第1話後編
『――ようこそ卒業前の最終試験へ。すまないが……君たちはまだ卒業が確定したわけではなかったのだよ』
遠くの方で生徒たちが一斉に騒ぎ始めた。ロザリアはその様子を眺めていた。
「どういうことだ!」という声が聞こえてくるが、ロザリアは大体の事情を察して、むしろ安堵した。
「学園の試験ということであれば、少なくとも誘拐などではないということですわ」
空からの声は続いた。
『質問は受け付けない。
なぜなら、この音声は記録されたものだからだ。
いまごろ喚き散らかしているころだろうが、無駄な努力はやめておけ。
君たちの体力は有限なのだからな』
一部の生徒たちから上がった怒号が、ぴたりと止まった。
「完全に手玉に取られていますわね」と、ロザリアはくすりと笑う。
性格の悪いことね、とロザリアは思ったが、それよりも試験への興味の方が強かった。
『説明はしてやる。だから大人しく聞いていろ』
空からの声は淡々と説明を続けた。
この場所は、学園の最終試験のために用意された無人島。
ここで七日間を過ごすことが試験だという。
さらに、この試験の様子は外部から見ることができる。
貴族たちなら誰でも、何度でも観覧できる仕組みになっているらしい。
見られると聞いて、今度は女子生徒たちから抗議の声が上がった。しかし、この体は仮初めのものであり、排泄欲求がなく、服を脱ぐこともできない仕様になっていると説明されると、その声も沈静化していった。
「さっき服に感じた違和感は、これでしたのね」
ロザリアは試しに服を脱ごうとしたが、どうやっても脱げないことに感心した。
動かしたり、魔法を使ったりする感覚は、まったく現実と同じだった。仮初めの体を実現する技術のすごさを、彼女は理解していた。
「これだけの空間を作り出す技術を持つ方、一度、お会いしてみたいものですわね」
そんなことを考えているうちに、最初の課題が提示された。
『――まずは最初の課題だ。
“己の力”だけで、まずは一日生き延びてみろ』
初日は水も食料もない。
二日目以降はシステムの補助もあるが、利用にはそれなりの代償があるとのことだった。
『まあ、ここで死んでもせいぜい留年するだけだ。
ぶざまを見せることになるがな。
自分がこれまで、どれほど多くの他人に支えられて生きてきたか、自覚するがいいさ』
最後にそれだけ告げると、声は聞こえなくなった。
生徒たちは混乱しているようだったが、徐々に近くにいる者同士で集まり、聞いた話を確認し合っていた。
現状を受け入れられないような無様な者はいないようだ。
王子だけはシルヴィの介抱にかかりきりになっていたが。
そんな中、ロザリアだけは地面に何かを書いていた。
魔法で砂をわずかに削り、聞いた内容を整理しているのだ。
「試験ということは、何らかの評価があるはずですわね」
ロザリアは書き終えた文字を眺めていた。
――“己の力”だけで生き延びる。
――試験は”見られている”
その一節を見て、しばらく考えていた。
見られているなら、人と違うことをするべき。
集団の中では埋没する可能性の方が高い。
あえて、”己の力”だけでという言葉を添えた。
そして、こう結論づけた。
「――これはもしかしたら、単独行動に加点が付くはずですわ!!」
こう見えてロザリアは、かなりの負けず嫌いだ。
せっかく用意された卒業試験。
どうせなら、全力で楽しみ、そのうえで良い成績を取りたい。
「そうと決まれば……」
ロザリアは立ち上がった。
そして、離れた場所にいる生徒たちの様子を確認した。
生徒たちは思い思いのグループに集まり始めていた。
……そして、こちらを見ている者はいない。
――ならば、今のうちに離れておくべきだろう。声をかけられる前に。
そう判断すると、ロザリアは魔法で自らの姿を隠した。
そして、誰にも気づかれないまま、集団から離れていった。
そのころには、ロザリアの頭の中からは婚約破棄されたことなど、すっかり消えていた。
なお――。
単独行動に加点が生じるという事実はない。
しかし、それをロザリアが知ることはなかった。




