知らない街
見知らぬ街で迎える、二度目の朝。
お金は心もとないけれど、親切な人との出会いや、仕事がリュカを待っている。
今回は灰色の髪と狼の耳を持つ少女リュカが、少しずつ街に馴染んでいく、ささやかな一日の物語。
───朝。
「…………んぅ。」
薄いカーテンを貫通して射し込む陽の光に鬱陶しさを覚えながら、リュカはゆっくりと目を開けた。
見慣れない木目の天井。硬い寝台。少し薄い毛布。
昨日、依頼をこなした後街を歩き回りなんとか見つけた安宿の一室だった。
「……背中痛い……。」
身体を起こしてぐぐっと伸び、凝り固まった背中をほぐしながらぽつりと呟く。
それでも、今までの野宿に比べればずっとマシ。
リュカは自分に言い聞かせながら寝台の端に腰を下ろす。
ふわふわの狼耳が、ぴこりと動いた。
窓の外からは、街の人々が動き始める声が聞こえてくる。
リュカは小さな荷物を引き寄せると、中から大切な革袋を取り出した。
ちゃり、と小さな音。
中身を手のひらに出して、数える。
1枚。2枚。3枚。
「…………」
もう一度、数える。
1枚。2枚。3枚。
「……増えてない。」
当たり前である。
この街での初報酬は、このボロ宿と夕食代に消えていった
のだから。
リュカはしばらく小銭を見つめた後、そっと革袋へ戻した。
「……朝ご飯、どうしよう。」
朝食を抜くという選択肢もある。
けれど、お腹は正直だった。
くぅぅ。
「…………」
リュカはお腹を押さえ、静かに立ち上がった。
「……とりあえず、街に出ないと。」
宿の退室時間もすぐそこに迫っている。
街に出れば何か見つかるかもしれないし。
そんな淡い期待を胸に、足早に支度を済ませたリュカは宿を後にした。
──朝のセレスタは、昨日よりもずっと賑やかだった。
露店が並び、商人たちが商品を運び、通りには焼きたてのパンや料理の香りが漂っている。
リュカはきょろきょろと周囲を見回しながら歩いていた。
すると──
「おう、お嬢ちゃん! 昨日の迷子じゃねえか!」
「ひゃっ!?」
突然の大声に、狼耳がぴんっと立ち上がった。
振り返ると、そこには見覚えのある店主がいた。
店先に置かれた炭火台。その上では、何本もの肉串が香ばしい音を立てて焼かれている。
「あ……昨日、道を教えてくれた……。」
「おう!その様子だと、何とか昨日はやっていけた
みてぇだな!」
「……おかげさまで。」
「良かった良かった!で、朝っぱらから何してんだ?」
「えっと……その……」
リュカのお腹が、小さく鳴った。
ぐぅ。
「…………。」
「…………。」
「……腹、減ってんのか?」
「……うん。」
頬を赤らめたリュカはぺたん。と耳を伏せた。
店主は豪快に笑った。
「はっはっは!正直でいいことだ!嬢ちゃん肉は好きか?朝食がてらうちの串焼きはどうだ?」
「……いくら?」
「一本、銅貨4枚だ!」
リュカは革袋から小銭を取り出した。
1枚。2枚。3枚。
手のひらを見つめる。
「……1枚、足らない……。」
「なんだ、金足らねえのか?」
「……うん……。」
しゅん、と垂れる狼耳。
ガルドは腕を組んで唸ると、炭火台の端に置いてあった袋に入った肉の塊をひとつ手に取った。
「この辺の飯屋は高ぇし、ウチが割と情熱価格でやってんだがねぇ……。しょうがねえな。ほら、これ焼いてやるから食え。」
「……え?」
「端肉だよ。形が悪くて売り物にならねえやつだ。どうせ余るんだ、嬢ちゃんが食べな」
「でも、お金が……。」
「いらねえって言ってんだろ。ちょっと待ってな!」
手慣れた手つきで串に肉を通す店主。
端肉、とはいうが脂の上質な匂いで安い肉でないことはリュカにもわかった。
じゅう、と網の上に置かれた瞬間、気味のいい音を立てて肉に火が入っていく。
大きな狼耳がぴこぴこと動き、それを隠すようにリュカは手で耳を抑えた。
薄い端肉はすぐに焼けた。香ばしい肉の香りと塩の香りがリュカの鼻をくすぐる。
ほらよ。と差し出された串焼きをリュカは申し訳なさそうに両手で受け取った。
「……いただきます。」
香りに誘われるように、まずは一口。
じゅわっ、と肉汁が口の中に広がる。
「…………!」
ぴんっ!
