■人の不幸は蜜の味(仮)
【あらすじ】
不幸自慢大会に参加したヒヨナ。
「男性にモテないことだけですかね」
なぜか会場は涙と同情の嵐。
さらに夜には、不幸を賞賛する神さままで現れます。
果たして優勝するのは……?
とある町の会場の舞台壇上にて。
「半年前ぼくが大事にしていた彫刻を、彼女に燃やされました」
男性が語ると、会場から重いため息がどよめきました。
「それはお気の毒に。さぞ辛かったでしょう?」
同情を寄せる司会者さんに、男性が涙ぐみます。
「えぇ、もう、死のうかと思ったくらいです」
すると会場から容赦ない野次が飛びまくりました。
「人形に愛を奪われてきた彼女さんのほうが不幸よ!」「そうよ、そうよ!不幸自慢にもならないわ」
異を唱える女性陣の不満を受け、男性は反論できず小さくなるばかり。
「これも不幸だと思って、受け止めてください」
「……はい」
「今日はありがとう。みなさん、彼の不幸に盛大なる拍手を!」
会場から湧き上がる拍手を受けながら退場する男性。その枯れ果てた姿を舞台袖から見送るわたしたち。
「さて続きまして、今回、飛び入り参加をしてくださる方をご紹介いたします。ヒヨーーナ・アーンド・エミーーダのおふたりです。どーぞ、こちらへ」
妙なテンションで呼ばれたわたしとエミーダは舞台中央へと歩み出ます。
「ようこそ、第5回バッドラック・フェスティバルへ」
司会者の招きに、わたしは客席に向かってペコリとお辞儀をしました。……って、なんで、わたし、ここにいるのかしら?
この町に入った翌日のこと。
いつものように観光を楽しんでいたところ、ビラ配りの男性に声をかけられたのです。聞くところによれば優勝者には破格の賞金があるとかないとか。
しかも参加者には、もれなく名店食べ歩きチケットが配られるというではないですか。
たまたま金欠だったわたしはエミーダを巻き込み、参加することを即決したのです。
そう、大会の内容も確認せずに……。
毎年行われるといわれる不幸自慢大会。それを知ったのは、つい先ほどのこと。
第5回不幸自慢大会。
どうやら、この町では5年前から、この行事を催しているらしいのですが……
野良モンスターに襲われて痔になった。
パンを焼いていたら、家が半焼騒ぎに。
先月、愛犬に噛まれました。
……などと1年を振り返る地元参加者たち。て、なんでしょうか、このくだらないラインナップは?
「それでは、まずはエミーダさんから。旅をしているということですが、これといった不幸はありましたか?」
司会者の問いに、エミーダが白金色の髪を梳きあげました。
「そうねぇ……お気に入りの男に逃げられたことくらいかしら?」
おお!とざわめく会場。この程度のことで不幸なのかしら?
「あなたほどの美人が?それは、さぞお辛いでしょう」
「わかるぅ?そうなのよ、おかげでもう、ムラムラが収まらなくって……」
わたしには1ミリも理解できないんですけど……。
「男運のない不幸話、ありがとうございました。それでは、続きましてヒヨナさん。あなたの不幸を教えてください」
エミーダの不幸に合わせ、わたしも異性の話題を口にします。
「うーん……男性にモテないことだけですかね」
「そりゃ、不幸だ」「なんて不幸なのかしら!」「かわいそう!」「もう聞いていられない!」
男女含めて涙し、額に手を当て嘆く観客たち。
なんでしょうか……この乙女を貶める公開処刑は。
「いやぁ、これはホンモノがきましたねぇ。さぞ、お辛いでしょう?」
と同情する司会者さん。あぁ、この哀れむ表情が憎たらしい。もぅ、本気でぶっ飛ばしていいですか?
そんな握りこぶしの殺意を感じ取ったのか、司会者さんがたたみかけるように
「貴重な不幸話、ありがとうございました。みなさーん、ヒヨナさんに暖かい拍手をお願いしまーす!」
観客を味方につけ、場を収める司会者さん。空気を掴むのが上手すぎます。
「ということで、今期バッドラックフェスはこれにて終了です。結果発表は同会場にて明日の正午になりますので、楽しみにしてお待ちください!」
会場から湧き上がる拍手に見送られ、わたしたちは降壇し、恥と引き換えに名店食べ歩きチケットをゲットしたのでした。
食べ物で恥の鬱憤を晴らした、その夜。
人ならぬ気配を感じて目を覚ませば
「おぬしが優勝候補の娘か?」
就寝中の枕元に現れた老人。透けているところをみると、きっと霊体なのでしょう。
隣のベッドを見れば、エミーダはまだ帰宅していないご様子。
いつもの男漁り。まったく、毎晩毎晩、男の人とお喋りしてて飽きないのかしら?
