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■オムネさまの祟り(仮)

【あらすじ】

ハゲだらけの町。

その原因は「オムネさま」の祟りだった。

「あんたたち、魔女じゃろ」

長老の頼みで、ヒヨナとエミーダが祟り解決に乗り出します。

そして祟り神が、ヒヨナの胸を見て放った一言とは?


『オムネさまの祟り』

神の怒りも恐れぬ、ふたりの珍道中です。

 とある町に足を踏み入れたときのこと。

「ねぇねぇ、ヒヨナ、ヒヨナ。この町の男たちって……なんか変じゃない?」

 周囲を見渡せば、心なしかハゲている男性が多い気がします。というより、少年はもちろん、屋台の店主も、店先に鎮座するワンちゃんまでもが、やけに広い額をさらしているのです。

「そう言われてみれば……」

「あまり見ちゃダメよ、ヒヨナ。男はハゲを気にする生き物なんだから」

 まったくデリカシーがないわね。と注意されました。……って、臆面もなく、日頃からオトコオトコと発しているエミーダに言われたくないですけどね。

 なんてことを思っていると、澄んだ青い瞳の好青年風の男性と目が合いました。キリリとした太い眉と高い鼻。パーツ単体で見れば格好いい男性なのですが……頭だけが、どうにも残念なことになっていました。

「おい、あんた。人の頭をジロジロ見てんじゃないよ。失礼だろ」

 血走った目で睨みつけてくるハゲメンさん。

「ご、ごめんなさい」

 わたしは慌てて謝り、エミーダの手を引いてその場を立ち去りました。

 正直、あの剣幕では残った毛まで抜け落ちてしまいそうで怖かったです。


 そんなこんなで、宿屋に辿り着いたわたしたち。

 シャワーで旅の汚れを落とし、階下の食堂にいくも、男性全員がハゲていました。

 なので食事中は極力、男性と目を合わすことなく黙々と食事を続けました。

 そうしないと無意識にハゲ頭を見続けてしまいそうなので。

「ヒヨナ。食事のときくらい、普通にしてたらぁ。ほらほら、可愛い顔を上げて、あたしとお話ししようよ」

「エミーダは平気なの?」

「なにが?」

「ここの人たちの……そのぉ、アタマ……」

 周りの男性陣の目を意識して、言いよどんでいると

「気にするからいけないのよ」

 そりゃあ、わたしだって、それくらいわかってるわよ。でも……でも、どうしても視線が頭にいっちゃうのよ。

「見ちゃ、いけないとか思ってるからダメなのよ。見るなら、しっかり見てあげないと失礼でしょ」

 その言葉にハッとさせられました。そうなのです。容姿にとらわれるから、いけないのです。エミーダのように外見ではなく中身を見ないと。あぁ、わたしは、なんて心の汚れた女なのかしら。

「ねぇ、知ってる?ハゲてる男性ってねぇ、面白い人が多いんだって。しかも、あっちのほうもなかなか絶倫らしいんだってさ」

 いやらしく周囲の男の股間に視線を這わすエミーダ。流石、サキュバス顔負けの男好き。セクハラの一線を余裕で越えていきます。……ところでゼツリンってなんですか?

 わたしが疑問符を浮かべていると、白髪混じりの髭を蓄えたおじいちゃんが、わたしたちのテーブルにやってきました。

「お嬢さん方、相席いいかね?」

「どーぞぉ」と促すエミーダ。

「すまんのぉ」と、おじいちゃんも椅子に腰掛けます。

「つかぬ事を聞くが、あんた方、この町の人間ではないね」

 年相応の立派なツルツル頭。それだけに言葉の重みが違ってみえます。

「年寄りの勘なのじゃが、あんたら、もしかして魔女かね?」

 わたしたちの素性を言い当てたおじいちゃん。するとエミーダが不敵な笑みを浮かべました。

「だとしたら?」

 含みを持たせた返しに口をつぐむわたし。ここはひとつ、彼女の交渉術にお任せすることにしましょう。

「もし魔女なら、長老であるワシの話を聞いてはくれまいかのぉ?」

 異様な眼力で見据えるおじいちゃんの言葉に、わたしたちは黙って耳を傾けました。


「……で、これが噂の祠なのね」

 山の中腹に祭られた祠。

 地面から伸び出た岩に荒縄が巻かれています。大きさは、わたしたちの三倍ほどでしょうか。しかも、ただの岩ではありません。一言でいうなら、それは女性の胸の形をしていたのです。ただし、それは、ふたつの形が保たれていればの話……。

「さっきも話したとおり、町の若者たちがオムネさまに跨がり、壊してしまったのじゃ」

 跨がっただけで岩が崩れた。って、いったい、なにをどしたらこうなるのでしょうか?

 すると、エミーダが言います。

「これって、みんなして祠によじ登って、好き放題に跨がったでしょ?」

「そうじゃ。バカなそいつらが手荒く扱ったもんじゃから、先端部が欠けてしまって、ご覧の有様じゃ」

 以来、オムネさまの怒りを買い、町中の男たちがハゲてしまったというのです。

 これはいかんと気づいた町の人たちが造り直したそうなのですが、どうにもこうにもオムネさまの怒りが収まらず、現在にいたるそうです。

しかし……わたしが言うのもなんですけど、かなり歪な仕上がりですね、これ。

「それで、先日の占いによれば、訪れたふたりの魔女が呪いを解くといわれておってのぉ。なので、どうか、オムネさまの怒りを静めて、この呪いを解いてほしいのじゃよ」

「だってさ。この手の修復作業には、ヒヨナのほうが適任でしょ」

 うーん……確かにヒーリング専門だけど、それは有機物に対してだけ。無機物はやったことはないんだけど。

「お願いじゃ。どうか、あなたさまの力で毛を生やしてくれ。せめてワシだけでもフッサフサにしてくれ。なんなら前髪だけでも」

 意外と小者な長老さま。そもそも抜け駆けなんかしたら、村人男子から毛を毟られるのでは?

