■当たるも八卦、寝取るも八卦(仮)
【あらすじ】
占い師に騙され続けたエミーダ。
ところが翌日、自ら占い師をすることに。
【新装開店・エミーダの館】
男たちの行列に、ヒヨナも呆れ顔。
そして三日目の夜、
ヒヨナたちは逃げることになるのです。
『当たるも八卦、寝取るも八卦』
やることなすこといつもどおりの
異世界ギャグコメディです。
バーでお酒を飲んだ夜道でのこと。
ふたり揃って千鳥足で歩いていたところ、路上で占いを営むおばあさんに呼び止められました。
「そこ行く長髪のおぬし、男運が落ちておるぞ」
その何気ない一言がエミーダを引き寄せました。ちなみに、わたしは吐く一歩手前です。
「そうなのよぉ。って、おばあちゃん、なんで、わかったのよ?」とフラフラと歩み寄るエミーダ。
「何千人と手相を見てきた占い一筋六十年の大ベテランじゃからな。ゆえにワシなら、その下がりまくった運気を上げてやれぬこともないぞよ」
ピクリとエミーダの眉が跳ね上がりました。
そして手を差し出します。が……
「その前に出すもん出してもらわなきゃねぇ」
親指と人差し指で輪っかを作ってほくそ笑むおばあさん。
「えー、お金取るのぉ?」
「情報を売るのじゃから、当たり前じゃろ」
「ちぇ、ケチ。ねぇねぇ、ヒヨナ、代わりにお金出してぇん」
まったく、困った酔っ払いです。とはいえ、わたしも酔っぱらっていましたからね。言われるがまま、小銭を払っちゃったりするのです。おばあさんはそれを懐に納めると、あらためて彼女の手を取ります。
「むむむ。これはこれは珍しい手相をしておる」
「そりゃ、あたしだもの。そこらへんにいる普通の女と一緒にしないでもらえる。それで、どうなの?」
すると
「うーむ、これはワシの手に余るぞよ。詳しい鑑定ができる占い師を紹介してやるから、そこへ行きなされ」
「どこ行けばいいのよ?」
「この先にある『星詠みの館』に行ってみなされ。さすれば、おぬしの男運も上がるじゃろうて」
聞き終わるや否や、わたしはエミーダに襟首を掴まれ【星詠みの館】へ連れて行かれました。
「それなら目抜き通りにある『真実の宴』へいってみなはれ」
「もし、気になるのなら『天使の天秤』という店に行くといいでしょう。きっと、あなたの力になってくれると思いますよ」
訪れる店ごとに、助言を受けるわたしたち。そのたびに「ヒヨナ、お金」「えー、またぁ」を繰り返し、たらい回しにされること11軒。
おかげですっかり酔いも覚めてしまいました。鑑定料や小壺の代金で、宿代三泊分相当の大散財。
11軒もの占い師を巡った末、わたしたちはようやく、自分たちがカモにされていたことに気づいたのです。
当然、当初の悩みであるエミーダの男運など、すでにわたしたちの頭の中にはありませんでした。
「もう、帰って寝よ……」
と解消しきれない不満を抱えたまま、わたしたちは宿に戻ったのでした。
翌日。
「ちょっと、用事があるから」と、朝一から出かけるエミーダ。なので、わたしは最寄りの寺院へと足を運び、ひとりで芸術を楽しむことにしました。
こういうところは、建築物含め美しい絵画などがありますからね。
「あなたに神のご加護が降りますように」
帰り際、イケオジ神父さまに祝福をの言葉をもらいました。うふ。もしかしたら、いいことあるかもしれませんね。
そして夕暮れ時のこと。
朝から姿が見えない彼女を探していると、繁華街で連なる行列が目にはいりました。
男の人ばかりだけど、なんのお店かしら?
表に掲げている立て看板を見れば
【新装開店・エミーダの館】
はぁ?
昨夜はなかったはずの占い館から、腑抜け顔の男性が店から出てきます。
むむむ。なんだか、いかがわしい匂いがするのは気のせいでしょうか?
「またのお越しをー」
店内から聞き覚えのある甘ったるい声に、わたしの耳がピクつきました。
「まさか……」
試しに男性たちの行列に並び、順番を待つことに。……が、待てど暮らせど順番が回ってきません。
とっぷりと日も暮れ、おなかが空いたわたしは、待つことを諦めました。えぇ、空腹には勝てませんので。
「直接、エミーダに事情を尋ねればいいじゃない」と、外食をすまして宿に戻ったのですが……どういうわけか、いつまで経っても彼女は帰ってきませんでした。
翌日。
彼女の安否を確認するため、エミーダの館へとおもむけば、すでに数人が店の前に並んでいました。
なので行儀よく、ふたりの男性の後ろに並んで待っていると、店の中から襟を立て帽子を目深にかぶった男性が。
「あ、神父さま。おはようございます」
満面な笑みでの挨拶。だったはずなのに、なぜか聖書で顔を隠して無視されてしまいました。
あれ?わたし、なにか気に障るようなことしたかしら?
