■推し活は拳より強し(仮)
【あらすじ】
強さだけじゃ、推しは奪えない!?
推し活×女子武道大会、開幕!
ヒヨナを踏み台にした看板娘へ、エミーダが怒涛の大逆転を叩き込む!
今回は、そんなユルいお話です。
「あに、ジロジロ見てんだよ?」
町に入った早々、変な子に因縁をつけられました。
一見、どこにでもいる村娘なのに、開脚全開のがに股座り。女の子なのに座り方だけ立派な盗賊。早い話が不良さんです。
それでも「パンツ見えてますよ」と穏やかに諭すわたしだったのですが
「チッ、見てんじゃねえよ」
注意してあげたのに。
ちなみにエミーダは、前の町で男性と遊びほうけていたので置いてきました。
「無視かよ。てめぇ、ナメてんじゃねぇぞ!」
あぁ、よりにもよって変なのに絡まれるとはツイてない。
「おい、聞いてんのかよ、てめぇ?あぁん?」
イキる村娘ちゃん。たまにいるんですよね。暇を持て余した不良さんが。ゆえに、こういう手合いは関わらないのが一番なのです。
無視を決め込み、素通りしようとした矢先、背負っていたカバンを乱暴に引っ張られました。
「あなたもしつこいで……!?」
正面を向いた瞬間、村娘ちゃんの握りこぶしがわたしの顔面に。……が、脊髄反射よろしくとばかりに、わたしは紙一重でそれをかわし、脚を払いのけ、地面に這いつくばったところへ乙女のグーパンチを。もちろん寸止め。
「つ、強い……」と言葉を漏らす村娘ちゃん。いえ、あなたが弱いだけなんですけど。
すると、心を入れ替えたかのように村娘ちゃんが土下座をしたりします。
「姐さんの舎妹にしてください!」
「いえ、結構です」とお断りするわたし。
こういう輩さんは一度許してしまうと、執拗に付きまとうのを知っているからです。
「そう言わず、そこをなんとかへし曲げて!」
「いやです」と地面に頭をこすりつけて懇願する村娘ちゃんを見限って、わたしは観光を楽しむことにしました。
放置された村娘ちゃんの所在?さぁ?
だって、わたしの信条は一期一会がモットーですから、知ったこちゃないですよ。
観光を満喫する女の一人旅。たまにはこういうのも悪くないわね。と、そこまではよかった。そう、そこまでは……。
「うーん……どこの宿も満室とは……」
しかたがないので最寄りの観光協会に駆け込み、日暮れギリギリで紹介してもらった宿屋の扉を開きました。
「いらっしゃいませー!って、あれ、姐さん?」
カウンターで出迎えた村娘ちゃんに、頭を抱えるわたし。
「な、なんで、あなたがここにいるの?」
「あちき、この宿屋のひとり娘でして」
村娘から宿屋の看板娘への昇格。親の七光りを一身に受けた身分がこざかしい。
とはいえ、野宿だけは避けたかったので、仕方なく台帳に名前を記入し、泊まることにしました。
「眺めの良い角部屋をサービスしやす」「姐さん、荷物持ちますよ」と室内までついてくる始末。あぁ、旅の余韻が消えていく。
「食事はどうしますか、姐さん?」
といった具合で付きまとわれ、落ち着かない一夜を過ごすこととなりました。
翌朝。
宿屋の食堂で、のんびり手作りブレックファーストを食べていると
「姐さん!姐さん!」
出かけていた看板娘ちゃんが帰って来るなり、わたしのテーブルに駆け寄ってきました。
あぁ、なんて朝から騒々しい子なんでしょう。
「朝から、いったい、なんなんですか?」
「いい儲け話があるんすけど、ひとくち乗りませんか?」
うーん、ここ最近、人助けの依頼もなく、財政難だし……話だけでも
「今日、これから武闘会があるんですよ」
舞踏会?
