↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

■洞窟と校歌斉唱(仮)

ゴキブリが怖すぎて、洞窟で校歌を熱唱!?

ヒヨナの歌声が招いたのは、まさかの山崩れだった……!


『洞窟と校歌斉唱(仮)』

今日も元気に歌います

挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)

※イメージです


「……いますね……アレが」

 ゆっくり発光トーチを壁に立てかけ、リュックから殺虫剤と噴霧器を出しながら、わたしは首元のマイちゃんに話しかけました。

「もしもーし、エミーダさーん。生きてますかぁ?」

『失礼ね。ピンピンしてるわよ』

「それはなによりです。ところで、今、どこにいるの?」

『わからないわよ。まぁ、あんたの下に落ちたことは間違いないんだけどねぇ』

 村はずれの名もなき洞窟。

 麓の村人から、特殊な毒消し草の採取が、いいお金になることを耳にし、軽い気持ちで洞窟に入ったわたしたち。ですが、その最中、エミーダが落とし穴という古典的な罠にかかってしまい、はぐれてしまったのです。

 しかも、この洞窟には肝心の毒消し草はなく、はぐれ魔物《コウモリ》たちが群生する生息地だったのです。

 一般的な野生動物と、危険な魔物の丁度中間に位置するはぐれコウモリ。

 ゆえに噛まれて血を吸われると激しい痒みに襲われ、心臓麻痺を起こすとか起こさないとか……。これといった文献資料がないため、症状すら中途半端な存在なのです。

 しかも……しかも!

 このはぐれコウモリ、あろうことか……あの……あの、どこにでも現れるゴキブリを主食とするから恐ろしい!!

 もう、想像するだけで虫唾が走るのに!なのに、なのに、さっきから灯りの届かない足元でカサカサしてるんです!

 ……カサッ

 カサカサ……

 ……止まった。たぶん、わたしの右足あたりで。

 わたしは恐怖にかられるまま、殺虫剤を噴霧器に入れ、シュコシュコと空気を圧縮しました。

『ヒヨナ、心拍数が爆上がりしてますよ。血中酸素も低下してます。なので、エラ呼吸でもかまわないので呼吸することを推奨します』

 マイちゃんからの警告。しかし、今はそれどころではないのです。

 カサカサ……

 カサカサカサカサ……

「増えたぁぁぁぁあっ!?」

『どうしたの、ヒヨナ!』と胸元からエミーダの声が。

「エ、エミ、エミ……ダ……」

『なに?』

「ゴメン……先に村へ帰るね」

『へっ?あんた、なに、いってんの?』

「だから、エミーダも生きて帰ってくるんだよ」

『ちょ、ちょっと、いったいなんなのよ?』

「生きてたら、また会いましょう」

 涙の別れを告げて、元来た道に振り向くわたし。暗く長い洞窟。その先の出口を目指し、一歩、踏み出したそのときでした。

 カサカサカサカサッ!ブーーーーン!

 道を阻むように飛んできた黒光りの悪魔に、意識が飛びそうになりました。

 ギャァーーーーーーーッ!

 殺虫剤入りの噴霧器を投げつけ、一目散に出口へ!

 がむしゃらに土を蹴り、何度も転び……そして地表に出た瞬間、生きてる喜びを噛み締めました。


 降り注ぐ太陽の光。

 さざ波のように揺れる深緑。

 楽しげに歌う小鳥さんのさえずり。

 空っぽになった頭で、生還した余韻にひたり続けること小1時間……。

 ふっと、落とし穴に落ちた親友のことが脳裏によぎりました。

「ねぇ、マイちゃん。エミーダは生きて……えっ?」

 胸元に視線を落とすと、マイちゃんであるペンダントがありません。しかも、ギルドカードを入れてあるリュックも置いてきてしまいました。

「……どうしよう」

 速達を利用しても、ギルドカードの再発行には約1ヶ月から2ヶ月。

 もちろん、マイちゃんに代わるモノもありません。

 エミーダは……生きていれば儲けものです。

 悩んだ末、わたしは意を決しました。

 怖いけど、取りに行こうと。

 再び、発光トーチを持ち、洞窟内へと足を踏み入れます。

 最初に見つけたのは、壊れた噴霧器の残骸でした。一番頼りになる道具を壊してしまったのは、正直イタい……。

 なので、気持ちを切り替えて前に進むことにしました。

 気配さえ感じとらなければいいだけ。……ということで、わたしは卒業した魔法学校の校歌を大声で歌いながら歩くことに。恐怖で震える声が木霊し、卒業式を彷彿させる哀愁があります。ただし、わたしが歌えるのは1番だけ。しかし、これが意外と効果てきめんでして、人の気配におののいたのか、ゴキブリたちの気配が消えました。母校の校歌は偉大ですね。

 そんなこんなで、しばらく進むとマイちゃんが転がっていました。

「ゴメンねぇ、マイちゃーん」

 拾い上げて頬ずりしていると、マイちゃんが反応を示すように輝き始めました。

『魔力補充が完了しました』

 無事でよかったぁと、安心していると

『ヒヨナから離れた瞬間、死んだかと思いました』

 ペンダントであるマイちゃんは、死なないから大丈夫だよ。

「さて、あとは荷物だけね」

 マイちゃんを首に通し、立ち上がった瞬間

 カサ……

 足下の岩陰でゴキブリの気配を感じたわたしは、すぐさま校歌斉唱を。

『なんですか、その呪文は?どんな効力があるんですか?』

 あとで教えてあげるから、今は聞かないで。

 校歌をリピートし、マイちゃんが質問を繰り返します。そのおかげで、ゴキブリが寄りつく気配がなくなりました。

 そんな感じで奥に進むと、愛着いっぱいのリュックがポツンと置き去りに。

 そーっとリュックの蓋をつまむようにして開けてみます。もちろん校歌を歌いながら。

 侵入した気配なし。よかったぁ。

 と、校歌斉唱をやめた途端、足下でカサカサが。

「ギャァァァァッ!」

 悲鳴一発で退散……てか、もうイヤー!

