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■わたしの勇者さま(仮)

【あらすじ】

「僕、勇者なんです」

盗賊から救ってくれた、憧れの勇者さま。

一緒に旅をするうち、ヒヨナの乙女心は急加速!

……ところが、なぜか勇者さまはモンスターが現れるたびに姿を消す。

果たして彼の正体は?


【わたしの勇者さま】

ヒヨナの思い込みは、今日も元気です。

 それは人気のない、とある街道をふたりで歩いていたときのことでした。

「えへへ、久しぶりの女だぜ」

 下品な笑いで舌舐めする4人の盗賊さんに囲まれてしまったわたしたち。

 ナメクジが這うような男性たちの視線は……わたしを素通りして、全部エミーダに突き刺さっています。

 その注目を一身に受ける彼女といえば、「うっふん♥」と得意げに白金の髪をかき上げ、フェロモンをまき散らしていたりします。……って、この状況、わかってるのかしら。

 なにはともあれ、わたしを見向きもしない盗賊さん。ちょっとだけイラッとしたので、わたしはわたしなりにアピールしてみます。

「お願いです。どうか乱暴だけはしないで」

 両手を組み、精一杯のしなを作り、か弱さを演出。おまけに慣れないウィンクサービス。しかし……

「ガキには興味ねえから、安心しろ、ちびっ子。」

 その荒くれた言葉に、思わずカチーーン!

「あと十年して、胸が成長したら考え直してやる」

 カチーーン!カチーーン!

 自分でいうのもなんですけど、とっくに成長が止まってるんですけど!

 こうなったら、痛い目、見せてやるんだからぁ!プライドを傷つけられた乙女の恐ろしさを思い知れ!

「ちょっとちょっと、やめてよ。ヒヨナ」

 詠唱するわたしを見るや否や、エミーダがわたしを制止しました。

「ね、ちょっとだけ待ってよ。せめてふたり……いや、ひとりだけでも味見させて」

 って、うるさいなぁ。あなたの男漁りより、わたしのプライドのほうが大事なんだから、邪魔しないでよ。

 と電撃魔法の呪文を唱え終えたときです。盗賊さんたちの背後で、ひょっこり旅人らしき男性が。

「そこまでだ、おまえたち!か弱い女性を手籠めにかけはせぬ!」

 が、発動直前の魔法は急には止まれません。

【オナビーズ・ブラスト!】

 と声高らかに放った極上の電撃魔法は、男性もろとも盗賊さんたちを吹っ飛ばしました。


「ごめんなさい。まさか、あなたが現れるとは思わなかったから」

 出会い頭のような巻き込み事故に、わたしはヒーリングしながら彼に平謝り。ちなみに盗賊さん4人は軽いやけどを負いつつ、尻尾を巻いて逃げていったけど……まぁ、大丈夫でしょ。

「それで、あんた誰よ?」

 獲物となるはずだった男たちを捕まえ損ねたエミーダが面白くなさそうに尋ねると

「じつは、ここだけの話……僕、勇者なんです」

「勇者!?」

 言われてみれば、どことなく顔つきも精悍で普通の人とはちょっと違うような。

「そのわりには、あんた武具をまとってないじゃない」と疑わしい眼差しを投げるエミーダ。

 確かに。剣の代わりにカバンを背負っているし、着ているものも旅人風情にしか見えないのはなぜなのかしら?

「じつは、バーモントン国王から極秘の書簡を預かってまして、身分を隠すため、一般市民を装い、隣町のテキトーンへと向かってるんですよ」

 あー、なるほど。甲冑つけて、勇者の剣なんか持って歩いてたんじゃ、あからさまに目立ちますものね。

「そこで、キミたちが盗賊に襲われているのを見て……」

「正義感にかられて、助けに入ったってわけね」

 まったく余計なことをしてくれたもんだわ、と舌打ちするエミーダ。なんで、そんなに不服そうなのかしら?

 とはいえ、わたしとしては彼に言っておかなければならないことがあります。

「あのぉ、今のヒーリング詠唱のことなんですけど……わたし、そのぉ、痴女とかヘンタイとかじゃないんで……誤解しないでくださいね」

 すると彼は微笑み

「僕のために使ってくれた素敵な詠唱です。誰にも話しませんよ。むしろ独り占めにしたいくらいだ」

 ズキューン!と、わたしの小さな胸が打ち抜かれました。わたしの恥ずかしい欠点を褒めてくれた包容力。さすが勇者さん。懐が深い。

「ちょうど、わたしたちもテキトーンに行くところだったので、もし、よければ、一緒にテキトーンに行きませんか?」

 勇気を振り絞った一言。告白のような甘酸っぱいわたしのお誘いに

「こちらこそ、喜んでお供させてもらいますよ」と勇者さんは快く同行することを受けてくれたのです。

 その言葉に、乙女心の花畑が満開になったことは、ここだけのひ・み・つです。

 目的地のテキトーンまでは4日の道のり。

 その間、勇者さんはいろんな話を、わたしに聞かせてくれました。

 砂城に住む魔王討伐や、国の謀反を計る裏切りの阻止など。おとぎ話のような興奮を身振り手振りで語ってくれました。

 あぁ、素敵。こんな人に抱かれ、わたしの初めてを受け止めてほしい。そんな願望を思い描くようになってしまいました。……って、キャー、恥ずかしい!

