■増殖のエミーダ(仮)
【あらすじ】
エミーダ、モテすぎて大変なことに。
マッチングギルドに登録しただけなのに
なぜか町中に「エミーダ」が増殖!?
そして最後には町そのものが……。
「あら、この町は、なにやらお盛んねぇ」
町に入るなり、楽しげに語るエミーダ。反対にわたしはモヤモヤするばかり。
理由はひとつ。
この町に入ってからというもの、ニギニギと手をつなぐ男女や、見つめ合って抱き合う恋人たちがいっぱいなのです。ゆえに往来はピンク一色。わたしのようなうら若き乙女にとっては目に毒です。……と、そう思っている矢先から、人目を忍ぶように仲睦まじげに怪しい宿屋へ入っていく熟年男女が。
うーん、イチャイチャしているカップルが多くてメンタル的にキツい。
まったく。独り身への配慮というものを覚えてほしいものです。かなり本気で。
するとエミーダも違和感を覚えたらしく
「でも……町中がリア充展示会みたいに盛り上がっているのも、ちょっと異常ね」
なんでかしら?とエミーダも小首を傾げていました。
その夜。
ベッドで本を読んでくつろいでいたところ
「ただいまぁ……」
男漁りに出かけたはずのエミーダが、なぜか肩を落として部屋に帰ってきました。
「おかえり。って、冴えない顔してどうしたの?」
宿に着いた早々、勝負服に着替え「今夜は遅くなるから、先に寝てて」と意気込んで出かけたエミーダ。……なのに、あからさまに不機嫌なのはなぜかしら?
「どうもこうもないわよ。ナンパ以前の問題だったわよ」
靴と服を脱ぎ捨て、ベッドで大の字になる彼女。いったい、なにがあったのでしょうか?
「どういうこと?」
「ほとんどの男は先約済みってことよ」
聞けば、バーに行っても男性のそばには必ず女性がいるというのです。
「寝取るつもりで割り込んでも、その場で邪魔者扱いよ。そんなんだから、急に寂しくなっちゃって……つまんないから、帰ってきたってわけ」
エミーダにしては珍しいこともあるものです。しかし、なんでこの町はカップルが多いのでしょうか?
「帰り際、バーのマスターに聞いたんだけど、なんでもこの町にはマッチングギルドってのがあるらしいわよ」
マッチングギルド?なに、それ?初めて耳にするギルド名なんですけど?
するとエミーダは上半身を起こし、結った髪を解きながら
「そりゃそうよ。なにしろギルド商会とはまったく関係のないサービスだもの。でね……」
と興味の色を瞳に浮かべるエミーダ。聞けば、それは男女の出会いを斡旋するサービスとのこと。
うーん……それって、もしかしてお見合い的な?
「それを確かめるために、明日、ふたりでそのマッチングギルドに行ってみない?」
出会いという強力なキーワードに釣られたわたしは、なんの疑いもなくその話に乗ったのでした。
翌日。
わたしは朝からおめかしをして、エミーダと一緒にマッチングギルドへと足を運びました。ですが、いざギルド商会所の裏手の建物に着いた段階で、わたしは気後れしてしまいました。
こんな安易な方法で男性と結ばれてしまっていいのだろうか?と。
「もぉ、だらしないわねぇ。そんなの付き合ってみなきゃわからないじゃないの」
とエミーダにあきれられ、結局、彼女だけが入会登録を済ますことに。
ちなみに女性は無料とのこと。
利用方法は自分のポストとなる郵便受けの箱棚に名前とプロフィール、そして一言PRを貼るだけ。それを見た男性が気に入れば、彼女の鍵付きのポストにメッセージを投函するという、いたってシンプルなシステムです。
『精力自慢大歓迎!活気あふれるスケベ求む!』
仕事の求人募集さながらにアピールするエミーダに、わたしは眉をひそめました。
隣のポストを見れば
『嘘をつかない誠実な方希望』『優しい人希望。容姿は問いません』とか書かれているのに……スケベとは、いかがなものかと。
参考までに、他の女性たちのPR文を見ても、ここまで露骨なのはエミーダだけです。
試しに男性側エリアへ足を運び、PRを読んでみれば
『毎朝、俺のために朝食を作ってくれる女性希望』
『寝起きが悪いので毎朝起こしてください』
『僕の子供を産んでくれる女性希望』などの身勝手なメッセージばかり。
なんでしょう、この自分本位な要望は?本音丸出しのエミーダのほうが、まだマシじゃない。参加してないけど、なんだかガッカリさせられました。
「さーて、どんな獲物がかかるかしらね」
と舌舐めずりするエミーダ。まるで仕掛け罠のような発言に「そんな簡単に引っかかる男性がいるわけないでしょ」と断言するわたし。