胸の高鳴りを隠すために無理やり垂らしていた狼耳が、
一瞬で立ち上がった。
「……おいしい。」
「おう!うちはいい肉使ってっからな!」
「……すごく、おいしい。」
表情はさほど変わらないが、ふわり、ふわり。と
今度は尻尾が揺れ始めた。
「はっはっは! なんだ嬢ちゃん、ぶすっとしてるくせに尻尾は正直だな!」
「…っ!?これは、その……!ごめんなさい…!」
慌てて尻尾を押さえるリュカ。
しかし、口元についた肉汁までは隠せなかった。
それを見て、店主はさっきの豪快な笑い声とは裏腹に、優しくリュカに微笑んだ。
「何を謝ることがあるんだよ。腹が減ってちゃ仕事もできねえからな。しっかり食っとけ!な?」
「……うん、……ありがとう。」
リュカは少し口元を緩め、返事をした。
──串焼きを食べ終えたリュカは、店先で店主と少し話をしていた。
「そういや嬢ちゃん、今日は何するつもりだ?」
「とりあえずは、仕事を……。後はこの街のこと、あまり知らないから散策とか……。」
「お、ちゃんと冒険者登録できたか?」
「…うん。昨日、登録した。」
少し嘘をついた。本当はまだ仮登録なのだ。
「だったら、薬草採取でも受けてこい。あれは初心者でもやりやすいしな。」
「あ……。昨日、やった。確かに簡単だったかも。」
「成功率9割超えてっからな。最近は色々あって下がってきてっけど……。まあ、失敗しても命まで取られるわけじゃねえしな。」
「……命までは?」
「おい、そこに引っかかるな!」
ガルドは呆れたように笑った。
「あと、街の北側には冒険者に安く飯を食わせる店があってな。金がねえなら、そういう店を覚えとくといいぞ。」
「……わかった。覚えておく。」
「……さっきの話の続きじゃねえが、最近は森で妙な噂もあるからな。森の奥にはあんまり近づくんじゃねえぞ。」
「妙な噂……?」
「ああ。まあ、その辺の話はギルドでも聞けるだろ。」
リュカはこくりと頷いた。
「さて、と。これも何かの縁だ。もし金に困って食うものがなかったらうちに来な。端肉、置いといてやるから。」
「……え?」
「嬢ちゃん、危なっかしそうだしな。放っておけねえんだよ。おじさんの勝手なお節介だ。受けときな。」
優しく店主が笑う。
お金がなくても、ご飯を食べさせてもらえる?
今までの生活では考えられなかった事だった。
「……本当に、いいの?」
「おう!ただ、1つ条件がある。」
「……なに?」
店主の太い腕が、リュカの前に差し出される。
一瞬何をされるかと身体が跳ねたが、店主は見てない風をして、またガハハと笑った。
「嬢ちゃんの名前、教えてくれよ。世話する奴の名前は知っといていいだろう?」
「あ……。」
「名前言わねえなら、肉はねえぞ。」
それはまずい、せっかくの肉が。
わたわたと慌てながらガルドの手を握り返し、リュカは
店主に答えた。
「えっと、あの……りゅ、リュカ、リュカ・グレイ。」
「おう、リュカか。俺はガルドだ。よろしくな!」
ガルドは最後にまたガハハと笑い、腕をブンブンと振ってリュカと握手を交わした。
旅を始めてから、初めて交わした握手。
大きな声と振り回される腕に表情は少し歪んでいたが、
尻尾はゆらゆらと左右に揺れていた。
ガルドに改めてお礼を言い、リュカは店を後にした。
これから向かうのはまた冒険者ギルド。
その足取りは、朝起きたときよりも少しだけ軽くなっているように思えた。
───冒険者ギルドに入ると、昨日と同じ受付に見覚えのある女性が立っていた。
「あら。リュカちゃん、おはよう。」
「……おはようございます。」
受付のリリは、リュカの姿を見ると柔らかく微笑んだ。
「昨日はちゃんと宿を見つけられた?」
「……うん。何とか。」
「そう、よかった。朝ご飯は食べた?」
「…………。」
リュカの耳が、ぺたんと伏せられた。
