■断捨離と暗殺者(仮)
【あらすじ】
荷物が増えすぎたので、エミーダに断捨離を命じられたヒヨナ。
不要品を売っただけなのに
なぜか「凄腕の武器商人」と勘違いされてしまい……。
そして数日後、本物の暗殺者が現れてしまいます。
『断捨離と暗殺者(仮)』
初登場のマイちゃん、大活躍です。
※あくまでもイメージです
「あれ?ない」
宿屋のベッドの上で、わたしがパンパンに膨らんだリュックの中身をゴソゴソ漁っていると
「どうしたの、ヒヨナ?」
「うーん、美容液を探してるんだけど……見当たらないんだよねぇ」
「まったくぅ、管理がずさんなんだからぁ。ほら、あたしの貸してあげるから使いなさい」
エミーダから美容液を受け取り、お肌をペチペチしていると
「ところで前から思ってたんだけど……あんたのリュックってさぁ、なにが入ってるわけ?」
「うーん……着替えと野営道具一式とぉ……それからぁ」
あれ?あと、なに入れてたっけ?
「ヒヨナ……旅の始めの頃に比べて、荷物増えてるよね?」
そうかしら?途中で大きいリュックに買い換えたことはあったけど。
「ちょっと、見せなさいよ!」とわたしのリュックの蓋を開き、中身を床にぶちまけるエミーダ。
突然始まった就寝前の持ち物検査。あぁ、面倒くさい。
「ちょっとちょっとぉ、なんなのよ、コレ?いったい、どんだけ溜め込んでるのよ!」
床一面に広げられた荷物。正直、自分でもビックリです。
床に座り込み、山盛りの荷物を眺めていると、エミーダが手際よく、荷物を選別し始めます。旅に欠かせない野営道具や衣類を取り除き、選別しきれない荷物にため息を漏らしました。
「……で、これはなに?」
「郵便勇者さんから、黙ってもらった火打ち石です」
「野営に使えそうだから一旦、保留ね。で、これは?」
「それはウィンクさまと会ったカフェテラスのスプーンとメニュー……かな?」
「破棄!で、これは?」
「それは占い館で買った小壷……だったような?」
「しっかり騙されてるじゃない!」
と壺を粉々に粉砕するエミーダ。あぁ、高かったのにぃ。
「さて、問題はここからね。まずはこれ?」
「それはわかるわよ。恋愛成就のお守り」
「じゃあ、これは?」
「恋愛成就の木札」
「これは?」
「恋愛成就の漬物石」
あ、窓から投げ捨てられちゃった。
「まったく……。よくも、まぁ、こんなに集めたわね。恋愛グッズはひとつだけにして、残りは後日、寺院で処分してもらいましょう」
「処分するんだったら、半分エミーダにあげる」
「いらないわよ、そんなもの」
「エミーダは持ってないの、恋愛開運?」
「必要ないもの。持ってるわけがないでしょ」
そうなんだ。
「まったく、こんだけ散財してれば、お金もないわけよね」
恋愛成就における開運グッズの数々。
慢性貧乏なのは旅先で食するスイーツや、これらが原因のようです。
「それだけじゃないでしょ。そもそも、これはなんなの?」
エミーダの訝しげな視線が物騒な道具に落とされました。
「これってさぁ、買ってから一度も使ってないじゃない」とナックルダスターに4本の指を通し、握り拳を作るエミーダ。うーん、こうして、あらためてみると殺意を感じる武器ですね。
「えーと……暴漢対策です」
「暴漢ねぇ……。ヒヨナには無用の長物なんじゃない?」
まぁ、大抵のことは乙女のグーパンチで間に合ってますからね。
「このサバイバルナイフも暴漢用?」とエミーダが革ケースに収まっている凶悪まがいのタガーナイフを引き抜きます。
「そ、それは……ペティナイフを無くしたときの予備として」
「ふーん……。で、この見えない極細ワイヤーは?」
「そ、それは……裁縫用の糸代わりで……」
「ウソおっしゃい。どう見てもアサシンが使う首切りワイヤーじゃない。まったく、どこでこんなモノを買ってきたのよ?」
それは、わたしにもわかりません。
「ほ、ほら、備えあればなんとやらっていうし……」
「備えもここまでくれば異常よ。旅人の鉄則。荷物は最小限に。だいたいこんなものを持ち歩いているから男が寄りつかないのよ。そもそも開運グッズと相殺してるじゃない。それに、この重量……これじゃあ、疲れるだけでしょ?」
エミーダの荷物が少なすぎるのよ。変な下着だらけじゃない。生活感なさすぎでしょ。
「少なくともヒヨナのアサシングッズよりマシよ」
そしてエミーダは錠剤の入った小瓶をつまみ上げ
「それから、この見たことのない薬はなに?」
瓶の蓋を抜き、匂いを嗅いで眉根を寄せるエミーダ。
「猛毒指定のクマカブトの匂いがするんだけど……毒でしょ、これ」
あれ?確か、女の子の日に使う痛み止め……だったような?
