見えない目的
「……本当にアルテミスの王女で間違いは無いのだな?」
「……我が刺客から得た情報では王女マリアは勇者と共にこの国へ向かったとのこと、……この数日間、民衆の中にまぎれた刺客が町中の女性を調べ上げたのです。間違いはありえません。それに彼女の持ち物の中には王家の紋様が彫られた装飾品も見つかりましたので」
恰幅の良い男性の問いに確かな自信が込められた言葉を返す若い男。若い男の顔は無理矢理張り付けたような妙な笑みを作っている。
―――そう、彼はマリアが部屋で対面した男だ。
「ふん、まあ良い。 ……アルテミスの王女が手に入ればこちらのものだ……手筈通り頼む」
「かしこまりました」
***
どれくらいたったのだろう。部屋を隈なく調べたが、出口のでの字も見つからない。
部屋を探して見つけたものと言えば透明な瓶にぎっしりと詰まった飴玉だけなのだ。
「……うぅ……一体どうすればいいのよぅ……」
ジワリと涙腺が緩む。
もうこのまま国に帰るしかないのか。……そもそも、自分はどうなってしまうのだろうか……
大きな不安が彼女を襲うが、ついこの間まで城からは一歩も出たことのないマリア。不安を解決できるだけの能力は無い。まあ、そもそもそんな能力必要無かったのだから、仕方無いと言えば仕方ないが……
自分のお腹が小さな空腹を訴える。
ペタリとその場に座り込んだマリアは仕方無く手に持った瓶のふたを開けて中の飴玉を一粒、口に放り込んだ。
「……私の持ち物も無くなってしまったし……」
そう呟いて、ますますマリアはがっくりと肩を落とす。
無理だ。どう考えても無理だ。生まれたての赤ん坊に立てと命じても、立てないように、オタマジャクシを陸に上げても生きてゆけないように、マリアがここから自力で抜け出すのは無理なのだ。
「ぅう……誰かぁ……助けてよぉ……」
悔しかったり、悲しかったりの感情が一気に押し寄せてきて、マリアはポロポロと涙をこぼす。
口の中に転がしていた飴玉もいつの間にかとろけて無くなってしまっていた。
「……ぅうぅっ、ひっくっ……ぅう」
真っ白な部屋で響くのはマリアのすすり泣く声だけ。それがますます悲しさを増長させマリアは本格的に鳴き声を上げそうになっていた。
ガチャリ。
と、突然先程までびくともしなかったドアが音を立てて開く。
マリアの涙でぼやけた視界に移ったのは、家令と名乗ったあの男だった。
「……マリア様、準備が整いましたのでこちらにどうぞ」
「準備……?」
帰る準備の事だろうか?
いや、さすがにそれはありえない。だってまだ一日もたっていないのだ。
一般の旅人なら、そりゃあ町の馬車やそれなりの手段で好きな時に移動が可能だろうが、一国の家出王女を国に返す準備にはそれ相応の時間がかかる。
「……準備って一体何の準備ができたんですかっ?」
質問に答えずにずっとニコニコと笑みを浮かべる家令にやや口調を強めてマリアは再度問うた。 ―――と、それまで小さな笑みを浮かべていただけの家令の口端がニタァと持ちあがる。その表情は、マリアに初めて人間に対する嫌悪の感情を抱かせた。
「何って……決まっているじゃないですか。神聖アルテミス帝国のマリア王女様……彼方のすることと言えば……もう答えは一つしかないではありませんか」
***
「だ、大丈夫ですか勇者様!?」
衝撃で倒れた身体をゆっくり起こすレイミールにティアは駆け寄った。レシアムはと言うと掌に転がる玉とレイミールを見比べて顔を青ざめている。
「ああ、私は問題ない」
痛む頭に手を回し、自分の頭からティアラが外れていることに気が付く。キョロリと辺りを見渡すとだいぶ離れている所に転がっていた。
拾い上げるとティアラの一部分が欠けて壊れてしまっている。それを見てティアはひどく申し訳なさそうに口を開いた。
「あ……その、ごめんなさい……私のせいで」
「いや、気にするな。私にも責任はある」
屋敷に戻りたいと思ったこととか……
少しだけ欠けたティアラをいつものように付け直すと服に付いた土を払ってティア達に向き直る。
「……で、お前達はどうするのだ?」
―――玉を使うのか使わないのか。レイミールの言葉にレシアムは青い顔のままで勢い良く首を横に振った。
「あ、私はさっき勇者様と一緒に飛ばしておきました。勇者様の玉も見当たりませんし……とりあえずは王女様を探してくれると思いますよ?」
空を見上げながら呟くティアを見て、レイミールもそちらを見上げる。
城下町に来た時から少しも変わらぬ青空が広がっていた。
お読みくださりありがとうございます。
なんか、話の内容が唐突な感じがしないでも無いですが……
ようやくこの家出王女編が本格的に始まる……のかな?
(いやまあ、編とか言うほどのもんじゃないですが……)




