■旅立てない卒業旅行(仮)
【あらすじ】
「……ない」
卒業旅行のスタートラインの
国境検問所で、まさかのギルドカード紛失。
旅立つ前から、いきなり出戻り確定。
そんなヒヨナの前に現れたのは、同級生のエミーダ。
そして彼女もまた、致命的な問題を抱えていた。
旅は、いつになったら始まるのか?
『旅立てない卒業旅行』
ここから、ふたりの珍道中が始まります。
マルマッター国境検問所にて。
「……ない」
国境越えの際、必ず提示しなければいけないギルドカード。リュックのサイドポケットに入れておいた大事なカードが見当たらず、わたしは青ざめました。
ギルドカードの紛失。
これがないと国境を越えることができず、旅が始まりません。しかもこのカードは身分証もかねており、ギルド銀行からお金を引き出すためには絶対にぜーーーーったいに、必要不可欠なカードなのです。
魔法学校を卒業し、見識を広げたくて旅を決意したわたし。両親と兄妹たちに笑顔で見送られた2日目にして、まさかの紛失。
「村に戻って再発行してもらって、それからギルド銀行で再登録……うーん、時間がかかりそう」
文字通りの出戻りに、親兄妹たちから笑われるかも……あぁ、恥ずかしい。
「うぅ……」と呻きながら、道端でひっくり返した荷物をリュックに収めていると
「あら、もしかしてヒヨナ?」
振り返れば、旅行リュックを引っ提げた綺麗な同年代の女性が。
サラサラと靡き輝く白金色の髪。胸元が大きく開いた旅装束。その胸の大きさに、なぜか嫉妬さえ湧き上がるのは気のせいでしょうか。同時に学生時代の思い出が一気に蘇りました。
一緒に卒業した同級生のエミーダ。
美人で常に首席。学校の同級生はおろか下級生からも慕われ、人気があった女生徒です。
こんな場所で級友に出会うとは、なんという偶然でしょうか。
「じつは……」
国境手前で、彼女に漏らす失敗談。そんな井戸端会議を通行人が垣間見ながら通り過ぎていきます。
「……ということで、とりあえず村に戻って一からやり直し」
肩を落として、ふりだし気分を吐露していると
「そうねぇ。でも、よかったじゃない。早い段階で、こういう失敗を経験して」
さすがは首席卒業者。何事にもプラス思考です。
「あたしも付き添ってあげるから、一緒に戻りましょ」
あぁ、なんて心強いお言葉なんだろう。と落胆していたわたしのメンタルは、2日間の後戻りで立ち直ることができたのです。
生まれ故郷に戻り、早速、役所に出向いてギルドカードの再発行手続きを申し込みました。ちなみに実家には戻らず、内緒で。
すると、わたしの後ろに並んでいたエミーダが
「これ、落とし物でーす」と1枚のカードを窓口に差し出しました。
「ほぅ、ギルドカードの落とし物ですか。世の中、バカな人もいるんですねぇ」と笑い合う役所のおじさんとエミーダ。
紛失した立場のわたしとしては、とても笑える心境ではないです。
「ちなみに、これ、どこで拾いました?」
「国境近くの街道で」
あぁ、世の中、わたしと同じ人がいるんだなぁと、同情していると
「ん?これって……」
おじさんが、わたしの提出した紛失届と落とし物を見比べ……
「えー……ヒヨナさん。再発行は不要のようですよ」
はて?どういうことでしょう?
「えぇ、こちらの方が拾われたようですよ」
おじさんからカードをむしり取り、真偽を確認します。
「そんな……」
カウンターに肘を落とすわたしに、エミーダが女神のような言葉を投げつけてきました。
「よかったわね、ヒヨナ」
振り返り、涙目で彼女の胸ぐらを掴みあげ、声を張り上げるわたし。
「あんた、文字読めないの!?」
って、いうか、ここに戻る間の2日間、なんか思い出さなかったの?あ、そういえば、ギルドカード拾ったんだっけ、とか。
「そもそもギルドカードが、どんなものか知らないもの」
いい加減な認識に、わたしは彼女の鼻先にギルドカードを突きつけました。
「あ……ヒヨナって書いてある」
えっ、今さら?と、わたしは頭を抱えこんだのでした。
「ごめんね、ヒヨナ」
しょんぼりと猛省するエミーダ。首席で下級生にも慕われるお嬢さまの落ち込みぶりに、わたしも大人げなかったと反省します。だって、そもそも悪いのは彼女ではないのですから。
「もう、いいよ」
「怒ってない?」
「わざとじゃないんだし、怒れるわけないでしょ」
なにより文句も言わず、ここまで付き合ってくれたのです。それに拾ってくれた恩もあり、無碍に責める気にはなれませんでした。
「ねぇ、エミーダ。もし、よければなんだけど……そのぉ、これからも、わたしと一緒に旅してくれると嬉しいかなぁ」
旅は道連れ。女のひとり旅では不安がつきまとうだけに、仲間はいたほうがいいですからね。
「うん、いくいく!ヒヨナとなら、きっと、楽しい旅になりそうだし」
彼女の笑顔に、わたしも幸先良さげな予感を感じました。
2日後。
かくして、わたしたちは無事にマルマッター国境検問所にたどり着いた。のですが……
「オッケーです、通っていいですよ。はい、次の方、ギルドカードを提出してください」
通行が許されたわたしの後ろで、エミーダがリュックをごそごそし……
「はい、どーぞ」
「お嬢さん、これは?」
「学生証だけど……なにか、不満でも?」
検閲官とのやりとりに、わたしは助け船とばかりに割って入りました。
「どうしたの、エミーダ?」
「ねぇ、ヒヨナ。もしかして学校の学生証じゃダメなの?」
この人、確か、首席卒業だったよね?
「いやいや、普通にダメに決まってるでしょ!」
「でも、あたし、ギルドカード……作ってないよ」
「はぁ?」と間抜け声を発するわたし。
「紛失とかじゃなくて?」
「うん」
あっけらかんとする彼女。成績優秀なお嬢さまの常識は壊滅的なほどに世間知らずでした。
結局、一緒にエミーダの出身村に戻ることとなり、彼女のギルドカード発行に数日間を費やすことになったのです。
一週間後。
そんなこんなで、無事にマルマッターの国境を越えた頃には、わたしとエミーダはすっかり仲良くなっており、それが、わたしたちの旅の始まりだったのです。
【おしまい】