「以前、エミーダも飲んだはずだけど」
わたしの告白に息をのみ、記憶を探るエミーダ。そして
「あー…………。なるほど、どうりでできないわけね」
なにを得心してるのか、わかりませんでした。
「これは捨てないで、取っときましょう」
必要なモノと処分するモノが、エミーダの手によって選別されてしまいました。
「明日、露店を開いて、この不要品を全部売り払ってくること。いいわね?」
エミーダの圧に押され、わたしは頷くほかありませんでした。
翌日。
風呂敷にまとめられた不要品を持って、渋々、中央広場の路上で店を広げたわたし。
コーヒーカップにスプーンとメニュー一式
携帯用の火打ち石とミニ吹き矢。
両手兼用のナックルダスター2個に、専用の革グローブ。
防刃ベストに仕込みナイフ。
刺突重視のサバイバルナイフ。
ブービートラップに特化した首切りワイヤー5本セット。
あと恋愛成就のハウツー本と付録のお守りセットなどなど。
「こんなの売れるのかしら?」
とりあえず風呂敷を広げ、商品を丁寧に並べてお客さんが来るのを待ちます。
「あぁ、ヒマだなぁ……」
あくびをかみ殺し、ハウツー本を読みながら小一時間ほど経ったときでした。
コートの襟を立てた身元不明の男性がひとり。
「あんたをプロと見込んで仕事の依頼をしたい」
仕事?はて、なんのことでしょう?
「これだけの獲物を揃えておきながら、まだとぼけるつもりか?まぁ、いい。実は……やってほしい奴がいる」
それってもしかして……暗殺の依頼かしら?また、なんで?
「もちろん報酬は用意する」
うーん……困っちゃうなぁ。
「残念ですけど、わたし、そういうのはやってないんで」
そもそも、わたしのようなか弱き乙女に人○しなんかできるわけがありません。
「ここにある道具なら、お売りすることはできますけど」
「なるほど。プロが使う道具を譲ってもらえるというわけか」
いえ、ピッカピカの未使用品なんですけど……。
「信頼できる武器商人と見込んで、全部売ってくれ」
と金貨4枚を差し出すお客さん。きゃー!これだけで利益が出ちゃったわ!
「あと、毒薬の類はないか?」
「毒ではないですけど、わたしが常備しているコレでよければ……」
錠剤の入った小瓶の蓋を取り、慎重に匂いを嗅ぐお客さん。そして頷きます。
「クマカブトの匂い……さすが一流は持ち物が違うな」
これもいただこう。と銀貨3枚を追加してもらえた。ラッキー!
「包んでもらえるかな」
喜んで!とわたしは風呂敷で全商品をくるんでお客さんに渡しました。もちろん返品も保証もできないことを伝えて。
「サービスとして、こちらもお付けしておきますね」とハウツー本も一緒に。
「カモフラージュ用のアイテムか……。なるほど。これなら怪しまれずにターゲットに近づけるな」
なにを、いってるのかしら?
「じゃあ、俺からもひとつプレゼントしよう」
おじさんがふたつのペンダントをわたしにくれました。
「あんたなら、きっと使いこなせるだろう」
高そうなアクセサリー。こんな素敵なモノを頂いていいのでしょうか?
