■ヒヨナパニック(仮)
【あらすじ】
湖底にあったのは、イケメンだらけの宗教団体!?
美女教祖の正体を知ったヒヨナは……
「ギャァァァァア!!」
■ヒヨナパニック(仮)
今回も旅は、平穏に終わりません。
観光地であるフレス湖の湖畔にて、茜色に染まる空を見やりながら、エミーダがぼそっと呟きました。
「あたしたちの旅も、そろそろ終わりね」
突然の終止符宣言に、わたしはジト目で彼女を見ます。
「もぉ、エミーダったら、いくら眺めが綺麗だからって、感傷にひたって勝手に終止符を打たないでよぉ」
なにしろ、世界の半分も見ていないのだから。まぁ、いろんなことがありすぎて、センチメンタルになる気持ちもわからなくないけど。
と、そんなとき。地元の子供たちが、なにかを取り囲んで騒いでいる光景が視界の隅に入りました。
「オレたち、こどもに歯向かってタダで済むと思うなよ!」「ほら、悔しかったら、なんとかいってみろよ!」
見れば、数人の子供たちがよってたかって大人に暴力を振るっています。
「きみたち、なにしてるの!」
見かねたわたしは、すぐに駆けつけ、子供たちを追い払いました。
「うわー!今度はババアの登場だぁ!」「逃げろ!逃げろ!」と蜘蛛の子散らす子供たち。純真無垢な乙女をババア呼ばわりするとは、なんて育ちが悪いんでしょう。だから、がさつな男の子はキライ。
「怪我はないですか?」
「はい。おかげさまで助かりました」
顔を上げる被害者に手を差し伸べれば、金髪碧眼のイケメンさんだったりする。いやーん、なに、この絵に描いたような美形は。
と、そこへエミーダが
「いい大人なんだから、子供なんか湖に放り込んじゃえばよかったのに」
「そうしてもいいのですが、他者に手を挙げてはならないとリューグゥさまの教えでして」
リューグゥさま?もしかして、新興宗教の教祖さまかしら?
すると、サラリと髪をかき上げ、うつろげに流し目をする彼。
「はい。我々のような男性を救済してくださったお方です。あ、申し遅れました。ボクの名はカチュア。なのでカチュと呼んでください」
するとエミーダがカチュさんの顎をクイッと持ち上げ
「で、助けたんだから、それなりのお礼はしてくれんでしょうね?」
まさか、ないわけじゃないわよね?と、優しくほくそ笑むエミーダ。
あぁ、変なのが関わってしまってごめんなさい。
「あ、ええ。も、もちろん……我がリューグゥ教の総本山にご招待させていただきます」
なんだろ。恐喝しているようにみえるのは気のせいと思いたい。
「しばし、お待ちを」と湖に向かって両手を挙げるカチュさん。すると湖面が左右に割れました。
って、なに、これ?ちょっと凄いんですけど!もしかして、これがリューグゥ教の法力なのかしら?
しかも湖底が見えるそれは、一本の道筋となってフレス湖の中心部深くへと伸びてるではないですか。
「さぁ、お二方。ボクのあとに続いてください」
かくして、わたしたちは彼の案内により、フレス湖の底へと歩を進めたのでした。
「わぁ、ステキ……」
目を見張るような湖底宮殿。色鮮やかな岩石の門構えにわたしは思わずウットリ。もちろんエミーダも。
宮殿内に案内され、廊下を歩いていると、経典を読み上げてたり、写経をするイケメンが大勢いたりします。……が、なにやら様子がおかしい。わたしたちを見る目が穏やかじゃありません。まるで畏敬を見るかのように、怯えの色が浮かんでいます。
「女?」「女がきた!?」「なんで女がここに?」
まるで天敵でも見るかのような視線。もしかして、隣のエミーダがヨダレをたらしているからなのでしょうか?
「あたし、体験入信しようかしら」
オオカミの群れ……もとい、羊の群れを見つけたオオカミのように瞳を輝かせるエミーダ。まぁ、いつものことです。
「ただいま戻りました。リューグゥさま」
謁見の間で傅くカチュさん。その玉座に、ふんぞり返る人物がひとり。お香の煙に包まれ、口元を覆う扇子。エミーダに負けず劣らずの綺麗な女性でした。
「買い出しご苦労。……して、そちらの者は?」
「はい。湖畔で地元の子供たちにイジメられていたところを助けてくださった方々です」
「女か……また余計なことを」
なんだろ……感じ悪ぅ。
「まぁ、よい。カチュ、客人を充分にもてなすように」
「はい。仰せのままに」
こうして、わたしたちはリューグゥで一晩を過ごすことになったのです。
食事と入浴を済まし、ゲストルームをあてがわれたわたしたち。教祖はおろか、誰もいない晩餐会。いるのは半魚人のコックとカニの執事だけでした。しんみりとした味気ない食事会。なんだか、お通夜みたい。
大浴場で旅の汚れを洗い流し、部屋に戻って、濡れた髪をとかしていると、ベッドの上でエミーダが面白くなさそうに呟きました。
「ねぇ、ヒヨナ。気づいた?」
「なにがぁ?」
「あの教祖のことよ。あれ、絶対……男よ」
いきなり、なにをいうのかと思えば
「あれだけの美人よ。そんなわけないでしょ」
わたしが鼻で笑うと、エミーダが真剣なまなざしでいいます。
「ヒヨナが見抜けないのもムリはないわね。なにしろ、女のわたしがビックリするくらい、女そのものだもの」
「いったい、なにを根拠に?」
「野生の勘よ」とドヤ顔のエミーダ。それを言うなら「女の勘」だよ。
「まぁ、それはともかく、今夜は思いのほか楽しめそうね」
はて?なにを言ってるのでしょうか?
