■盗まれた性癖(仮)
【あらすじ】
女の性癖を見抜く男・ジョー。
今夜の獲物は、ヒヨナとエミーダ……のはずが
なぜか一週間後には出家します。
いったい、ジョーの身に何が?
今回は第三者視点での物語です。
※ジョーのイメージ画像です
俺の名前はジョー。
人呼んで流浪性癖のジョーとは俺のことだ。
今夜もこの町で、新たなる獲物を探し当て、女たちを抱くつもりだ。
「クククッ。まずはあのふたりの性癖を読んで、3Pと洒落こもうじゃねえか」
愛欲に溺れ狂うことを想像し、前を歩くふたりに視線を向けた。プラチナブロンドの髪を優雅に靡かせ、くびれた腰で尻を振る色気たっぷりの女と、少女のように垢抜けない黒髪女。
「ふふ。どちらにしろ、俺の前では丸裸同然」
背中を射貫くように、俺は女たちの思念の奥底へ潜った。が……
「こ、こいつら……性癖が隠れてねえ! 心の玄関、開けっ放しじゃねえか!」
ダダ漏れの性癖に、心が思わず仰け反った。
いやいや、このくらいで驚いては放浪性癖の名が廃る。
ふたりの女が喫茶店に入り、テラスの席に腰掛けたので、俺も隣の席をさりげなく陣取り、店員に飲み物を注文をする。そして再びふたりの思念に手を伸ばす。
「ねぇ、エミーダ。今夜からナイトカーニバルの催しがあるみたいだけど、どうする?」
垢抜けない女が口にした名前。どうやら高身長の女はエミーダというらしい。
「もちろん、行くに決まってるじゃない」
同時に、仄かに流れ出る欲望を読み取った。裸の男たちに囲まれた淫靡なビジョン。休む間もなく代わる代わる抱かれて歓喜の声をあげる女エミーダ。……って、この女、もしかしてサキュバスなのか?
一方、リスのように頬を膨らませてパンケーキを食べるあどけない女。その顔つきは汚れを知らない無垢のようだ。頼むから、こっちは普通であってくれ。
「どうせ、今夜もナンパされにいくんでしょ」
「ナイトカーニバルだもの。少しくらい、羽目を外してもいいじゃない」
「年中、外しっぱなしじゃない」
だろうな……。ついでに言うなら底なしだ。
すると垢抜けない女が、頬に手を当て、純朴な瞳を虚空に彷徨わせた。
「わたしも素敵なイケメンさんに出会えるといいなぁ」
うっとり妄想を描く女に、俺は舌舐めずりながら、その思念に忍び寄った。こういう女ほど、一度快楽に溺れるとたがが外れやすいことを知っているからだ。
予想どおり、イケメンに抱かれたい願望を余すところなく繰り広げ、酔いしれていた。
「お願い……もっと優しく……」
甘美なセリフを恥ずかしそうに漏らす女。が、しかし……
なんだ、この女?花びらばかりで、顔も胸も見えないぞ。見えない男に抱かれ、身も心も滅茶苦茶にされたい願望。それなのに、なぜか、そこから先を越えられずにいる。
ええい、歯がゆい。焦らしプレイを得意とする俺を焦らすとは……さてはこの女、ただ者じゃないな。
「くそぉ、続きが気になって仕方ねぇ」
何百人の女を快楽に導いた俺としては、屈辱的な妄想だった。そんなプライドが俺を奮わせた。
ちくしょう。こうなれば、まず、この女を先に落とすことにしよう。情事の場数を踏んだエミーダのほうは焦ることもないのだから。
「ねぇ、エミーダ。早く宿にチェックインして着替えようよ」
「あら、今日はずいぶんと積極的ね、ヒヨナ。じゃあ、いきましょうか」とお茶を済ませて席を立つふたり。
ふふ、ヒヨナよ。おまえの性癖がどんなものなのか、俺さまが、今夜、しっかり暴いてやるからな。
宿屋の前での待ち伏せから数時間。
日が陰り始めた頃、ふたりが宿屋から出てきた。
旅装束を脱ぎ捨て、ナイトドレスに身を包んだエミーダは高級娼婦のようであり、それとは対照的にヒヨナは素朴を絵に描いたカジュアルな出で立ちだ。
ふむ。思ったより、オシャレだな。だが俺の前では、裸同然の子猫ちゃんに等しい。くくくっ。
ナイトカーニバルで盛り上がる群衆。その熱気渦巻く人混みの中を、俺はふたりをつけ回した。フェロモンをまき散らすエミーダはモテモテ。まぁ、あれだけの美女だ。当然といえば当然だろう。一方のヒヨナは露店の食い物に心奪われていた。
付かず離れずのふたり。それでも俺は根気よくヒヨナがひとりになるのを待った。すると、そのチャンスはすぐに訪れた。
行き交う雑踏の中、3人の男たちと色恋雑談を交わしているエミーダからはぐれた彼女を、俺は狩りをするオオカミのごとく獲物に忍び寄った。
「ねぇ、そこのかわいいキミ。もしかしてひとり?」
前髪を掻き上げ、下心を隠して声をかける。甘い願望を持った女は、だいたいこれで落ちる。そのはずだったのだが……
「ごめんなさい。タイプじゃないので」
まさかの一刀両断!?
