仲良くさせていただきたいと思っているのですがね……いかがでしょう?」


 にたりと笑う男に、震える喉から絞り出すようにマリアは声を出す。


「……っ! ですが、どちらにせよ私は勇者召喚は行えませんっ!!」


 マリアの言葉にすっと男の表情が無くなる。

 しかし、何か思い当たる節があったのか「あぁ」と小さく呟くと彼は口を三日月の様に歪めて嗤った。


「……勇者召喚に必要な魔法陣でしたらこちらですでに用意してあるのでご心配には及びません……」


「……えっ!? それは一体……」


 どういう意味だ、と続けようとしたところで急にマリア達のいる異様な白さを放つ部屋が揺れ始める。へやに置いてあった家具が音を立てて倒れる。


「きゃあっ!!」


 自分の足で立っていられないほどの揺れが大きくなり、堪らずマリアは膝をつく。

 しかし、目の前の男はまるで何事もないかのように酷い揺れの中、酷く気持ち悪い笑みでマリアを見下ろしていた。

 


 レイミールとマリアの置かれている状況にはかなーり温度差があると言うことで……まあ、次回に期待してやってください。

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