「おい、きいておるのか?」
老人の問いに、わたしは上半身を起こしました。あぁ、面倒くさい。
「こんな夜中に、なんの用ですか?そもそも、あなたは誰なんですか?」
「わしか。わしは不幸を賞賛する神じゃ」
そして憐憫な目を向け
「昼間のおぬしの不幸を聞きつけ、こうしてまいったのじゃ。聞けば、おぬし、男にモテないそうじ……」
無意識に、乙女のグーパンチが炸裂していました。
「イタタ……。神に手をあげるとは、なんたる冒涜じゃ」
人の不幸を喜ぶ人は、たとえ神であろうと許しません。そもそも、なんですか?不幸を賞賛するって?
「幸せな人間を賞賛しても、ありがたがられないじゃろ。その点、不幸な者ほど尊いものはない」
なんですか、この思考が拗れたきった偏屈な神は?
「いっときますけどねぇ、わたし自身、これっぽっちも不幸だと思ってませんから」
「謙遜せんでもよいよい」
「謙遜なんかしてません!」
「おぉ、なんと慎ましき不幸人よ」
嘆かわしやと、むせび泣く神さま。まったく、どこまで人を小馬鹿にすれば気が済むのでしょうか、この神は。
「あーもぉー、面倒くさい!」
刹那、天からの啓示が降り、わたしが詠唱を始めると
「ちょ、ちょっと待て!まさか、神であるこのわしを消すつもりか!?」
人の安眠を妨げ、ディスった代償は、たとえ神さまといえども許しません。
「なんて、娘だ。こりゃ、たまらん」
詠唱完了と同時に浄化魔法を放ちます……が、紙一重の差で神自ら姿を消し、空振りに終わってしまいました。
「どうやら、おぬしにとって、不幸はまだ早かったのかもしれんな」とだけ言い残して。
翌日。
わたしは、宝くじの当選番号を確認する気分で会場へと出向きました。
昨日の観客たちの反応からして、優勝しそうな予感。同時に賞金の二文字が脳裏で躍ります。
意地汚いわね。とエミーダに軽蔑されたけど、群衆の前で、あれだけ赤っ恥をかいたのだから、それなりの見返りを受けとりたいのが本音です。
「大変長らくお待たせしました。いよいよ結果発表です。えー、ご存じかと思いますが、審査基準は不幸賞賛の神が枕元に立ち、神に認められた人が優勝となりまーす」
えっ?それって、もしかして昨夜のあのおじいちゃんのこと?
すると司会者が木箱からうやうやしく一枚の紙を取り出し
「そして、この紙に神からのお告げとして、優勝者の名前が刻まれます」
司会者の説明を聞きながら、昨夜の神さまとのやりとりを思い出します。
殴ったうえに、邪険に扱ってしまったような……。
大丈夫、大丈夫。相手は神さまだもの。きっと大目に見てくれるはず。と客席に目を向ければ、昨夜のおじいちゃんが観客に混じっていたりします。そして目が合うなり、サムズアップ。親指を立ててニッコリ笑う神さまに、わたしは優勝を確信しました。
「さぁーて、今年の優勝者はぁ……」
折りたたまれた紙を開き、記された名前を確認する司会者さん。
「エントリーナンバー3番!『靴下の左右を間違えた』さんです!」
へ……?
感極まって涙する『靴下の左右を間違えた』さんに、会場から拍手と賞賛の嵐が。
「なんで?」と客席に視線を落とせば、神さまがわたしに向かってアッカンベー。
ああぁぁぁぁぁっ!寝ぼけて気が荒くなっていたとはいえ、わたしはなんてことをー!
満足げな笑みで消えてゆく神さま。
頭を抱えてしゃがみ込むわたしを、エミーダが不思議な顔で見下ろしていたのはいうまでもありません。
結局……不幸賞賛の神さまは、わたしに最大な屈辱を与えて満足したようです。
自業自得とはいえ、神さまに一杯食わされたわたしは、不幸の味を噛みしめたのでした。
【おしまい】
※おまけのエミーダイメージ