わたしは「また、始まった」と、聞く耳持たずに寝床に潜り込みました。
翌朝。
なぜだか、エミーダがいつものように朝帰り。不思議なことに肌をツヤツヤにして。まったく、どんなスキンケアを使えば、あんなにもプルプルになるのかしら。と、そこへドアをノックする音が。
「どーぞ」
「おはようございます。朝食をお持ちしました」とカチュさんがワゴンテーブルとともに現れました。
「よく眠れましたか?」
「おかげさまで」と、わたしが朝食に舌鼓を打っているとエミーダがいいます。
「ねぇ、リューグゥ教の教義を知りたいから、もう二、三日滞在してもいいかしら?」
一瞬だけ困った表情をするカチュさんでしたが
「うーん……。わかりました。それについては、ボクの方からリューグゥさまに伝えておきますので、心おきなく滞在してください」
「話が早くて助かるわ」とほくそ笑むエミーダに、わたしは首を傾げました。
変ねぇ、こんなにも信心深かったかしら?と。
とはいえ、わたしもリューグゥ教に興味があったので否定はしません。
食後早々、どこかにいってしまったエミーダをほっといて、わたしはカチュさんに宮殿内を案内してもらいました。
【人を殴ってはいけません】
【人には優しくしましょう】
【美しいものを愛しましょう】
「素敵な教えですね」
経典の間で見せてもらった教典書に、思わず感銘を受けていると
「えぇ、すべてリューグゥさまのお言葉です」とカチュさんが微笑みます。
しかし読み進めるにつれ、そのお言葉は次第にエグイものへと代わり、終わりのほうになると
【女人は汚れ多き者なり】
【女人は真実を語らない】
えっ?なに、これ……。ちょっと、あまりにも偏見過ぎない?正直、気分が落ち込むんですけど。
その後、昼食を挟んで一通り見学したあと、わたしはひとり部屋に戻りました。
気になるのは、教典に書かれていた女性蔑視の文言。
「うーん……」
どうにもこうにもスッキリしなかったわたしは、直接リューグゥさま本人に聞くことにしました。
「ここね」
リューグゥさまの部屋を探し当て、ドアをノックするも返事がありません。何気にドアノブに手をかけるとスーッと重いドアが開きました。
「失礼しまーす……」
と、ひと声かけて執務室を覗きます。
「誰もいないのかしら?」
執務机に視線を落とせば、やりかけの仕事がそのままでした。
「もしかして休憩でもしてるのかしら?」
出直そうと踵を返したとき、どこからかともなく、くぐもった声が耳に触れました。
「あぁ……最高です、リューグゥさま」
声の出所である隣室。その気配をたどって扉を開きます。
「あのぉ、すいませー……!?」
同時に目に映った光景に、わたしの思考が停止しました。
「えっ?」
キングサイズのベッドの上に、3人の教徒が生まれたままの格好で、リューグゥさまに抱かれていました。
「なに用じゃ」
わたしの存在に気づき、振り向くリューグゥさま。
大きく張りのある胸にくびれた腰。女性なら誰もが羨むようなスタイルでした。そう、一部を除いて。
ベッドから降りて歩み寄ってくるリューグゥさまに、後退りするわたし。
股間に生えた毒々しく凶暴なモノが目に突き刺さり、わたしは目まいを覚えました。
ちっちゃい頃に、お兄ちゃんと一緒に入ったお風呂。そのとき見たモノとは明らかに違っていたからです。
「あ、お邪魔しましたぁ……」とわたしが踵を返した矢先、「お待ちなさい」と強い声で呼び止められました。
叱責されるのを覚悟して振り向けば、リューグゥさまがいやらしくほくそ笑みます。
「無断侵入とは、礼儀のなっていない人間ね」
あぁ、なんだかイヤな予感が……。
「でも、余興として、たまには女を躾けるのも悪くないかもね」
ねっとりとしたリューグゥさまの笑顔に、生理的嫌悪が背中に走りました。
「さぁ、ヒヨナさん。こっちに来て裸になりなさい」
リューグゥさまの手が肩に触れた瞬間、わたしの思考回路がパニクり
「ギャァァァァアッ!!」
ドアをブチ破り、部屋を飛び出しました。
「なんなの、あれ!なんなの、あれ!」
廊下を疾走しながら、脳裏に焼きついた股間の呪物を追い払います。
「キモいキモいキモい!!」
美女の教祖に、あんなものが生えているとは。もぉ、信じられない!