その後、半日を観光に費やし、夕方、マッチングギルドに立ち寄れば……驚くことにエミーダのポストが手紙であふれかえっていました。
メッセージを読めば『今夜、ぜひお相手してください!』から始まり『熱い夜を、一緒に過ごしましょう!』とか『30年間守ってきた僕の童貞を捧げます!』などなど……。中には女性の筆跡で『私の体の火照りを慰めてください』とまであったりします。
「ねぇ、エミーダ……みんな変なメッセージばかりなんだけど?」
「バカねぇ、ヒヨナ。世の中、服を脱げば男も女もみんなスケベなのよ」と返事を書いて、相手のポストに連続投函するエミーダ。
あなただけですよ、そんなことを胸張って言えるのは。
かくして、その日からエミーダの朝帰り生活が始まりました。当然のことながら、朝帰り生活は三日も続けば日常になるわけで
「ただいまぁ……」
「お帰りぃ。って、もうお昼だよエミーダ。わたし、これからお昼ご飯食べてくるけど、エミーダはどうする?」
「寝る……」とベッドに倒れ込むエミーダ。
まったく、もぅ。旅先だということを、もっと自覚してほしいものです。
「どうでもいいけどさぁ、寝る前にこれ、読んでおいてよね」と枕元に箱を置くわたし。
「なに、これ?」
「なにって、エミーダ宛に届いた手紙。ポストからあふれてて、棚下に箱が追加されてたのを回収してきたんだよ」
これじゃあ、まるでファンレターですよ、まったく。
「えー、勘弁してよぉ」
「自分でまいた種なんだから、責任もって目を通しなさい」
「立場的に、あたしはまかれるほうなんだけどなぁ」
言ってる意味がわかりません。
「ともかく、よろしくね」
そういって、わたしはひとりで昼ごはんを食べに出かけることにしました。しばらくは、こんな日が続くのだろうと思いながら。
ところが数日後。とある変化が現れ始めます。
彼女の代わりにポスト回収に出向いてみると、山ほどあったメッセージが激減していたのです。日に日に目減りしてたのは気づいてたけど、なんでかしら?
もしかして、飽きられたのかしら?と首を傾げていると、ふたりの男性が手紙を持ったまま、女性ポストの棚の前でウロウロしてます。
「どうかされましたか?」と尋ねてみれば
「いやぁ、そのぉ……エミーダさんって方のポストを探してるんですけどぉ、たくさんあって、どれがどれだか……」
たくさん?
エミーダはエミーダでしょ?と棚のネームプレートを見れば
『エミーダ38歳』
『エミーダ(ホンモノ)』
『エミーダの妹』
『エミーダ(昼専門)』
『元祖エミーダ』
『エミーダ(おすすめ)』
『未亡人エミーダ』
などなど、バラエティに富んだ亜種名で埋め尽くされているではないですか。
しかも『ベミーダ』や『エミード』という派生種までが爆誕しています。
わけがわからず、男性たちに話を聞けば
「噂で聞いたんですけど、エミーダさんって凄くエッチな人だって」
「夜の界隈では伝説らしいですからね」
どうやら口コミでエミーダの評判を聞きつけ、お相手してもらおうという魂胆のようです。なるほど、そういうことですか。
……で、ここからはわたしの想像なのですが、そんなエミーダの噂を知り、女性たちもあやかろうと名前を変えたのでは、と。それを裏付けるように、それぞれのPRもエミーダの丸パクリでした。
こうなると本人も黙ってはいないだろう。と思いきや
「ふーん」とベッドの上で気のない返し。そして
「もう飽きたから、別に真似てもいいんじゃない」と、なりすまし女子に怒りを覚えるわけでもなく、あっさり肖像権を放棄しちゃたりします。
「それに、いつまでもこの町に居座るつもりもないしね」
つまり、そろそろ次の旅に出るつもりのようで。と、いうことでマッチングギルドを解約し、一週間後の旅立ちを目安に、ふたりで観光を楽しんだのですが……その一週間で町の様相が音を立てて変わっていきました。
そう。マッチングギルドの店が増え始めたのです。どの店も基本、女性は無料。男性は有料。そこに目をつけた風俗業者がこぞって同系列の店舗をオープンしたのです。同時に怪しい宿屋も増え、さらにその噂を聞きつけた外部の町男さんたちが押し寄せ、不健全な町として一躍有名になってしまったのです。
「また店が増えてるわ」
「三軒隣もマッチングギルドね」
「あっちはスーパーマッチングギルドですって」と日常会話のネタになる始末。
その頃には、わたしたちも町を離れていたので確認はしていませんが、風の噂ではマッチングタウンとして名物になったそうです。
そう、エミーダの町として。
【おしまい】
※おまけのヒヨナ