と、首をかしげていると、店内からエミーダが現れました。
「ごめーん。今日はここまでぇ。だから、また明日きてぇん」
エミーダの閉店宣言に、ふたりの男性は、あからさまにガッカリして店を去っていきます。
「あれ?ヒヨナ?どうしたの、こんな朝早くから?」
わたしは店の中に入り、扉を閉めました。
「あれ?じゃないでしょ。宿に戻ってこないから、心配になって見にきたんじゃない」
「ごめーん。お客さんが途切れなくて、朝までかかっちゃったのよ」
一晩中?って、その割には元気なのはどうしてなのでしょうか?しかも、どういうわけか、お肌がツヤツヤしてるんですけど。
「エミーダ……もしかして、あなた……」
「いいじゃなーい、別に減るもんじゃないし、なにより男たちも満足してるんだから」
いや、ダメでしょ!って、なにをしているのかわかんないけど……。
「あれ?もしかして、今しがた出ていった神父さまも」
「えへ。いただいちゃいました」と可愛らしくペロッと舌を出すエミーダ。聖職者までたぶらかすとは……。そもそも神父さまも、どうしてこんな店に入ろうと思ったのよ。
「神に仕える身とはいえ、ひとりの男だもの。そんなに責めなさんな」
なんでしょう、この神をも恐れぬ冒涜発言は?
「第一、無許可営業なんかしていいの?」
「ちゃんと営業許可は取ってあるわよ」と役所公認の書類を提示するエミーダ。
聞けば、昨日、朝一で占いギルドに申請を出し、繁華街の空き店舗を居抜いて、即オープンしたとのこと。
とはいえ、一晩中続くこの繁盛ぶりはちょっと異常なような気がするのですが。と、営業方法を尋ねてみれば
「そうですか。彼女さんの性欲が強いと」
「はい。僕も嫌いではないんですけど、精力が……」
「男性の方は有限ですからね。では、そんなあなたには精力増強魔法をかけてさしあげましょう。これで10年先は枯れることないでしょう」
「ほ、本当ですか?」と男性客。
「なんでしたら、わたしで試してみてもいいですよ」と胸元チラリ。
「ぜ、ぜひ!」と男性客がオオカミに変身……
「……てなわけよ」と、涼しい表情で言ってのけるエミーダ。
いったい、なにをいっているのかわからないんですけど……。そもそも精力が有限ってなに?どちらにしても、男性をたぶらかしていることには変わりないようです。
「悩みを解決する魔法も付与してるんだから、問題ないわよ」
付加価値を免罪符とするエミーダ。
占い舘というより、成人男性のお悩み相談を受ける娼館みたいな気がするのだけれど。
「失礼ね。ちなみにいっておくけど、見境なく誰でもいいってわけじゃあないのよ。ちゃーんと選んでいるんだから」
にへらと笑って涎を垂らすエミーダ。
まったく、そんなんだからサキュバスの申し子と呼ばれちゃうのよ。もっとも、この場合、天職なのかもしれないけど。
そのせいあってか、口コミを通じ、館は連日大盛況。
男に目がないエミーダ。それにあやかりたい男性陣。
男性たちの欲求を満たし、収入を得るという、持ちつ持たれつの関係だったのですが……
一週間後の夜のこと。
「ヒヨナ、ヒヨナ。起きて……」
「ん……。あれ、今日はずいぶん帰りが早いね」
いつもなら深夜遅くに帰宅するはずの彼女が、乱れた髪のまま、なぜか荷物をまとめています。
「んもぉ、どうしたのよ?」
眠りについたばかりのわたしが不満げに問うと
「逃げるから、支度して」
「えっ、どういうこと?」
聞けば、なにやら町の商売敵の娼婦たちが押し入ってきたとのこと。さらに悪いことに、彼女が相手をした男性たちの奥さんや彼女さんたちも加わり、その殺気から逃れるように館から逃げてきたらしいのです。
脳裏に浮かぶは嫉妬に狂った女性たちの暴動。……って、これってかなりヤバいのでは?
わたしもベッドから跳ね起き、すぐに着替えて荷物をまとめることに。
すると、なにやら外のほうから大勢の話し声が。
「ここよ、あのドロボー猫が泊まってるのは!」「もぉ、逃がさないわよ!」「ギッタンギッタンにしてやる!」
なに、この修羅場展開。因果応報とはいえ、かなりヤバくないですか?
本能的に危険を察知したわたしたちは、窓からひさしへと伝い降り、裏通りに足を着けると、一目散に逃げました。
後日。
風の噂によれば、この町では浮気相手の女性のことを「ドロボー猫」の同意語として「寝取りのエミーダ」と呼ぶようになったそうです。
そんな不名誉な言い回しを自覚していない当人は、今日も元気に男漁りをしています。
【おしまい】




