■ハーレム願望と無関心(仮)
【あらすじ】
転生者「ボク、実は転生者なんだよね」
ヒヨナ&エミーダ「だから、なに?」
――異世界転生、まったく通用せず。
ふたりにとって異世界人の存在とは?
「いよいよ、明日は国境越えね」
エミーダの言葉に釣られ、わたしも目の前に立ちはだかる山々の稜線を眺めます。
新緑に包まれた、おいしい空気。雄大な景色を眺めながら、麓の茶屋のベンチに腰掛け、ハチミツ団子パイと青麦茶を堪能するわたしたち。あぁ、なんて幸せなひとときなのかしら。
思えばずいぶん遠くまで来たものです。
うーん、団子パイが美味しい。
甘味にうつつを抜かしながら大自然を満喫していると、なにやら、さっきから変な男性がわたしたちの視界の右、左をウロウロしてます。
うーん、なんか目障りなんですけど……と思ったそばからエミーダがキレました。
「まったくもってウザいわね、アンタ!せっかくの美観が台無しじゃない!いったい、なんの用なのよ!」
すると男性は待ってましたとばかりにわたしたちに歩み寄ってきました。
「もしかして、ボクのこと、気になっちゃった?」
金縁を施した純白のロングコートで長剣を背負う男性が黒髪をかき上げ、ニヒルに笑います。
なんでしょう?所作のひとつひとつが、いちいち鼻につくんですけど。正直なところ、こういう人……苦手かも。
なので「まったく」と首を横に振るわたしとエミーダ。
それなのに、その人ときたら前のめりになって
「いや、そんなことないだろ。ほら、ちゃんとボクを見てごらんよ」
パーソナルスペースを無視してグイグイ迫る男性。
なんでしょう、この承認欲求の押し売りは?
「いったい、なんなのよ、アンタ!」
男好きのエミーダのこめかみに、怒りのマークが浮きました。
「ごめん。じつはボク、異世界人でさ」
「だから、なに?」と、ハモるわたしたち。
「いや、だからぁ、ちょっと気にならない?」
「全然」と、またハモります。と、いうより……これって新手のナンパなのかしら?
「またまたぁ、そんなことないでしょ。じつはボク、こう見えて転生者なんだよねぇ」と髪をかき上げ、わたしたちをチラ見する男性。
「だから、なに?」と首を傾げるわたしたち。
というか、聞いてもいない出生話を聞かされてもつまんないんですけど?
「ねぇねぇ、ヒヨナ。これって、もしかして自慢のつもりなのかしら?」とエミーダも不審に感じていたりします。
「どう?こんなボクを知って、なにか感じないかい?」
「全然」「まったく」
そして、エミーダがわたしにいいます。
「そういえばさぁ、この前の宿屋の主人も転生者だったわよね」
その作り話に、わたしも乗っかることにしました。
「ここの茶屋のおばちゃんも、そんなこといってたような」
「そうそう。それと国境警備隊にいたワンちゃんも転生犬だって吠えていたっけ」
たたみかけるように、笑い合うわたしとエミーダ。この会話、結構、楽しいかも。
「いや、ちょっとちょっと、ボクの話も聞いてくれない?」
「どーぞ」
「ボク、元々、ジャパンという国に住んでいて……」
「へぇ」
「そこで会社員をしていて……」
「そうなんだぁ」
「そして死んで、この世界に転生して……」
「ふーん……」
「ねぇ……もうちょっと興味持ってくれない?」
いや、ムリでしょ。そんな輪廻転生話を聞かされても、こっちとしては面白くもなんともないんですから。ましてや女心を無視した会話は、どう考えてもNGですよ。
「そうだ、ボクのステータスを、特別に見せてあげるよ」
と虚空に指を滑らせる男性。あぁ、この人……絶対、ヤバい人ですね。
「ほら、これがボクのステータスさ。どうだい、凄いでしょ」
凄いもなにも……わたしたちには、なにも見えないんですけど。
「ちなみに、この世界でハーレムを築こうと思ってるんだけどさぁ、もし、キミたちさえよければ、ボクの最初のお嫁さんにしてあげてもいいんだけどなぁ」
キモ……。
きっと、前世で死んだとき、頭のネジをどこかに落としてきちゃったんでしょうね、この人。
「さて、ヒヨナ。そろそろ行こうか」
「うん」と応えて、腰を持ち上げるわたしたち。
「ちょっとちょっと、キミたち。まだ、ボクの話は終わってないよ」
いや、そもそも話自体、始まってないような?
「だいたい、ハーレムもなにも、こういう男になびくような女は、オツムの足りない女なのだから、相手にしないしない」
男好きのあなたがいうと、腑に落ちないのは、なんででしょうか?
「国境の向こうに、いい男いるかしら?」
「また、それぇ?言っときますけど、エミーダ、また、やらかさないでよね」
「ちょっとキミたち。ボクの禁断魔法見たくないかーい!」
情けない異世界人の声を背中に、わたしたちは国境へと歩みを進めたのでした。
えっ?異世界人はどうなったのかって?
さぁ、まったく興味がないので知りません。
【おしまい】