だとしたら、町の古着屋さんにいって、服を選ばないといけませんね。
「なに、いってんすか。武道会ですよ、ぶ・ど・う会」
やだ、この子。ボケの真髄が理解できないみたい。
「それで、その武道会で、わたしにどうしろと?」
「闘うに決まってるじゃないすか。姐さんなら勝てます。あちき、信じてますから」
わたしはあなたを信用してませんけどね。
「お断りします」
「欠員が出て、困ってるんすよ」
「知りません」
「優勝賞金、欲しくないんすか?」
「殴り合いですよね?男の人も出場する野蛮な大会に出るわけがないでしょ」
そもそも、殴られたくないし。
「女子部門ですから、大丈夫ですよ」
「イヤです」
「でも、今、姐さんの名前でエントリーしてきちゃったし」
「はぁ?なんで、わたしの名前、知ってるのよ?」
ニヤリと笑う看板娘ちゃん。って、まさか!
「姐さんの弱みは、あちきの手の中でっせ」
彼女が持つ宿泊台帳に脱力したわたし。こうも簡単に個人情報を握られるとは思ってもみませんでした。
「わかったわよ。出場すればいいんでしょ」
1戦目からしおらしく負ければいいのだ。旅の思い出の1ページくらいにはなるでしょうしね。しかし、こうも手玉に取られるのも、なんかしゃくに障る。
「もちろん、あなたも出場するんですよね?」
「いえ、姐さんのセコンドを務めますので出ません」
あきれて、ものも言えませんね。
「わたしだけが出場しても、意味ないでしょ?そもそも、あなたになんのメリットが?」
「姐さんが勝てば、あちきに箔がつきます」
あなたの小さな名誉のために、なぜわたしが闘わなければならないのかしら?
「宿屋の娘の特権で、姐さんの宿代、タダにしてもいいんですよ」
なんとも安っぽい特権ですね……。まぁ、どちらにしても負けてしまえば、この子も目が覚めるでしょう。
と言いつつも、わたしも宿代を節約できることに釣られ、彼女の話に乗ることにしました。
彼女の案内で、町の中央広場にいくと、特設リングが設置された会場が。
観客たちの異質な熱気が渦巻く中、看板娘ちゃんがメガホン片手にリングに上がっていきます。
「えー、それでは、ただ今より第1回女子格闘選手権を始めます!野郎ども、命尽きるまで推し倒せー!」
「おおおぉぉぉぉぉぉっ!」
地割れを彷彿させる男性たちの歓声。どうやら、この催しを仕切っているのは、看板娘ちゃんのようです。
続く説明に耳を傾ければ、この試合形式は勝ち抜き戦であり、エントリーした女性は7人。つまり優勝にいたるには6人を相手にしなければならないようです。
まぁ、わたしは1回戦で負けるつもりだから関係ないけど、と傍観者のつもりで聞いていたのですけど……いざ、試合が始まると、その目論見が打算であったことに気づかされました。
というのも、わたしが身構え、相手の肩に指が触れた途端「きゃふん!」と相手がマットに倒れこんだからです。
「もう、むりぃー」と細い腰を押さえ、甘えた声ですんなり負けを認めたりする。
あ、あざとすぎる……。なのに取り囲む観客たちからは
「よく、頑張った!」「負け方もカワイイよー!」「一生、愛してるよ!」とか……なぜか感涙してます。
代わりに、わたしには罵詈雑言の嵐。
「酷いことすんな!」「この悪魔!」とあられもない罵倒が。この落差。味方のいないアウェイに心が折れそう。
「一点買いしてたのに、ちくしょう!」「俺の一ヶ月分の給料がぁー」などチケット札の束を握りしめ、嘆く男性陣の姿が。
これはもしかして……
「ねぇねぇ、看板娘ちゃん。これって、もしかして……トトカルチョしてる?」
わたしの疑問に、忙しく会場をかけずり回り、セコンドについた看板娘ちゃんの頬がギクッと引きつりました。
「じ、じつは町おこし実行委員も兼ねてまして……。で、でも、安心してください。姐さんの取り分もありますから」
「町おこしねぇ……」
「そ、そうっすよ。べ、べつに博打の胴元じゃないっすよ」
慈善事業を掲げる看板娘ちゃん。露骨に目が泳いでいるのは、気のせいでしょうか?
