プロローグ
「ロザリア・ベルフォール!君との婚約を破棄させてもらう!!」
最初は余興の劇でも始まったのかと思った。
学園の卒業パーティを観測していた魔術具から突然、あまりに場にそぐわないその言葉が聞こえてきたのだ。
俺は魔術具越しに会場の様子をのぞき込む。
魔術具に映るのは、ルーカス・アルマンド。
この国の第一王子。
ヤツは婚約者であるベルフォール公爵家の令嬢を指差し、なにやら喚いている。
(なにをやってるんだ、アイツは……?)
公衆の面前で婚約破棄など正気の沙汰ではない。
その傍らには、おびえた表情の少女。
たしか低位貴族の娘であるが、最近王子と親密な少女がいると聞いたことがある。
(……名はシルヴィ・フォンテーヌだったか)
たしかに美しい見た目をしている。
ここまで入れ込んでいるとは思っていなかったが。
俺は、その様子を横目に見ながら作業に戻った。
(パーティをぶち壊しにするのは勝手だが、俺の邪魔だけはしてくれるなよ)
最終チェックの手は抜けない。
時間は迫ってきていた。
その間にも、婚約破棄は続いていく。
俺からすれば滑稽でしかない内容。
色々取り繕ってはいるが、新しい女ができたからそちらを選びたいという風にしか聞こえない。
まあ、長々としゃべっててくれた方がこちらには都合が良い。
術式、範囲設定問題なし。
動作は完璧。
これでいつでも発動させられる。
(よし、最終確認も完了だ)
準備を終え、俺は再びパーティ会場の様子をのぞき込む。
王子は相変わらずだ。
対するロザリア嬢は――
(ほう、動揺するでもなく、怒るでもなく、悲しむでもないと)
――まるで動じる様子はなく、完全に平静であった。
しかしその目は諦めているようではなく、むしろここから反撃してくれそうな空気をまとっていた。
彼女が噂通りの才女なら、この追い詰められた盤面、見事に切り抜けてくれるのかもしれない。
(面白い展開になってきたな)
これが茶番で終わるのか、胸のすくような逆転劇になるのか、最後まで見届けたい気持ちはあるが……
仕事の時間だ。
「だから僕は、このシルヴィを正式な――」
――『お取込み中のところ悪いが時間だ――続きは向こうでやれ』
王子の決定的な言葉に被せるように、俺は魔術具を通して会場に声を送ると、そのまま転送術式を起動する。
会場にまばゆい光がほとばしる。
その光が収まると、計画通り生徒だけがそこから消えていた。
俺の名はフェリックス・ノエル。
この、学園最終試験の考案者で、この魔術具の製作者だ。
国王から依頼を受けた時はくだらん仕事だと思ったが、結果的には面白い魔術具を開発することができた。
(まあ、たまにはアイツに感謝してやってもいいだろう)
さあ、あとは閲覧設定を解放すれば、俺の仕事は終わりだ。
君たちとは、もう会うこともないだろう。
この試験の顛末は、貴族ならば誰でも見られるようにしてある。
暇ならば観て行くがよい。
彼ら、彼女らがどのような変化を見せてくれるのかを―――