 そんなこんなで3人で街道を歩いていると、吸血モモンガーがわたしたちの眼前に現れました。行く手を阻むモンスター。旅をしていれば、こういう場面は日常茶飯事のこと。それだけに脊髄反射のような三択が脳裏をかすめます。

【たたかう】【にげる】【なかまにする】

 あっちは2匹。こっちは3人。しかもこっちには勇者さんがいるのだから、余裕でしょ。

 って、アレ?勇者さんは?

 右、左、後ろ……さらに空を見上げるもいません。

 なぜ?忽然と消えた勇者さんを求めるべくエミーダに視線を投げかけるも、首をすくめて首を横に振るだけ。

 刹那、襲いかかってくる吸血モモンガー。わたしは反射的に乙女のグーパンチを繰り出し、2匹の敵を撃退しました。それをエミーダは楽しそうに拍手するだけ。って、なんで加勢してくれないのよ!

 と、そこへ、街道脇の茂みから勇者さんがひょっこり現れ

「無事ですか?ヒヨナさん!」

「ええ、相手が弱いモンスターだったので」

「そうでしたか。怪我がなくてなによりです」

 と、わたしのことを気にかけてくれる勇者さん。もう、素敵すぎてクラクラしちゃう。

「あんた。肝心なところで、どこにいってたのよ?」とエミーダ。するとズボンの腰紐を締めながら

「ちょ、ちょっと……大キジを撃ちに」

 さすがは勇者さん。もしかして吸血モモンガーの生息地で、ひとり昼食の調達にいってたってことかしら?

「それで勇者さん。肝心な大キジは?」

「残念ながら、あなたたちのほうに気をとられて、打ち損ねました」

「あ、気が散るような真似をしてごめんなさい」

「いいえ、気になさらないでください。ヒヨナさんたちに、なにかあっては目覚めが悪いですから」

 そんな淑女を敬う紳士の対応に、わたしの心が鷲づかみにされたのはいうまでもなく、もうメロメロメローナになっちゃいました。

 その後もモンスターや獣が現れたのですが

「おっと、靴紐がほどけた」

 心配しないで。ここはわたしが撃退するから。

「うわぁ!目に砂がぁ!」

 大丈夫。まかせて。敵を倒したら、わたしが洗浄してあげるから。

「くっ、腕がいうことを利かない。さては魔王戦のときにかけられた忌まわしき呪いか」

 勇者だもの。呪いの2つや3つくらいあってもおかしくないわ。

 と連日にわたって、わたしは彼をかばい続けてました。なのですが、少しだけ気になることがあります。

 宿泊施設のある町や村が無い場合、旅人は基本的に野宿がライフスタイル。外敵から身を守るため、結界を張って夜を明かすのですが……翌朝、必ずといっていいほど、勇者さんがやつれているのです。それとは対照的に、なぜかエミーダの肌がツヤツヤしていたりします。

 そのため、朝一番にヒーリングをかけ、活力を分け与えていたのですが……日を追うごとに頬はこけ、ついには干物のようになってしまいました。ご飯もしっかりとって、ちゃんと寝ているはずなのになんででしょう?

 これも、きっと呪いのせいなのでしょうね。


 そして無事にテキトーンに到着し

「それじゃあ、僕は書簡を届けにいってきます。今日まで共に旅ができたことは忘れません」

 干からびた手でもってエミーダとわたしの手を握りしめ、笑顔を見せる勇者さん。空を赤く染める夕日が、青白い勇者さんの顔を赤く染めていました。

「勇者さん。わたし、いつか呪いを解く方法を探してみせます。だから、それまで無理をしないでください」と、わたしは別れを惜しんだのです。


 宿で一夜を過ごした翌日。

 わたしたちがテキトーンの観光を楽しんでいたとき。憧れの勇者さんが郵便局から出てきました。

「じゃあ、お預かりします」

「道中、気をつけてな」

 カバンを担ぎ、見送る郵便局員に挨拶し、足早にその場を去っていく勇者さん。

 あぁ、わたしの勇者さま。今日も書簡を届けに行かれるのですね。と、後ろ姿を見送っているとエミーダが局員に声をかけます。

「ねぇ、おじさん。彼って何者なの?」

「あぁ、彼は郵便配達員さ。真面目な男なんだけど、極度の怖がりでね。先日も土ウサギを見ただけで、引き返してきたくらいなんだ」

 引きこもりにならないのが不思議なくらいだよ。と笑う局員おじさん。

「ゆ、勇者さんじゃないんですか?」

「勇者?そんなわけないよ。あぁ、もしかしておたくらかい?今回、彼と同行したという女性は?」

「そうですけど、なんで、そのことを?」

「言ってたんだよ。今回は女性ふたりが護衛してくれたので、無事に配達できたと」

 局員さんから聞かされた真実に、わたしは膝から崩れ落ちました。

「なにかの縁で、また彼を見かけたら、ボディーガードをよろしく」

 そう言い残し、局員さんが局内に戻っていきます。そしてエミーダの手がそっとわたしの肩に触れました。

「元気出しなよ、ヒヨナ」

 と励ましてくれるエミーダ。やっぱり、持つべきは親友ですね。と折れた乙女心を元に戻し、わたしは決意を胸に秘めます。

 そう。あれは世をあざむくための仕事。

 きっと、これからもああやって身分を偽って世界を守っていくのよ。だから、わたしも頑張って勇者さんの呪いを解く鍵を探してあげなくちゃ。


 後日……。

 エミーダとテキトーンの観光に現を抜かしたわたしの心には、勇者さんの面影など、これっぽっちも残っていませんでした。


【おしまい】

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