「……リュカちゃん?」
「……串焼きを、貰った。」
「貰った?」
「お金が足りなくて……あの、西の通りにある串焼き屋さん……。」
リリは一瞬きょとんとした後、くすりと笑った。
「ガルドさんのお店に行ったのね。あの人はほんとにお節介が好きなんだから……。でも、ちゃんと食べられてるならよかったわ。」
「……うん。おいしかった。」
思い出したのか、尻尾がゆらりと揺れる。
「ふふ。じゃあ、今日の依頼はどうする?」
「薬草採取……わたしにも出来たから。」
「じゃあ……これなんてどう?」
リリが差し出したのは、昨日と同じ薬草採取の依頼書。
「昨日と同じで、街の近くの森で指定された薬草を採取してきてもらうんだけど、昨日のやつとは薬草の種類が違うから注意してね。
報酬が高い分、希少な薬草だから簡単には見つからないかもだけど…。目標数に達せなくても取ってきた分だけで報酬を分けて払うから、日没までには帰ってきて。」
「希少……。」
リュカは依頼書をじっと見つめた。
報酬は1株銀貨2枚。
目標数20株。
半分の10株見つければ明日の朝食も困らなさそうだ。
薬草の見分け方も、採取の仕方も、しっかり覚えている。
何より、リュカは鼻が利く。
そんなに難しくは無いだろう。
「……これにする。」
「了解。言い忘れてたけど、森の奥には絶対近づいちゃダメよ。武器も持たないリュカちゃんが行くと危ないからね。わかった?」
「……うん。わかった。」
「OK。じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。」
ガルドにも同じ事を言われた。森の奥に入ってはならない。
奥に何があるんだろう、と少し考えながら、
手を振るリリにぺこっと頭を下げて、依頼書を受け取ったリュカは、森へと向けて足を踏み出した。
森へ向かう道を歩きながら、リュカは昨日のことを思い出していた。
薬草の採取は2回目、まだ慣れないこともある。
小さな魔物に出会って逃げ帰ってしまったけど、あの選択は間違って無かったはず。
昨日よりはきっと上手くできるはずだ。
「……頑張ろう。」
小さく拳を握りしめる。
そんなときだった。
ふと、昨日、街で聞いた男たちの会話が脳裏をよぎった。
『また北の森で魔物が出たってよ』
『しかも絶級のモンスターらしいぜ』
『親衛の獣人族も歯が立たねえってよ』
「…………」
リュカの足が、ぴたりと止まった。
「……絶級……?」
その言葉が何かは分からない。
ただ街を守る親衛隊ですら歯が立たない魔物。
そんな存在が、この森のどこかにいるらしい。
昨日出会った魔物はそんな名前を付けられるような魔物じゃなかったと思う。
そして昨日の轟音の鳴き声、あれは───
リュカは森の奥へと視線を向けた。
木々の間から差し込む陽光。風に揺れる葉。鳥の歌。
見た目は、いつもと変わらない森だった。
「……わたしは奥には行かないから大丈夫。」
少し考えた後、リュカはこくりと頷いた。
「……お仕事を、頑張ろう。」
そう言って、再び歩き出す。
バサバサと、鳥が木々から飛び立つ音が遠くで聞こえた。
──しばらく進んだところで、草むらががさりと揺れた。
「っ!?」
リュカは反射的に身構えた。
耳が立ち、尻尾がぶわっと膨らむ。
「ま、まさか……!」
草むらを見つめること数秒。
ひょこりと顔を出したのは、小さな野ウサギだった。
「…………。」
野ウサギはリュカを一瞥すると、ぴょんぴょんと走り去っていった。
「………昨日の魔物かと思った。」
リュカは胸を押さえ、深く息を吐いた。
「……よかった。」
誰にともなく呟き、気を取り直して薬草を探し始めた。
薬草採取は、思ったより順調だった。
依頼の絵から特徴を覚え、、自慢の鼻で嗅ぎ分け、葉の形や色をひとつずつ確認していく。
「これは……違う。」
