「どうして」で頭の中がいっぱいだ
慌ててドアに向かうと、黒い制服のようなものを着て、頭に制帽を被った、髭面の体格のいい男性が何人もいた。その中の、ひときわ体格もよく、一番年長者と思われる男性が話し出す。
「皇都警備隊の第二警備隊兵長バード・テンダーと申します。シャーリー・ジョーンズ。あなたに宝石強盗の共犯の疑いがかけられています」
「!? な、なんのことですか!? 私は強盗の手伝いなんて、していませんが!?」
「これが家宅捜査の許可書です」
バード兵長は羊皮紙を広げ、私に見せる。
そこには皇都の宝飾品店でここ最近起きている強盗事件について書かれており、窃盗団として、十人程の名前が並んでいた。
「失礼します」
私が許可書に目を通しているにも関わらず、警備兵が何人も、店の中へと入っていく。「ちょっと待ってください」と抗議しても、聞き入れてもらえない。それどころか文机に置かれたジュエリーボックスに入ったリジェクターを見つけた警備兵が「ありました、兵長! 強奪された宝石の一つ『慈悲の涙』があります!」と言い出した。
「どうやら密告は間違っていなかったようだ。ジョーンズさん、あなたのことは皇都警備隊本部へと連行することになります」
バード兵長がため息と共に告げる。これには驚き、抗議した。
「あれは預かったものです。呪いをはね返すリジェクターであり、その精度の鑑定依頼を受けていました。ドン・フーチという貴族に仕える従者の方からの依頼です! 住所も分かります、ちゃんとされた方で」
「ジョーンズさん」
私が話すのを制し、バード兵長が許可書を私の目の前に持ってくる。
「この印がついているのが、窃盗団のリーダーです。名前はなんと書かれていますか?」
バード兵長は、指でその場所をさらに示し、私を見た。
指が置かれた場所を見て、息を呑むことになる。
そこに書かれていた名前は……ドン・フーチだ。
「意図せずして巻き込まれた……かもしれませんが、ともかく話は皇都警備隊本部で聞きます」
「そんな……!」
そう言っているそばからあのドンが私に預けたジュエリーボックスは押収される。他に宝石はないかと、文机の引き出しが開けられ、棚の中も漁られていく。
まさかあの感じが良さそうだったドンが、窃盗団だったなんて!
そんなの……知らなかった。
どうして私なの?
どうしてドンは、私に声をかけたの?
どうして、ジュエリーボックスを……。
どうして……。
もう、頭の中は「どうして」でいっぱいだった。
そこでもしや、と気づく。
私は皇太子の呪いを解いてしまった。本来はヒロインが解くはずの呪いを。だからこの世界の小説を正しく導こうする力が、私を罰しようとしている……? もしくはこの世界から私を退場させようとしている……?
「外で待機している馬車に、乗ってください」
「ま、待ってください。父親に連絡を」
「手紙を残しておきますから。さあ、早く」
バード兵長に追い立てられるようにして、店の外へ出ることになる。
店の外へ出ると、そこには黒塗りの馬車が待機している。窓には鉄格子がはまっていた。
あんな馬車に乗せられるなんて、まるで罪人扱いではないか!
そう思うにつけ、恐怖より怒りが勝る。
無実の罪なのに、そんな不当な扱いを受けるなんて。
「シャーリー、どうしたんだ!?」
この時間、ほとんど人通りはない。でも運よく、早朝勤務を終えたネイサンが、通りがかってくれた。私はネイサンの方へと駆け出しながら、今の自分の状況を必死に伝える。
「ネイサン、聞いて。私、濡れ衣を着せされているの。仕事として預けられたリジェクターが、強盗団が盗んだ宝石だと分かって……疑われているの! それで皇都警備隊が本部で私の話を聞きたいって言うのよ」
「えええ、そうなのか!?」
「お父さんに伝えて。これは無実だからと」「ジョーンズさん!」
すぐに追いついたバード兵長に腕を掴まれ、馬車の中へと押し込まれる。
窓から外の様子を見ると、ネイサンは警備兵に囲まれ、押し問答をしていた。
「失礼します!」
警備兵が二名、馬車の中に乗り込んできて「逃亡防止のためです」と、私の手に木製の手錠のようなものをかけた。共犯の疑いと言いつつ、完全に犯人のような扱いだ。
既に頭にきていた私は、隣に乗り込んできたバード兵長に文句を言う。
「馬車から逃亡なんて、なんの芸もない私に無理です。こんなものをつけて皇都警備隊本部へ連行されるなんて、屈辱以外の何物でもありません。もし馬車が事故に遭った時、こんなものをつけていたら、困ります」
この世界で馬車の事故は、前世の自動車事故以上に頻繁に起きていた。何せ信号機もなく、道だって舗装されているわけではないから。皇都警備隊本部までは、馬車で五時間近くかかるだろう。こんな風に手が拘束されていたら、万一の事故の時、すぐ逃げられない。
「……分かりました。あなたを信じ、外しますが、先程のような勝手な行動はしないでくださいよ。もし余計な行動をとれば、手に加え、足も拘束します」
バード兵長はそう言いながら、対面に座る警備兵に、私の拘束を解かせた。
それが終わると、窓の外で押収作業を続ける警備兵たちに声をかける。
「我々は先に出発する」
「かしこまりました!」
こうして馬車はゆっくり動き出した。
◇
話は皇都警備隊本部で聞くと言っていたのに。
移動中の馬車の中では、バード兵長から同じようなことを、角度を変え、何度も聞かれることになった。私が答えることになったのは……。
ドンとの出会い。ドンと何を話したのか。ドンの印象。ドンがあのジュエリーボックスを届けた時の様子。ドンは宝石についてなんと説明したのか。
窃盗団を知っていたのか? 窃盗団とのつながりは? 窃盗団の仲間ではないのか?
