《辿り着く答え》
薄暗い部屋の中、チカチカと消えたり灯ったりを繰り返している蛍光灯がそこにいる者達を照らす。ようやく目を覚ましたソフィアは、無機質で金属的な固い椅子に座らされていた。ソフィアの両脇にはエミリアと魔王の側近が同じように座らされている。
面白みのない長方形のテーブルの上には、博士がソフィアのために用意した珈琲が、美術的こしらえなど皆無であるカップに注がれて置かれている。そのカップが彼女の前に置かれてから少なくは無い時間がたっていたが、ほとんど量は変化していない。
珈琲はそれほど好きではないと言うのもあるし、何より、目の前の博士の風貌では意識を保っているのがやっとなのだ。
「いやはや、王族の王女様にこのような場所まで足を運ばせてしまい大変心苦しい」
博士はそう言うとソフィアに向かいあうように椅子へと腰を下ろす。そうして、ようやくソフィア達はまじまじと博士の姿を見ることになった。
***
「ほう、あの姫君が行方不明……他のご兄弟の刺客に襲われた訳でもなく、賊に攫われた訳でもなく……忽然と姿を消したと?……」
エミリアの話を聞いた博士はどこか面白そうに言葉を発すると、顎(正しくは顎に相当する部分)に手を添える。何かを考えているのだろうか……
もし仮に、兄弟の内の誰かの手によってレイミールが襲われていた場合、黒の王女を打ち取ったと言う騒ぎや、王女を捕えたという強迫が来ていてもおかしくは無い。
だが、まるでそう言った動きが無い。ましてや、王族の屋敷にその辺の賊が、護衛のエミリアに気付かれぬほど巧妙に侵入することなどまず不可能である。
つまり、考えられるのはレイミール自身が勝手に屋敷を去ったか、もしくは何らかの事件や事故により突然、屋敷からいなくなったと考えるのが妥当なのである。
まあ、しかし、仮にそうだったとしても一体どこに行ったのかは皆目見当もつかないのだが。
「一体どこに行ったのでしょうねぇ……」
ズズズ……と音を立てながら、魔王の側近は出された珈琲を飲む。彼の発言には特に心配などの感情は見られない。まあ、実際魔王の側近にとって数ある魔王の子供のうちの一人、や二人、行方が分からなくなったからどうしたと言うことだろう。
最後はどうせ一人になるのであるし。
「……所で気になっていたのですが、なぜ行方の分からぬ姫様を探すのに、第三王女であらせられるソフィア嬢が協力を? あなたにとって第二王女である彼女は行方不明のままの方が都合が良いのではないですかな?」
博士の疑問に側近とエミリアの視線がソフィアへと向いて、皆の視線がソフィアに集まった。なんだか居心地が悪くなってエミリアは目をそらす。
「別にっ……お姉さまには借りがあるからそれを返しているだけだ。 それに探偵ごっこも面白そうだしっ……」
へぇ…………
若干胡散臭い物を見るような目で見られた気もしないでもないが……ソフィアはそれを無視して目の前の珈琲を口の中に流し込んだ。
強烈な苦みが口の中に広がり、若干ソフィアはせき込んでしまう。
やはり珈琲は好きになれそうもない。
変な醜態をさらしたことを後悔しながら、それを紛らわせるようにソフィアは博士へと口を開いた。
「で!? どうなんだ? 何か方法はあるのか?」
「まぁ、無いわけではないのですがね……はっきり言ってあまり良い手段とは言えないのですが……」
「何でもいい!! はやくその方法とやらを教えろ!!」
「はあ……」
曖昧な返事を返す博士は何とも気が進まなそうにしながら、口を開いた。すでに脳味噌頭に怯えていたソフィアはここにはいない。イライラを隠そうともせず辺りにぶちまけるそんな若干わがままな王女が博士の答えを待っているだけだ。
「実はですね、あの……姫様のティアラには私の開発した発信器が取りつけてあるのですよ……」
「発信器?」
「実は、まだソフィア嬢が生まれる前……姫様が今のあなたの年齢よりも小さかった頃から彼女とは面識がありましてね」
意外だ。姉がこんな気味の悪い脳味噌頭の、しかも研究室にこもりきりで人付き合いがあまり得意ではなさそうな博士に自分よりも小さな頃から出会っていたとは……
だが、逆にあの姉ならば十分に考えられるだろうか?