ひとつ摘みかけて、すぐに手を止める。
「こっちは……絵と一緒。匂いも…これだ。」
籠の中に、少しずつ薬草が増えていく。
途中で虫に驚いたり、木の根につまずきかけたりもしたけれど、なんとか依頼分を集めることができた。
「……よし、できた……!」
籠を覗き込み、リュカは満足そうに頷いた。
森の奥からは、何の物音もしない。
ただ、風が木々を揺らしているだけだった。
リュカは最後にもう一度だけ森の奥を見つめ、それから街へと戻っていった。
奥から覗き込む巨大な赤い瞳は、リュカの目には映らなかった───
ギルドで薬草を納品すると、リリがにっこりと微笑んだ。
「凄い……たった数時間で目標数を集めてくるなんて。お疲れさま、リュカちゃん。」
「……これくらいは、なんて事ない……。」
「これは時間報酬もつけなきゃね。にしても本当に凄いわ。冒険者達じゃ丸1日はかかるのに。」
「いっぱい生えてたけど……?」
「そうなの?うーん、なんでかしらね……。」
考え込むリリ。
リュカはリリを見つめて尻尾をゆらゆらと揺らした。
「…っと、ごめんね。これが報酬。ありがとうね。」
そんなリュカの様子に気づいたリリは、ハッとした様子で革袋を取り出した。
報酬を受け取ったリュカは、中身をそっと確認した。
銀貨、ざっと50枚くらい。
「…………えへ。」
リュカは嬉しそうに袋を握りしめた。
「……これなら、明日の朝ご飯は買えそう。」
「ふふ。ちゃんと食べるのよ?」
「うん。」
ギルドを出たリュカは、次は街の散策を始めた。
露店を覗き、見慣れない雑貨を眺め、通りを歩く人々を目で追う。
気になる食べ物を見つけては値段を確認し、買おうかどうか悩んでみる。
街を歩いていたリュカは、ふと、一軒の露店の前で足を止めた。
並べられた品々の中に、小さなペンダントがあった。
細い銀の鎖の先に、淡い青色の石がはめ込まれている。陽の光を受けた石は、まるで中に小さな星を閉じ込めたかのように、静かに輝いていた。
「…………綺麗。」
思わず、そんな言葉がこぼれた。
リュカはしばらくの間、そのペンダントを見つめていた。
けれど、やがて何かを思い出したように、自分の胸元へと手を伸ばす。
服の下。
そこには、ずっと肌身離さず身につけているペンダントがあった。
指先でそっと触れる。
冷たい感触が、確かにそこにある。
「…………。」
リュカは目を伏せた。
このペンダントを、いつから持っているのだろう。
どうして自分がこれを身につけているのか。
考えようとしても、頭の奥に霧がかかったように、はっきりとは思い出せない。
それでも。
これだけは、なくしてはいけない。
そんな気がしていた。
リュカは服の上からペンダントをそっと握りしめた。
胸の奥に、言葉にできない何かが、かすかに揺れる。
「……誰が、これを。」
小さな呟きは、街の喧騒に溶けて消えた。
しばらくして、リュカは顔を上げた。
もう一度だけ露店のペンダントを振り返ると、名残惜しそうに視線を外す。
「……今は、がまん。」
小さく苦笑し、財布の中身を思い出す。
今日稼いだお金は、食事や宿代に残しておかなければならない。
綺麗なものを眺めるくらいなら、今の自分にもできる。
リュカは胸元のペンダントをそっと服の中へ戻すと、再び歩き出した。
気づけば夕暮れで、街並みの向こうで灯りがひとつ、またひとつと点り始めていた。
お金は大事だ。
今朝、身をもって学んだばかりである。
それでも、知らない街を歩くのは楽しかった。
昨日は不安でいっぱいだった街が、少しだけ違って見える。
道を教えてくれて、ご飯も与えてくれたガルド。
リュカを迎え入れ、仕事を紹介してくれたリリ。
名前も知らない露店の店主たち。
まだ知らないことだらけだけれど、この街には優しい人もいる。
「……明日も、頑張ろう。」
リュカは小さく呟いた。