「エミーダ!エミーーダ!」
泣きながら親友を探し、部屋という部屋を片っ端から開け、そして……
「あら、ヒヨナ。血相変えてどうしたの?」
見ればシーツにくるまれ、横たわるイケメンの上にエミーダが乗っかっていました。そのイケメンの股間には毒々しいなにかが生えています。
「いやぁーーーーーー!」
「あっ、ヒヨナ!」
エミーダの呼び止める声を振り切り、部屋を飛び出しました。
って、そもそもなんでエミーダが男の人に乗っかってんのよ!普通、営みといったら、男の人が、女の人を優しく包み込むもんじゃないの!?
「いたぞ!」「取り押さえろ!」
追い立てる声の方に視線を向ければ、大勢のイケメンたちが。それも裸で。
「って、ちょっと待って!なんで全員、裸なのよ!?」
囲まれる恐怖に、わたしは涙目になって呪文を唱えました。この窮地から逃れるため一心不乱に。
『禁断の真珠に触れ、未開の領域へと達した少女は、欲望を解き放ち、己の精神を天にゆだねる』
【オナズム・ブレイク!】
後先考えず放った渾身の魔法。激しく地を揺るがし、宮殿を支えていた柱が折れ、壁や天井に雷撃が這い回り、亀裂が入りました。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
逃げ惑う裸の男性教徒たちの大混乱の中、魔力切れを起こし、鼻血を出して倒れるわたし。
あ、もしかして、わたしダメかも……。
遠退く意識の中、わたしは旅の終わりを悟りました。
目を覚ますとフレス湖の畔で横たわっていました。
「大丈夫ですか?ヒヨナさん」
心配するカチュさんの手を借り、おもむろに上半身を起こします。
記憶に残るは美女教祖の股間に生えたおぞましい呪物と崩壊直前の宮殿。まったくもって嫌な記憶です。
「あ、そういえばエミーダは?」
「あちらで、岸に打ち上げられたボクの仲間を助けてます」
見れば、裸のイケメンたちを追いかけ回していました。
「あなたとアンタ。それと、そこのアンタ、あたしのオモチャなりなさいな」
助けてるっていうより、捕獲の間違いでは?しかも欲張りすぎて、次々とイケメンたちが湖に逃げてますけど?
あ……ひとりもゲットできなくて、地団駄踏んでる。
「ところで、カチュさん。もしかして、あなたたちは魚人なの?」
「はい。そうです」と生態系を明かすカチュさん。
聞けば、カチュさんたちの正体は縄張り争いが強い『砂クマノミ』だったようです。羽化したときはオスですが、個体の大きいオスがメスへと変化するという繁殖習性を持つらしく、今回のリューグゥさまはその途中形態だったらしいのです。
子孫繁栄による一尾のメス(?)によるオスの独占状態。そこへわたしたちが乱入したため、イケメン教徒たちが女女とザワついたのですね。
すると、エミーダが手ぶらで戻ってきました。
「まったくぅ……あんたって子は、いくら男に免疫がないからって教団本部を壊滅させることはないでしょ」
オスならば相手が魚人でもいいんだ。
なにはともあれ、エミーダにとっては大当たり回、わたしにとっては人生最悪級の災難でした。
同時に教団本部を破壊してしまったことに罪を感じていると
「大丈夫ですよ、ヒヨナさん。ボクたちの世界では、巣が壊れることは日常茶飯事なので、また仲間とともに再構築するだけです」
むしろ問題なのはあなたたちのほうです。と漁師が手入れをしていた投網を略奪しようとしているエミーダをチラ見するカチュさん。あぁ……確かにカチュさんたちにとっては乱獲の始まりかもしれない。
「ということでして、ヒヨナさんたちの記憶を消させていただきます」
「えっ?」
耳を疑うような言葉。同時にカチュさんが小さく呪文を唱えます。
「イレイズダー」
刹那、頭の芯が真っ白になり、彼の優しい笑顔がまばゆい光で埋め尽くされました。
「あたしたちの旅も、そろそろ終わりね」
夕日に染まる湖畔で、終止符宣言するエミーダ。今日はまたずいぶんと黄昏れてるのね。だからって、勝手に終止符を打たないでほしいものです。
とはいうものの……わたしもなんだか切ない気分でした。
あれ?なんだか知らないけど、夕焼けを見てたら涙が出てきたのは、なんででしょうか?
「あれ、ヒヨナ。あんた、もしかして泣いてんの?」
「泣いてなんかいない。目に砂が入っただけよ」
わたしはグズッと涙を拭い
「さぁ、日が暮れる前に、早く宿を探しましょ」
そうじゃないと、今夜も野宿になっちゃうよ。と、わたしはエミーダを急かしました。
またまだ旅が続くのだから、休息はしっかりとっておく。これが長旅の秘訣であり、お肌のためですからね。
【おしまい】
※おまけのエミーダ