と、それまで、ほとんど口を開かなかったエミリアが意外そうに口を開いた。
「…………もしかして、お嬢様の仰っていたミシェルとはあなたのことだったのですか?」
「!? そうですよ? たしか、幼いころの姫様は私をミシェルと呼んでいましたが……」
ソフィアはもう一度よく博士の容姿を観察する。薄肌色に毒々しく血管が浮き出ている脳味噌頭は、ミシェルなんてかわいらしい名前を付けるにはいささかイメージが合わなすぎるのではないだろうか……
「幼いころに、お嬢様がよく話していたので……なんとなく覚えていたのですが……まさかあなたとは……」
エミリアはじいっと博士に視線を向けながら、イメージとだいぶ違う……などと呟きながら、珈琲をすすった。
「……まあ、なんですか……そんな時に、どういうわけか私の発明品を姫様にお渡しする機会がありましてねぇ……」
何がどうして、この脳味噌博士の発明品が彼女へと渡ったのか非常に気になるところではあるが、ソフィアはそれをぐっとこらえると、本題を進める。
「で、その発信器を使えばお姉さまは見つかるのか?」
「はい、私の手元にある、機具を使用すれば、姫様のティアラに装着されている発信器からの電波で、どこにいるのかすぐに分かりますよ」
「なんだ……別にもったいつけて話す程の事じゃないな……それなら、さっさとその発信器とやらでお姉さまの居場所を突き止めれば良いじゃないか」
「はぁ……」
あまり気乗りしない博士の様子に、ソフィアは若干疑問を感じつつも、器具を持ってくるために部屋の奥へと消えていく博士の後姿をぼうっと眺めていた。
***
光沢のある真っ黒いモノ。何でできているのか分からないつるつるとした線が延びていて、奇妙なスイッチがいたるところに付いている。
「……何だこれは……」
若干エミリアの背に隠れつつ、博士が重そうに持ってきた黒いモノを見ながらソフィアは呟く。
しかし、小さくて聞こえなかったのか、はたまた説明するのが面倒だったのか、博士はそのつぶやきに答えることなくその黒いモノのスイッチの一つをカチリと押した。
奇妙な音を立てて真っ黒いモノの一部が青白い光を放った。
「ひぃっ!!」
小さな悲鳴を上げたソフィアは、次の瞬間息をのんだ。
黒いモノから出る青い光の中に文字が浮かび上がってきたのだ。
ソフィアの中から恐怖の感情が一気に吹っ飛んで好奇心の波が押し寄せてくる。
「……ほう……これは素晴らしい」
魔王の側近が感心したように呟いた。ソフィアはすでに黒いモノから出る光の映像に夢中だ。
「……これが起動画面でして……このスイッチを押しますと……」
カチリと音を立てた黒いモノから魔王領とその周辺の地形図が映し出される。
「おおっ……これはすごいっ!! で、お嬢様の居場所は!?」
きらきらと好奇心で目を輝かせるソフィア。もう博士の容姿など頭の中からすっとんでいる。
これほど素晴らしいモノならきっと姉の場所も分かるに違いない。恐らくこの地図にそのうち姉の居場所が示されるのだろう。
唯のグロテスクな脳味噌野郎だとばかり思っていたが、さすがに博士と呼ばれるだけのことはある。
ソフィアは目の前の脳味噌頭を少しだけ見直すと、次に何が起こるのか、期待に胸を膨らませながら、ソフィアは黒いモノを見つめた。
「……何も起こらないぞ?」
先程から映し出される地図に変化は見られない。
「……おかしいですね」
博士は首(正しくは脳味噌)を捻ると黒いモノをガチャガチャといじくりまわす。
しかし、結局何の変化も起こらなかった。
「……どういうことなんだ、これは……」
すでにソフィアの目から期待の色が消え、恐らくバルジャックならば悲鳴を上げて気絶寸前の様な冷たい瞳が博士へと向けられる。
幼いとは言え魔王族。殺気に近い苛立ちがひしひしと伝わってくる。
しかし、博士はそんな事お構いなしで、のうのうと言ってのけた。
「……姫様のティアラの発信器が壊れたか、……こちらの機具が壊れたか、はたまたこの世界から姫様は消えてしまったのか………………なんて、冗談ですがね、
…………まあ、なんにせよ失敗ですね」
はははと部屋に響く博士の笑い声。
ソフィアが爆発するまで残り三秒。
またもや、遅くなってすみません。
それにしても、久しぶりすぎてあれですね何か色々と忘れたなぁ……と。