「もう、俺には必要のない物なんでな」
そう言い残し、おじさんは風呂敷を背負って去って行きました。
「お買い上げありがとうございましたぁ」
まさかの完売と思わぬ臨時収入。しかもペンダントまでいただいちゃった。
大金とともに宿に戻り……
「どぉ、エミーダ?大人っぽいでしょう」
翡翠石が埋め込まれた銀細工のペンダントを身につけたわたしに、エミーダが目を丸くしました。
「エレガントで素敵じゃない。どうしたの、それ?もしかして、また無駄遣い?」
「商品を買ってくれたお客さんからもらったんだよ」
「ふぅーん、粋なお客さんもいるものね」
「でね、2個あるから、エミーダにあげるよ。ほら、後ろ向いて」
白金色の髪を持ち上げ、うなじを見せる彼女の首にペンダントをつけてあげました。
「これでお揃いだね、エミーダ」
ペアのアイテムに、少しだけ照れるエミーダ。こういうときの彼女はちょっと可愛いかも。
と、そのときです。
『魔力補充が完了しました』
「えっ?」「えっ?」『えっ?』
なに、今の声?女性?
「………………」
胸元のペンダントに視線を落とすわたしとエミーダ。かすかな魔力の揺らぎを感じ取り、ペンダントを外そうとすれば
『ちょっと待ってください。わたくしは決して害あるアイテムではありません』
「勝手に喋るだけで、十分に害よ。そもそも、あんた何者よ?」
エミーダの問いかけに、ふたつのペンダントが喋ります。
『申し遅れました。わたくしはマインド・インテリジェンス。身につけた方のサポートをするマジックアイテムです』
人間味のない声質。それだけに怪しさ満点なんですけど……。するとエミーダがペンダントに語りかけます。
「胡散臭いわねぇ。あとでお金取るとか、呪うとかないでしょうね?」
『その心配はありません』
「そう。んで、そのマインド・イ……イン……』
『早速、お困りのようですね。正式名称はマインド・インテリジェンスです』
「長いからマイね」
『……承知しました』
「それでマイは、なにができるのよ?」
するとワンテンポ遅れて、抑揚のない返事が発せられました。
『はい。持ち主であるあなた方の知りたいことや困りごとなど、なんでもお手伝いさせていただきます』
なんでも?今、なんでもっていった?
「じゃあ、マイちゃん。わたしの王子さまはどこにいますか?」
わたしの質問に、マインドなんちゃらさんが黙ってしまいました。
「ねぇ、マイちゃん。聞こえてる?」と胸元のペンダントに話しかければ
『はい。聞こえてますよ。あなたの質問ですが、恋占いは専門外なので、お力になれません。他になにか聞きたいことはありますか』
「じゃあ、生きのいい精力豊富な男を連れてきて」とエミーダ。
『……残念ながら、逢い引きは専門外なので、あなたのお力になれません。他になにかできることはありますか』
なんでしょう……この無能っぷりは……。
「ヒヨナァ。もしかしてさぁ、ゴミを押しつけられたんじゃないのぉ?」
まぁ、タダだったからね。でもアクセサリーとしては、申し分ないと思うよ。
こうしてマインド・インテリジェンスことマイちゃんはわたしたちのアクセサリーとなったのでした。
それから数日後。
わたしがいつものように観光を楽しんでいると、マイちゃんが突然、警告を発しました。
『ヒヨナ、気をつけてください。300歩後方に尾行者がいます』
連日、意味もなくお喋りを続け、役に立たなかったので、対話することを禁じていたのですが、このときばかりはマイちゃんの言葉に耳を傾けました。
「いつもの冗談ならやめて」
エミーダがいない単独行動だけに、洒落になりませんからね。
『いえ、冗談ではありません。相手は中年男性。少なくともヒヨナが求めている王子さまではないですね』
わたしとエミーダの性格を学習したせいか、一言多く育ってしまったようです。
「どうして尾行しているとわかったの?」
『靴の素材と歩く癖、そして衣擦れの音です。宿を出てから1時間以上、同じ人物が後方にいました』
なるほど。視覚情報を得られない代わりに、音には敏感なんですね。
『なお、コートの下に武器を所持している可能性があります。どうしますか?尻尾巻いて逃げますか?』
賑やかな目抜き通りから一本外れた裏通り。幸いなことに人はいません。わたしは足早に細い裏路地へと入り込みました。もちろん誘い込み、撃退するつもりで。
案の定、尾行者も足早に追いかけてきます。共用ゴミ箱の陰に身を隠していたわたしは、不意打ち同然に尾行者の足を払いました。……が、相手も只者ではないようで、前のめりで転ぶ勢いでもって空中ブレイクし、音もなく地面に着地したのです。
フードを目深にかぶり、ギラついた視線を向ける男性。数日前、気前よく商品を買ってくれたお客さんとは似ているようで、ちょっと違うような?
