衝撃の王女
『さすらい旅の香亭』
古くより商人の交流によって栄えてきたこのライラント王国。商人が商売をすれば人が集まる。人が集まればそのうちに物が集まる。香辛料、変わった野菜、珍しい動物の肉、魚、などなどなど……食材に限定してもこの物の豊富さ。
そんな東西南北より集められた貴重な食材を惜しみなく使った料理が出されるのがここ、『さすらい旅の香亭』なのである。
食事を楽しむ村人の楽しげな声の響く、そんな店内で妙に神妙な顔つきをしている三人がいた。
「いいですか? 仮にもここは他国の領地。一応アルテミスとは同盟関係にあるライラントですが……マリア王女の正体がばれてしまったらどうなることか……」
レシアムの言葉にティアが若干顔を青ざめながら答える。
「……極端な話になるけど、ライラントが王女様を人質にして、アルテミスに脅迫してこないとは言い切れないわよね」
「それならまだいいですが、賊につかまって酷い目にあわされたりしていたら……」
「…………」
押し黙ってしまうレシアムとティア。二人の間には重い空気が漂っている。
が、そんな空気はお構いなしに、それを跳ね飛ばしてしまうのではないかという笑顔で、『香亭』の店員が料理を運んできた。
「お待たせしました!! こちら鶏肉の甘辛炒めになります!!」
「私だ」
レイミールは店員に短く返事を返す。はーい、と笑顔を絶やさないまま手に持っていた料理をレイミールの前に置いた店員は、店内で響く客の話し声や笑い声にも負けない大きな声で「ごゆっくり~!!」と口を開くと慌ただしく店の奥へと戻って行った。
店の中はほぼ満員。店員も忙しいのだろう。
しばらく店員の方へと目を向けていたレイミールであったが、それにも飽きたのか、目の前のほかほかと湯気を立てている料理へと向き直った。
と同時にレイミールは二人から強烈な視線を向けられていることに気がついた。
「………………? お前達も食べたいのか?」
「「そんなわけないでしょうが!!」」
***
パクリ
「……いける」
「……いける……じゃねえんですよ、ほら、今大事な話してるんですから!!勇者様もなんかいいアイデア無いんですか?」
もぐもぐもぐと料理を食べ続けるレイミールは全く返事を返そうとしない。
大きくため息を吐いたレシアムはテーブルに突っ伏しながら重たい口を開く。正直、もうどうでも良くなってきてはいるのだが、口が裂けてもそれは言わない。というか言えない。
「あ~……で? 結局どうします? このまま国に帰ったら極刑がまってるってことは決まってるんですけどね……」
極刑の言葉に顔を顰めるティア。まぁ、勇者は言わずもがな、全く意に介していないようだが、普通極刑なんて聞いたら誰だって嫌になるものだ。ただ……全くこの状況を好転させられる気がしない。そもそも手段が無いのだ。
と、しばらく頭を抱えて悩んでいたらしいティアが良いことを思いついたとばかりにパチリと手を鳴らす。
「……なんです?何かいい案でも浮かんだんですか?」
顔を上げてチラリとティアを見上げるレシアムに、得意げな顔でティアは頷いた。
「ええ、私の魔法を使えば良いのよ!」
「ありがとうございました~!!」
元気の良い店員のあいさつを背中に、『さすらい旅の香亭』を後にする。
「で? さっき魔法がどうのこうのって話ですけど」
「まぁ、そう慌てないの……」
口元に笑みを浮かべたまま、ティアは自分の荷物道具の中から小さな玉を三つばかり取りだして、一つずつレイミール達に手渡した。
「なんですこの薄汚れた玉は?」
掌にちょこんと乗っかる何の変哲もない玉に穴が開くのではないかというほど食い入って見つめるレシアムにティアは胸を張って答える。
「私の魔力が込められている魔術道具よ。本来は念じた目的地に案内してくれるって道具だけど、王女様のいらっしゃる所って念じればそこまで案内してもらるはず……」
「……な~んか、胡散臭っ……ってかあなた魔術師だったんですねぇ。なんか、ず~とそういった活躍が見られないのでね……すっかり忘れていましたよ」
ティアの額に青筋が浮かんでいる。もう一声あればティアが大噴火するのは間違いない。レシアムが畳み掛けようと口を開く前にレイミールはティアへと確認を取った。
「……本当に念じるだけで良いのか?」
「あっ―――っはい。大丈夫ですよ」
レイミールは目を閉じる。
目的地は……
と、ここまで考えて、ふと自分の屋敷という考えが浮かんだ。ここが、どこぞの異世界だとか何だとかは知ったことではないが、魔法の力があれば関係無いのではないのではないか…………今、帰れる大チャンスが巡ってきたのではなかろうか?
珍しくレイミールの口元に笑みが浮かぶ。
刹那、彼女の手に乗った玉が光を放ったと思うと、眼にもとまらぬ速さで飛びあがり
―――レイミールの頭部へと直撃した。
続く……