「次はあたい、魔法少女ダヨが、あなたを痺れさせてあげる!」
ピンクのヒラヒラドレスをまとい、決めポーズを披露した途端、歓声が湧き上がりました。
「ダヨちゃーん!」「シビれるぅー!」
なんでしょう……この一体感は。
「シビれて変身!」と木刀ステッキをバトンさながらに振り回し、空中に放り投げるダヨちゃんさん。鮮やかなステッキさばきに身構えるわたし……が、受けそこね、彼女の頭頂部に命中し「きゃうん♡」と自爆しました。その様子にダヨちゃん推しの男性たちから「ナイス!ファンサー!」と涙の拍手喝采。恐るべし……推し活信者さんたち。
その後も「ワケあり元女勇者」「悪役シスターさま」「なんちゃって王女ちゃん」などなど個性的な面々が連なるものの、いずれも、ほとんど手を汚すことなく勝利してしまいました。
「さて、次はいよいよ決勝戦となりますが、その前に昼休憩に入りたいとおもいまーす」
声高らかに進行アナウンスをする看板娘ちゃん。
わたしはリングを降りると、「悪役シスターさま」推しだった男性たちを捕まえ、この催しの趣旨を聞くことにしました。
「町おこしの慈善事業?あんた、ふざけてんのか?俺たちは慈善事業で推しを推すほど落ちぶれちゃいねぇぞ」
好きなものを純粋に推せるその気持ち、わたしも大賛成ですよ。
「そもそも、あんた、知らないで参加してたのか?」
聞けば、なんでも推しキャラの勝ちに金を賭けていたとのこと。また、その賭け金の一部は推しキャラにも還元されるらしく、推されたキャラの懐も暖まるというらしいのです。
いわゆる出演料みたいなものかしら?
そうとなると、わたしの場合は?
設営テントにオッズ表が掲げられているというので見に行けば、わたしに賭けている人は胴元である看板娘ちゃんの1名だけ。
さらに詳しく調査したところ、この町では、数年前から密かに推し活文化が流行りだし、今回、看板娘ちゃんの発案により、武道大会というコラボ企画が持ち上がったらしいのです。
なるほど、そこへ旅人のわたしを巻き込み、賭け金を頂こうという算段でしたか。
うーん……どうしてくれようか。と、そこへ懐かしい顔の人物が。
「あら、ヒヨナ?こんなところで、なにしてんのよ?」
「あれ、エミーダ。ずいぶん早かったわね」
「男が逃げちゃったから、あんたを追いかけてきたのよ」
逃げられたんだ……まぁ、いつものことなので同情はしないですけど。
「それより、エミーダ。ちょっと協力してよ」と、わたしは彼女に大会の趣旨を説明し、今までの経緯を説明しました。
「つまり、その看板娘がヒヨナを出場させて、自分だけヒヨナに賭けて大儲けしようってこと?」
さすが、魔法学校の首席卒業者。理解が早くて助かります。
「ヒヨナを利用して、ずいぶん好き勝手にやってるじゃない、その子」
「でしょ。だから、協力してくれる?」と、わたしは次の決勝の段取りを耳打ちしました。
「さーて。いよいよ、決勝戦となりました。泣いても笑っても、これが最後の闘いとなります!」
相手はこの町人気ナンバーワンの、さすらいのお嬢さま。
それに対抗し、わたしもエミーダの力を借りて「セクシーヒヨナ」へと変貌を遂げます。
ちなみに詰め物で胸を盛っているのは内緒です。
開始のゴングが鳴り、わたしは愛情込めてお嬢さまの頭を撫でてあげました。すると、予想どおり照れて萌え死にました。いや、実際には死んでないんだけど。そして終了の鐘が鳴り響き、看板娘ちゃんがリングに上がります。