まるで貞操帯を絵に描いたような断り方だった。ならば、手を変えて脅してみるか。
「つれないなぁ。俺、きみが抱えているエッチな願望を知ってるんだぜ」
ヒヨナの頬が恐怖で硬直した。この反応、間違いなくビンゴだ。
「そ、それは、いったい?」
「俺のようなイケメンに抱かれたいんだろ?えーと、花、花びら……いや、か、花瓶みたいに?」
言語障害のように語彙がでなかった。なにしろ具体的なビジョンがヒヨナから伝わってないからだ。ようするに情報量が限りなく少ないのだ。
「あのぉ……もしかして頭のご病気ですか?」
おまえに言われたくないわ!
よーし、こうなったら直球勝負だ。こいつ好みの下ネタで、その気にさせてやるぜ。
「おやおや。さてはきみ、蕾からいやらしい蜜を溢れさせているんじゃないかい?」
花びらを囲う彼女のイメージにそった卑猥な言い回し。するとヒヨナの瞳が大きく反応した。
「もしかして、あなたもわたしと同じエッチな呪文を使えるんですか?」
エッチな呪文?もしかして、こいつ、魔女か?まぁ、よくわからないが、話を合わせてその気にさせよう。
「ああ、そうさ。俺に宿る淫靡な影が、きみを緊縛しようとしているんだ」
自分でも何を口走っているのか、よくわからなかった。それなのにヒヨナは俺の手を掴み、瞳をキラッキラにして歓喜していた。
よし、これでこの女は落ちたも同然。と思いきや、背後からねっとりとした声音が耳にまとわりついた。
「ちょっと、あんた。勝手にあたしのヒヨナを口説いてんじゃないわよ」
振り向けば、アルコールドリンク片手に、不審なまなざしを向けたエミーダがいた。
酔ってるのか、この女。まぁ、丁度いい。当初の予定通り、こいつも巻き込んで3Pだ。と口角をいやらしく上げた途端……エミーダが舌舐めずりした。
「もしかして、あんた、したいの?」
直球の色仕掛けと射貫くような艶っぽい視線にゾクリとした。
「あ、あんた次第かな?」と駆け引きを楽しもうとした矢先、有無を言わさず、裏路地に引きずり込まれた。
「また悪い癖が始まった。エミーダ、わたし、先に宿に帰ってるから、ほどほどにね」
「わかってるわよ。ヒヨナ」とにこやかに手を振るエミーダ。
まぁ、いい。夜は長いのだ。ヒヨナ攻略はエミーダを骨抜きにしたあとでもいいだろう。と思っていたのだが……散々、エミーダのオモチャにされてしまった。
何時間、経っただろうか。
「もう、勘弁してくれ……」と俺は下半身裸で地面を這いずり、路地裏からの逃亡を図ろうとした。……が、すぐに引き戻され、生気を吸い取られ続けた。
ヤ、ヤバイ……このままでは殺される……。遠のく意識の中、俺は快楽よりも命の危険を覚えた。
なにしろ果てれば魔法で復活され、エミーダの気の済むまで何度も何度も犯さ……いや、思い出すだけでも地獄だ。結局、解放されたのはカーニバルが終わった明け方だった。干からびた俺は壊れた人形のように路地裏に放置された。
「うぅ……」
一生分の生気を吸い取られ、涙が頬を伝っていた。
カーニバル二日目の翌日。
重い腰を引きずりながら、目をつけていたヒヨナに声をかけた途端、エミーダに捕まった。そして三日目も、放し飼いにされた猛獣もどきの相手をさせられた。
一週間続いた地獄のようなナイトカーニバル。
そのときのことは、あまり思い出したくない。
ただひとつ確かなのは、俺の中にあった「女を落とす」という自信が、その夜を境に完全に消滅したことだ。
以来、煩悩が空っぽになってしまった俺は、プライドも性欲もかなぐり捨てて仏門への戸を叩き、出家したのである。
もう女はこりごりだ。
【おしまい】