答えることは同じなのに、しつこく聞かれることに、ウンザリしてしまう。
さらにこちらから事件について尋ねても、のらり、くらりとかわされる。ドンが所属する窃盗団とは、そもそも何なのか。ドンは、本当はどんな人物なのか。皇都のどんなお店を襲撃したのか。知っているはずなのに、一切教えてくれない。
最後は嘆くように、質問でもなく、私は呟いていた。
「よりにもよって、どうして私がこんな目に!」と。
これを聞いたバード兵長が笑った。私はそこを見逃さず、追及する。
「いや、ジョーンズさん。あなたは肝が据わっていますな。本当に犯罪へ加担しているような女性であれば、もう見るからに人相が悪く、ふてぶてしい。もしくはその逆で、虫も殺さないような顔をして、平気で人を手に掛けたりする。あなたはそのどちらでもないのに、達観されているというか。突然、こんな事態になった一般人なら、おどおどしそうなものを。変わった方ですな」
それは……そう言われると、どうしてかしら?
ただ理不尽な状況に、悲しいより、怒った結果だとは思うけれど……。
それにしても。
バード兵長の言葉、これはけなされているのか、褒められているのか。
ひとまず後者だと考えよう。
「バード兵長は、私が無罪だと思ってくれているのですね!」
「さあ、それはどうですかな」
そこについては、明確にするつもりはないわけね。
私のことは無罪だと思っていると、バード兵長が認めようものなら……。きっと私が「あーだ」「こーだ」と言い出すと思っているのだろう。
「ただ、不思議だとは思っていますよ」
「それはどういうことですか!?」
バード兵長によると、窃盗団はこれまで皇都の中心部で暗躍していた。宝飾品店や高位貴族の屋敷に忍び込み、宝石を盗んでいた。転売したり換金したりも同じ。中心部で、だ。ところが今回、窃盗団のリーダーであるドンは突然、皇都のはずれに現れた。しかもタウバー村の解呪師に、ジュエリーボックスに沢山の宝石を詰め、それをリジェクターだと嘘をついて預けた。
これは当然だが皇都警備隊本部でも「なぜ?」だった。
しかも私の証言を信じるなら、私とドンは完全な初対面。
初対面の相手になぜ、大量の宝石を預けたのか……。
しかもその中にはどうやら『慈悲の涙』という有名な宝石もあるようだった。
「でもちゃんとしたリジェクターも含まれていました。勿論、ただの宝石もありましたが」
「なるほど。リジェクターとしての鑑定を依頼したのなら、一切、リジェクターがないのもおかしな話でしょう。本物のリジェクターも、変に疑われないよう、混ぜたのでしょうな」
「あの、密告があったのですよね? 密告者は誰なのですか? その人は私のことも知っていたのですか?」
この質問は、どうやらまずかったようだ。密告者が誰であるか。それは明かすわけにはいかない情報。そこを私が話題にあげたことで、おしゃべりが過ぎてしまったと思われたようだ。もう後は沈黙を守られてしまう。
それでも食い下がり、何か聞こうものなら……。
またも角度を変え、同じことを質問される。
仕方ないので黙り込み、格子の窓から外を眺めていると……。
一度休憩をして、その後はひたすら馬車は進み、皇都の中心部に近づいているようだ。
窓から見える景色が、森や草原から、牧草地や畑に変わり、やがて民家が見えてきた。さらに高い塀が続き、そこは貴族の邸宅が立ち並んでいるようだ。次第に様々なお店も見え、大きな広場を通り過ぎ、そして皇都警備隊本部に到着した。
赤レンガ造りの重厚感のある建物で、スレート葺に煙突がいくつも並んでいる。中央棟から左右に両翼を延ばしたように建物が広がり、地上三階建てになっていた。とても大きい。
「中に入りますよ」とバード兵長に促され、階段を上り、建物の中に足を踏み入れる。エントランスホールは八角形のドーム天井で、美しいレリーフで飾られていた。皇都警備隊本部の紋章に描かれているのと同じ、ウルフの姿がレリーフには刻まれている。
「こちらへ来てください」と再びバード兵長に促され、通されたのは……無機質な部屋だ。飾りのように格子がついているが、それは逃亡防止のため。室内に置かれているのは、椅子とテーブルのみ。向かい合わせでテーブルを挟み、椅子がそれぞれ置かれ、床は木目のむき出しで、壁は白。
「では始めようかね」のバード兵長の合図で、私は着席した。すると向かいの椅子に、黒いスーツ姿の年配の男性職員が座った。扉のそばに置かれた椅子には、バード兵長が腰をおろす。そして馬車で聞かれたことを、また同じように……聞かれた。
もうこれはそういうものなのだと理解し、観念して話すことになる。だがそれが終わると、窃盗団のメンバーだということで、似顔絵が並べられた。その中で知っている人物がいるかと問われたのだが……。



























































