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第1話前編

 空から降り注ぐ鋭い日差しで、ロザリア・ベルフォールは目を覚ました。

 最初に目に入ったのは、雲ひとつない青空だ。


(先ほどまでは、屋内にいたはずでしたのに、空……?)


 そう思ったが、あまりにきれいだったので、ロザリアはしばらく空を眺めていた。

 砂浜に倒れたままで。


「そういえば……先ほどのお芝居は何だったのでしょうね?」


 ロザリアは、王子の行動があまりにもあり得なかったため、余興のお芝居に違いないと思っていた。

 そして同時に、婚約破棄されても、別にかまわないとも思っていた。


 王子への恋愛感情のようなものは特にない。

 代わりたい人がいれば代わってもいい。ロザリアにとって婚約はその程度のものだった。

 自分からして問題を起こしたいとは思わないが、相手からしてくれるのであれば大歓迎だった。


「いえ、あれは本当に本当の婚約破棄だったのです。そういうことにしましょう」


 ロザリアは、ぽんと手を打って、そういうことにした。

 それなら、訂正されるまで、つかの間でも自由を楽しむことができる。


 文句を言われたら、あまりにお芝居がお上手だったので、騙されてしまったということで押し通そう。


 そうと決まれば、寝ている場合ではない。

 青空も心なしか、先ほどより美しく鮮明に見えた。


 ロザリアは勢いをつけて跳ね起きると、ふわりと地面に着地した。

 同時に服に付いた砂を魔法で吹き飛ばし、頭上に日傘代わりの障壁を展開する。


「次期王妃ではなくなったのです。少々はしたなくても問題はありませんわね」


 とはいえ、一応身だしなみは確認するのが淑女というものである。


 服を確認するがパーティのときのままで、乱れたところも見られない。

 かすかな違和感はあるが――支障はないと判断した。


「それにしても……美しい場所」


 周囲を見渡せば、王都では見ることのできないほど鮮やかな青が広がっている。

 足元には白い砂浜。


 絵画の中に入り込んだような景色に、ロザリアはしばし見入る。



 ふと、視線を海とは反対の方に向ける。

 すると、パーティ会場にいた他の生徒たちが倒れ伏しているのが目に入った。

 

「せっかくの景色ですのに、これでは少し台無しですわね」


 ロザリアは、誰にも気づかれないよう広範囲の回復魔法を発動させた。

 ただし、魔力の消費を抑え、効果も最低限にとどめる。


 自分の力で立てる者は、まず自分で立つべきだ。

 それがベルフォール公爵家で教えられてきたことだった。


「どこか遠くの島にでも飛ばされてしまったのでしょうか。それとも、幻でも見せられているのでしょうか」


 そう呟いたところで、少し離れた場所に王子の姿を見つけた。

 ルーカスはすでに起き上がっているが、傍らのシルヴィは意識がはっきりしないようで、王子に介抱されている。

 回復するまでの時間には、かなり個人差があるようだ。


「みなさん、ただ気を失っているだけかと思いましたけれど……」


 シルヴィの様子を見て、ロザリアは少し考えた。

 手を貸したほうがよいだろうか。

 だが――。


「そういえば、婚約破棄をされたのでした」


 今の自分がシルヴィに声をかけるのは、かえって相手を気まずくさせてしまうのではないだろうか。

 それに、うっかり婚約破棄を撤回されてしまえば、せっかくの自由もこれで終わりになってしまう。


「……積極的に関わるのも、ご迷惑かもしれませんわね」


 婚約破棄されたばかりなのだから、こちらから関わる必要もない。

 大義名分としては十分だろう。


 そう判断し、ロザリアはその場を離れる。

 その時だった。


『――卒業パーティで気が緩んでいた諸君。

 ようこそ卒業前の最終試験へ』


 どこからともなく声が響いたのは。

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