全てを破壊する牙
駿太郎の目の前で、ボロボロになった制服姿の二人ががそれぞれ漆黒のアーマースーツとヘルメットに身を包んでいく。その横では、複数人の隊員が画面に次々とパスワードを入力していく。
着替えおえた智晴はその場に座禅を組むように座り瞳を閉じる、輝善は直立したまま、渡されたライフル型MMOを構えた。
静かな、どっしりとした雰囲気が室内を覆う。
「大安寺智晴に敵艦の座標情報を送信! 同時に同魔術師の魔法の発動を許可する!」
駿太郎の深い声が部屋を駆け抜けた。
智晴に衛星の映像から割り出された敵艦のおよその座標が送り込まれる。
「『世界を知る瞳』を、発動します」
ヘルメット埋め込まれ石から、術式を抜き出し魔法を発動する。目を閉ざしたままの智晴の脳裏に敵艦のあらゆる情報が誤差ゼロで映し出される。
四つの制約によって自由に使うことを許されていない智晴のこの魔法の能力の一つは、世界に存在する「物」が必ず持っている情報を、「見える」ようにすることだ。例えば、移動を続ける自動車があるとする。智晴はその車の座標を知ることで「車の持つ情報」つまりその位置、移動する方向・速さ、質量、材質。また、さらに情報を細かく分析していくことで「乗車している者の情報」つまり、姓名、年齢、職業などのプロフィール。さらには彼らの置かれた立場。といったように「車」という単一の「情報」から、ある意味無限の「情報」を「見る」ことができるのだ。だが、これだけで終わりではない。「世界を知る瞳」にはもうひとつの能力がある。
情報を分析し「見える」ようにすることが可能なのは術者である智晴だけ。しかし、彼が「見た」情報は、他者と共有が可能であるのだ。
無論、制限はある。4分間という一定の限られた時間内。さらに、一度に共有することができるのは現在の智晴の力であれば2人まで。だが、この制限があっても、無限といっても過言でないに「情報量」を得ることができる魔法を複数人で使用することができるという事実は国家の最重要機密の一つとして管理するにふさわしい重要性を持っている。
「『世界を知る瞳』の発動を確認」
「了解。智晴、輝善と情報を共有しろ。続いて、朝日輝善『全てを破壊する牙』の発動準備を始めよ」
「はっ」
短く答えた智晴の姿に動きはない。しかし、その後ろに立つ輝善の脳裏には彼から送られてきた「情報」が鮮明に浮かんでいた。敵艦の地球上における位置、形状、速度......術を発動するために必要となる材料を全て見終えると、輝善は口を開く。
「発動準備、完了しました」
輝善の発動しようとする魔法は、もちろん朝日家の得意属性である「刻」に特化し、より大規模な魔法を発動させることを可能とした魔法だ。だが、この魔法が「全てを破壊する牙」と呼ばれているのはそのためだけではなく、複製呼ばれる術式が混ぜ込んであるところにある。この術式が組み込まれていることで一度発動した魔法と同じ魔法を一瞬で何度も発動できる。「同じ効果を持つ」ではないのがポイントである。つまり、発動する瞬間に位置情報などの変数を少しだけいじり、別座標に魔法を発動する。ということも可能なのだ。
また、この複製は単体で取り出すことのできない術式となっており、これは智晴の「世界を知る瞳」を使っても同じ結果でなることが既に実験で検証されている。「情報」を見ることは可能であるが抜き出す過程でなぜか術式が壊れてしまうのだ。
そして、この魔法もほかの魔法と同じく石から術式を抽出して発動する。結論、何が言いたいのかというと、この術式(=魔法)は「刻」を本来の得意属性とする朝日家オンリーの魔法である。ということだ。
輝善の報告を聞いた駿太郎は力強く頷き、重く太い声で命令を下す。
「発動せよ! 」
「......『全てを破壊する牙』を発動します」
多重防壁に囲まれた地下の司令室で、輝善の声が響いた。同時にライフル型MMOの引き金が引かれる。
変化は突如として起こった。中央にある大画面に映る敵艦が、海の水ごと真っ二つに裂けたのだ。さらに、崩壊の連鎖は続く。横に割かれた揚陸艦は今度は縦に刻まれ、そしてまた横に、縦に、横にとさかれていく。それが一瞬にして何十回と繰り返され、全長役200m、幅30mの鉄塊は数秒のうちに海の藻屑となって消えていった。
「......『全てを破壊する牙』の発動を確認。敵艦は消滅しました」
状況を整理する隊員が魔法発動の結果を述べる。
「作戦の目的を達成した。朝日輝善、大安寺智晴の二名は魔法を終了せよ」
「「はっ!」」
二人の発動していた魔法が解かれ(といっても輝善の方はすでに魔法の効果を終えていたためライフル型MMOの回収のみであった)、再び四つの制約によって使用が禁止される。どちらも一高校生が手にしてよい力では無かった。
そして、二人がアーマーとヘルメットを脱ぎ、元の制服に戻って初めて、駿太郎から作戦終了の知らせが届いた。
「やっと、終わったな」
「まだだ輝善」
輝善の力が抜けた言葉に、隣にいた智晴が返事をする。とぼけた輝善に、先ほぼまで出る幕のなかった采聖が言った。
「周平のことだよ」
「あぁ、そうだった。緑谷さん」
「わかってる。真利奈たちへの連絡は今しているとことだ......と、つながったぞ」
駿太郎が手に持った端末を二人の前に差し出す。
『なに駿君? あ、周平くんのことね』
「ああ、容態はどうなんだ?」
『大丈夫、二、三日安静にしていればすぐに良くなるって。そのあいだは病院生活だけどね』
「そうか、わかった。では、いまからそちらに行く」
『は~い』
真利奈のその言葉で、駿太郎は回線を切った。
「それでは、俺たちも行きましょうか」
「ああ、そうだな。涼稀、お前はみんなを集めて山門校に付属している病院に行ってくれ」
「わかりましたー」
少し離れたところで液晶とにらめっこしていた涼稀が駿太郎の言葉に応答する。
「では、行くか。隊員のみなさん。あとはよろしくお願いします」
駿太郎は頭を下げ、4人の友とともに司令室をあとにした。