『ヒヨナ、来ます』「えっ?」
マイちゃんの声に反応するよりも早く、男性が音もなく忍び寄り、わたしの首筋を狙ってダガーナイフを突き出してきました。
わたしは、その刃を紙一重でかわし、相手の伸びた肘を下から突き上げます。肘間接を折るつもりで思いっきり。
ですが、しょせん、か弱き乙女。大の男性相手では、そうもいかないようです。なので、乙女のグーパンチを顔面にお見舞いし、そのまま渾身の肘打ちで顎を突き上げます。しかし、お顔の皮が厚いらしく、これといった手応えなし。即座に回し蹴りをお見舞いしましたが、か細い乙女キックではビクともしません。
これは非常にマズい、と思っていた矢先、詠唱呪文が脳裏に降りてきました……が唱える暇もなく、すぐに背後を取られ、羽交い締めにされました。
いやーん!これって最悪なパターンなのでは?
突きつけられる刃先に言葉を失っていると
『ちょっと待って。なんで、わたしを殺そうとするの?』
胸元から発せられたわたしの声に、驚くわたし。……って、マイちゃんってば、モノマネ上手だね。
「なら、冥土の土産に教えてやろう。おまえのようなやつは危険だからだ」
月並みの台詞。どうやら、わたしの知らないところで要注意人物に認定されたようです。
「おまえのような武器商人が存在すると、商売柄、こっちも迷惑なのでな」
そういえば、ペンダントをくれたお客さんも、似たようなことを言っていたような?
「安心しろ。おまえから商売道具を買ったヤツは、俺が返り討ちにしてやった」
うわぁ……よくわからないけど、お客さんだった人のご冥福をお祈りします。同時にナイフの刃先が首元に迫りました。
あぁ……卒業旅行中に、こんな形で命を落とすとは。と目をつむった瞬間、高電圧な雷撃が目の前に散りました。
「うぎゃあぁぁぁぁ!」
暗殺者さんとわたしの悲鳴が綺麗にシンクロ。
って、待って待って!死ぬ死ぬ死んじゃう!
体中を突き抜ける刺激的な感覚を最後に、わたしの意識は闇に溶け込んだのでした。
『ヒーリングを確認。心拍数が正常値に戻りました』
「ヒヨナ、ヒヨナ!目を覚まして!」
はて?誰ですか、わたしを呼ぶのは?
目を開ければ、ヒーリングを終えたエミーダが目の前に。
「あれ?わたし、どうしたんだっけ?」
上半身を起こし、周囲を見ればミディアムレアに焼けた男性がピクピク横たわっていたりします。
「大丈夫、ヒヨナ」
泣き顔を晒して心配するエミーダ。うーん……いったい、なにが起こったのでしょう?
事の顛末を聞けば、同一固有体であるエミーダのマイちゃんが、わたしの危機を伝達し、駆けつけてくれたとのこと。走りながらの詠唱。そして間一髪のところ、電撃魔法でわたしもろとも暗殺者さんを撃退したらしいです。巻き込むのを承知で。
「ゴメンね、ヒヨナ。でも躊躇している暇もなくって……」
大丈夫だよ。わたしも同じ立場だったら、遠慮なくやったと思うから。
「それより、今回はマイちゃんに助けられちゃったね。ありがとう、マイちゃん」
『えへ。どういたしまして。また、お役に立てることがあれば、いつでもどーぞ』
「頼りにしてるよ、マイちゃん」
と、わたしは微笑みながらペンダントを指で弾いたのでした。
【おしまい】
追伸。
後日。エミーダに内緒でナックルダスターを購入しました。
えぇ、もちろん護身用として。
※おまけのエミーダ