 わたしが半ベソ状態でパニクっているとマイちゃんが

『ヒヨナ、どうか落ち着いてください』

「マイちゃんこそ、この状況において、よく落ち着いていられますね!?」

『マインド・インテリジェンスですから』

 マイちゃん……もしかして砕かれたい?

『ご冗談を。ところでヒヨナ、いつものように魔法は使えないんですか?』

 インスピレーションが降りてこないんです。なので、実力でこの困難を乗り越えるしかないんですよ。校歌熱唱という実力だけで。

 それよりも、エミーダはどうなったのかしら?

「エミーダ、生きてるぅ?」とマイちゃんに声をかけると、すぐに返事が。

『さっきから出口で待ってるんだけど』

 ふて腐れ気味の返答。って、あれ?なんで出口にいるのかしら?すれ違った覚えはないんですが。

『落ちたところから、すぐのところに出口があったのよ』

 つまり、この洞窟には似たような出入口がいくつもあるということでしょうか?

「ちなみに出口までの距離は?」

『そうねぇ……だいたい200歩ってとこかしら』

 近い。となれば、わざわざ戻るより、エミーダが落ちたところから外へ出たほうが早そうです。

 今からそっちに行くことを伝え、わたしはリュックを背負って落とし穴の場所へと向かいました。

 ズサァーーーーーっとスロープ状の落とし穴を滑り降りると、うっすらと外の光が届いてました。

 助かった……。これでカサカサから解放される。と出口に歩を進めたときでした。薄明かりの中、レンガほどの小箱が落ちてました。しかもひとつだけではなく、点々といくつも。

「なにかしら?」

 宝箱にしては少々、小さすぎるような?

 好奇心にかられ、蓋に手をかけたときでした。

『ヒヨナ、ダメです。無数の生命反応が……』

「えっ?」と言いつつ、蓋を開けた瞬間、この世のものとは思えないおぞましいビジュアルが。

「!!!!!!!」

 ねっとりぬちゃぁとした鳥もちの上に、みっちりびっしり、ひしめき合っているゴキブリたち。

 心肺停止寸前のわたしの脳裏に降り注ぐ詠唱文。わたしは無我夢中で唱え、人生最大である魔法を渾身の魔力を使って放ちました。

 どかぁーーーーーーーーんっ!

 閃光とともに、わたしの意識は体もろとも吹っ飛ばされたのでした。


『ヒーリングを確認。心拍数が正常値に戻りました』

「おーい、ヒヨナー。起きてぇ。目を覚ませぇ」

 穏やかな木漏れ日の下。エミーダのヒーリングで、わたしは起こされました。

「あ、エミーダ。あれ?わたし、どうしたんだっけ?」

「どうしたもこうもないわよ。あんた、覚えてないの?」

 はて?なんでしたっけ?

「マイから聞いたけど、ゴキブリに驚いて魔法使ったんだって?」

 あぁ、そういえば……。って、思い出させないでぇ!あのゴキブリたちが脳裏に残像として蘇ってくるぅ!

「その様子だと、どんだけの威力の魔法使ったか、覚えてないようね」

 どういうことでしょうか?

「あんたが洞穴から吹っ飛んできて、あたしも巻き添え食らったのよ」

「そうだったんだ……いやぁ、ゴメンゴメン。ところで、ここどこ?」

 見覚えのない森の景色にキョロキョロしていると

「洞窟のあった山の麓よ……」

 ふもと?と首を傾げるわたしに、エミーダが山腹のほうを指さしました。

「あそこから、吹っ飛ばされて落ちてきたのよ」

 見上げれば、洞窟のあった山の斜面が崩れ落ち山肌が見えてました。

 その変わり果てた景観に、わたしは言葉を失い、そして服についた土埃を払いました。

「宿に帰りましょ」

 わたしの言葉に、エミーダも

「そうね」と、なにも語らずに同意してくれました。

 村に戻る道中、山の様子を見に来た地元民の方々に安否を気遣われましたが

「遠かったので大丈夫です」とか

「怖かったですぅ」と無関係なことを装いました。

 山を削り落としてしまった大惨事。正直、事の張本人と名乗り出るには、さすがに怖いですからね。

 なので数日ほど宿に連泊し、村の様子をうかがうことにしました。

 幸いなことに生活圏から離れており、村自体には影響もなく、思ったより大騒ぎになるようなことはありませんでした。

 めでたしめでたし。

 と、この話にはまだ続きがありまして。

 じつはこのとき、山で毒消し草を採取していた村人のひとりが、わたしの歌を聞いたらしいのです。

「あのとき、どこからともなく女の歌声が聞こえてきたさ。おらさ、恐ろしくなってっさ、下山を始めた直後に、あの山崩れだろ。思うに、ありゃあ、きっと山の聖霊かなにかに違えねぇだよ」

 ……えぇ。それでいいと思います。

 こうして、その村では山神さまの話が民間伝承として根づきました。とさ……。


【おしまい】


 あ、そうそう。

 余談ですが、わたしが開けたあのレンガのようなものは、毒消し草を食い荒らすゴキブリを駆除する捕獲器だったそうです。

 あぁ、おぞましぃ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。