その尻尾は、いつもより少しだけ軽やかに揺れていた。
───夕暮れ
リュカは帰り道、ガルドの店へ立ち寄った。
「おう、リュカ! 今日はどうだった?」
「薬草採取、してきた。早かったからって報酬も上乗せしてもらえて……。」
「おっ、そりゃよかったな!」
「うん。希少なものって聞いたけど、運良く森に入ってすぐいっぱい生えてて……。」
リュカの言葉に、ガルドが眉をひそめた。
「希少……?ユルガ草じゃなかったのか?」
「ユルガ草……?」
「この辺一帯に生えてる一般的な薬草だよ。緑で、角張った葉をしてるのが特徴でな。」
「……違う、それは昨日取ったやつ。今日は丸くて青緑の……。」
「イルガ草、か?」
「……そんな名前だった気がする。」
「……おかしな話だな。アレは森の入口の小動物の主食になってて、入ってすぐにはあまり生えてないはず……。」
リュカの言葉に、顔をしかめて考え込むガルド。
何がおかしいのか分からないリュカは、きょとんとしながらガルドを見つめていた。
「……まあ、無事に帰ってきたなら良かった。ギルドには報告したのか?」
「一応、伝えたけど……。」
「ならまあ、大丈夫か。……っと、リュカ、お前さん宿はとったのか?そろそろ受付時間終わっちまうぞ?」
その言葉に、リュカはハッとした顔で目を丸くした。
「……まだとってない、急ぐ。」
「はっはっは!悪い悪い、時間取らせちまったな。気をつけていくんだぞ!またな!」
「うん。……ありがとう。」
リュカは嬉しそうに頷き、走り出した。
こうやって見送ってくれる人が居る。
リュカは少し、心が暖かくなるのを感じた。
ガルドはそんな彼女を見て、満足そうに笑った。
「端肉、置いとくからな!また明日も来いよ!」
ガルドの大きな声が、夕暮れの通りに響いた。
リュカは振り返らず、走りながらその声を背に聞き、しっぽをゆらゆらと振り返事をした。
リュカは少しだけ、この街で暮らしていける気がした。
明日もきっと、いろいろなことがあるだろう。
違う美味しいものに出会えるかもしれないし、失敗することもあるかもしれない。
それでも───
「……明日の朝ご飯は、あそこにしよう。」
そんなことを考えながら宿へ走るリュカの足取りは、朝よりもずっと軽かった。
くうぅ
「それよりまずは、宿と晩御飯……。」
小さく鳴るお腹は、街の喧騒で隠れて消えた。
───同時刻、ギルド長室
「……イルガ草が、入口に大量に?」
帽子を深く被ったギルド長が、リリからの報告に眉をひそめて問い直した。
「はい。リュカ……昨日仮登録した冒険者からの話では大量に生えていたと。」
「……妙だね。森の噂もあるし…先遣隊は戻らないのか?」
「未だ報告がありません。もしかしたら……。」
「……噂は、噂じゃなくなっていそうだね。」
顎に手を当て、深く考え込む様子のギルド長。
不安そうに見つめるリリに目をやり、ふっと微笑む。
「……大丈夫だよ。姿を確認してる訳じゃない。今すぐの脅威にはならないはず。」
「そうであればいいのですが……。」
「まあかと言ってこのまま何もせず過ごしてもいられない。…捜索隊と新たな先遣隊を編成して森に向かわせるとしよう。依頼書を作ってくれるかい?」
「……!分かりました!直ぐに!」
「ありがとう、頼んだよ。」
バタバタと部屋を後にするリリを見送り、ギルド長は窓の外の夕暮れに目をやる。
「……噂によれば絶級。しかしあくまで噂は噂だ。街のためにも、不安は払拭しなければな……。」
夕日に照らされ、赤く光る街並み。
宝石のような輝きを放つ街並みに目を細め、1人つぶやく。
「……森の異変。……同時期にやって来た出身地不明の狼人族。……何も関係はないとは思うが……。」
ぽつり、と呟いて、ギルド長は帽子を深く被り直し、下で何か叫んでいるリリの様子を見に部屋を後にした。