「試合終了ぉ!ということで第1回女子武道大会の優勝者は……」
「ちょっと、待ったぁぁぁあ!」
リングにはせ参じたエミーダが、看板娘ちゃんからメガホンをつかみ取り
「優勝は最後の8人目を倒してからよ!」
「8人目?」
状況を掴めない看板娘ちゃんをたたみかけるように、エミーダが看板娘ちゃんを指さしました。
「そう!8人目はあなたよ!」
「はぁ?なんで、あちきが?」
「看板娘ちゃんだと?」「確か、看板娘ちゃんって弱ぇんだよな?」「でもよ、これって、ヒヨナちゃんに賭ければ、負け分、取り戻せるんじゃねぇ?」
観客の空気を読んだエミーダがすかさず続けます。
「賭けの締切は一分!設営テントに箱を用意してあるから、賭けたいほうにお金を入れて!」
「ヒヨナちゃんの一点買い!」「俺も俺も!」とヒヨナ箱に持ち金をねじ込む男性陣。わたしの箱に貯まるお金の山。反対に看板娘ちゃんの箱は空。そしてエミーダが試合開始のゴングを鳴らしました。
「少しは痛い目にあいなさい」
看板娘に突進し、肩に触れたと同時にリングの外へと転げ落ちるわたし。幸い、観客たちに受け止められ、怪我はありません。
「勝負あり!優勝者は」と看板娘ちゃんの腕を掴み上げるエミーダ。
「えっ?えっ?どういうこと?」と狼狽える看板娘ちゃん。
その様子を眺めながら、わたしは観客全員が聞こえるように言います。
「これで当初の筋書きどおり、賭け金のすべてはあなたの懐に入りましたね」とニンマリ笑って見せます。
お金を取り戻したいばかりに、わたしを一点買いした観客たちの視線が勝者の看板娘ちゃんに注がれました。
「おい、筋書きどおりってなんだよ?」「まさか、俺たちをペテンにかけて、金を巻き上げてたんか?」「まさか、八百長か?」
疑心暗鬼になり始めた観衆をかき分け、わたしは設営テントから運んできた賭け金の箱をドンッとリングにあげ
「そうでーす。すべては看板娘ちゃんの目論見でーす。ということで、役目を果たしたわたしは、これにて退散しまーす」
「えっ?ちょ、ちょっと待ってくださいよ、姐さん」
バイバーイと手を振り、エミーダとその場を後にするわたし。
「ふざけんな、金返せー!」「看板娘をつるし上げろー!」
とリングに群がり上がる推し活男性陣。
「いや、ちょっと待って、みんな!稼ぎを持っていかないでー!」
埋もれていく看板娘ちゃんの阿鼻叫喚を背にしながら、武道会場を去るわたしたち。
「ねぇ、エミーダ。ちょっとやり過ぎたかしら?」
「世の中、舐めくさってるんだから、いい薬よ。ましてや純粋な推しを踏みにじったのだから因果応報でしょ。なにより、ヒヨナを当て馬にしたことを後悔するといいわ」
わたしのことを気にかけてくれる親友の一言がなにより嬉しかったです。
そして宿屋に戻り、荷物をまとめると、早々に町を後にしました。
教訓。推しとは推すもの。推させるものではありません。ましてや賭け事の対象にするなんて、もってのほかです。
とはいえ、わたしを推してくれる人がひとりくらいいても、よかったんじゃないかしら。
「あたしが推してるんだから、いいじゃない」
その優しいエミーダの一言に心が救われました。
あぁ、推し文化って、なんて素晴らしんでしょう。
うんうん。
【おしまい】