 するとエミーダが、小声で囁きます。

「ねぇねぇ、ヒヨナ。ハゲが直ったら精力落ちちゃうんじゃない?」

 相変わらず心配する方向が、ちょっとあさってだね、エミーダ。ともあれ、謝礼も出すとのことなので、わたしも二つ返事で請け負うことにしました。

 いつものように意識を集中し、脳裏に降りてきた呪文を詠唱します。


『敏感な膨らみに手を伸ばす少女。得も知れぬ胸の高鳴りに高揚し、自我を失う』


 うーん、自分でなにを口走っているのか、もう、わかんない……。とそのときでした。

 ピカァァァァッ!

「おおお!」

 神さまが長老さまに憑依した瞬間、なぜか長老さまの頭が神々しく光り輝きました。

「誰じゃ、わらわを呼び出したのは?」

 長老さまの口を借り、ギョロリと眼が動きます。

「わたしです。じつは、あなたさまにお話がありまして……」

 すると長老さまがわたしの胸を見て

「チッ。ヒンヌーか……」

 カチーーーン!

 気づいたら、長老さまの顔に乙女のグーパンチがめり込んじゃいました。

「やれやれ、乱暴な小娘じゃな」

 長老さまから幽体離脱した得体の知れない女性。もちろん霊体なのでノーダメージ。

「それで小娘。わらわになに用じゃ?」

 エミーダに負けず劣らずグラマラスな神さま。うーん、なんだか気が滅入ります。

 わたしは気を失って倒れている長老さまを放置したまま、長い布をまとう神さまに言いました。

「村人の髪を元に戻してください」

 すると神さまは目を細め

「ほぉ……わらわのご神体を粗末に扱っておきながら、要望だけはいっちょ前とはな。片腹痛いわ」

「じゃあ、どうすれば戻してもらえるんですか?」

「おぬし、見たところ魔女のようじゃし、その力でもって、わらわの御神体を元に戻してもらおうかのぉ」

 そして、わたしの胸元を覗き見て嘲笑し

「もっとも、えぐれておるおぬしに、わらわのような立派な胸を作れるかどうか怪しいもんじゃがのぉ」

 神さまにディスられ、握りこぶしを作った矢先、エミーダに制止されました。

「どうやら、成長過程のヒヨナでは荷が重いようね」

 この期に及んで親友にもディスられました……グスン。

「なら、あたしのような豊満な胸にしてあげるから感謝なさい」

 得意げに大きな胸を揺するエミーダでしたが

「そんな品のないボインなどいらん」

「はぁ?品のないとは聞き捨てならないわね」

「品のない胸をボインといってなにが悪い。そもそもおぬしの胸からは品性の欠片も見当たらんわ」

「ねぇ、今の聞いたぁ?ヒヨナー!品のない祟り神から下品って言われたぁ。信じられるぅ?」

「誰が祟り神じゃ」

「村人たちをハゲにしまくって祟ってるじゃない!」と失神中の長老さまのハゲ頭をペチペチ叩くエミーダ。

「ついでにヒヨナの可愛らしい胸までけなして!」

 それってフォローになってないですよ、エミーダさん。

「ヒヨナは口出ししないで!」

 傷つくわたしを無視し、鼻先を突き合わせていがみ続けるふたり。

 そして不意にエミーダが不敵な笑みを浮かべました。

「あ、そうだ。ハゲた原因となったオムネさまを排除してしまえば丸く収まんじゃない?」

「ギクッ!」と露骨に焦る神さま。弱点は神にもありといったところでしょうか。ならば、わたしをヒンヌー扱いした罪の重さを、知らしめてあげます。

「お、おぬしら……笑えぬ冗談はよせ」

 冷や汗を流して怯む神さまを無視し、天から降りてきたインスピレーションのそのままに、わたしとエミーダが呪文を詠唱します。


『若き茂みに咲く薔薇色の蕾……』

『青き大地にそそり立つ肉茎……』


「お、おぬしら、正気か?神相手に喧嘩を売るつもりなのか?」

 神さまが怖くて、女なんかやってられますか。そして最後の呪文を同時に結ぶわたしたち。


『……自己陶酔の果て、乙女は歓喜に溺れた』

『……快楽の末、青年は熱い欲望を放った』


「よ、よせ!や、やめろーーー!」

 もう遅いです!


【【エレクト・スラッシュ!】】


 わたしたちの手から発した魔法により、岩造りの祠が粉々に消し飛びました。

 あー、スッキリした。


 そして一夜明け。

「で、結局……なんの神さまだったんだろうね?」

 町を出立し、街道を歩きながらエミーダに聞いてみれば

「さぁ?」と首をすくめるエミーダ。

「きっと胸だけが、唯一の取り柄だったんじゃない?その点、あんたは可愛いから救いがあるわよ」

「なに、それ?エミーダに褒められても、ちっとも嬉しくないんだけど」

 と、ふくれてはみたものの、親友に言われると、ちょっと嬉しいかも。


 ちなみに後日談として風の噂で聞いたのですが、祠が消滅したあの町の男の人たちは、胸毛まで生えまくったとか、ならなかったとか……。

 もし、それが本当ならば、あのハゲメンさんも喜んでいることでしょうね。


【おしまい】

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