瞬間移動
前回は少し長くて、今回は少し短い......
もう向こうは気付いたかな。
薄暗い小部屋の、内側の氷は恐らく氷華の魔法。そして外側は采聖のもの。そしてこの予想が正しければ、すでに彼らの自分の意識が戻っていることを知っているはずだった。――不本意ながら頭もぶつけてしまったわけだから。
コンクリートの隙間から、明滅する光が少しだけ入ってきて秘都美の顔を照らす。
初めはこの光の正体がわからなかったが、これだけ長い間ずっと強力な光=電気の魔法を使える者は周平しかいない。そして、この魔法には秩序というものが感じられない。そうすれば、周平が「暴走」を起こしている可能性が高かった。
(私って、いつまでここいなきゃいけないんだろ。こうしている間にも周平くんは......)
自分はこんなところで守られている場合じゃない。心から、強くそう思った。だが、だからと言ってこの小部屋から出るのかといえば、それはあまりにも危険すぎてはばかられた。
もしかして、自分は弱虫なのだろうか。好きな人が苦しんでいるのに、何もできない、ではなく何もしようとしないなんて。
いっそのこと、外に出てしまおうか。
勝算が、無いわけではない。涼稀の魔法を発動した状態のまま瞬間移動で小部屋の外へ脱出したあと、周平へと再び瞬間移動して彼に触れるのだ
だが、やはり危険すぎ、秘都美には踏ん切りがつかなかった。技術的な不安もある。一瞬で周平との相対座標を正確に読み取り、術式を石から抜き取り魔法を発動しなければならないのだ。でなければ周平の魔法を浴びてしまう。目算でどれだけの正確さが見込めるのか。ある程度の訓練は積んできているものの、彼女に実戦での経験はない。そして、本当の不安の原因はここに起因している。
つまり、「自分がパニックに陥らないか」ということだ。
氷華と采聖に守られているこの部屋の中でさえ、周平の異様に強大な魔力はひしひしと感じられる。これは、驚きや羨望、嫉妬を超え、すでに恐怖という感情を引きずり出すほどのものであった。
これが外に出てもろに自分に向かって来れば。自分が向かうべき彼の強大さに恐れをなして立ちすくんでしまうのではないか。そして、そんな自分を躊躇うことなく一瞬で消してしまうかもしれない。
「暴走」つまり狂乱状態。であるがゆえに、無感情に、無慈悲に、自分が消されてしまうかもしれないという恐怖は、いくら相手が自分の愛する人であり、救いたい人であっても拭い切れない戸惑いというものがあった。
だが、いっこうに変化の見られない外の様子に、秘都美は自分がやらなければといけないとついに心を決めることにした。
(周平くんをここに連れてきたのは元はといえば私の責任。だから、最後は私が終わらせるんだ)
「たとえ、自分の身が滅びても」
だが幸か不幸か。秘都美がそう言って涼稀の術式を魔法として発動しようとしたとき、彼女の顔にこれまでよりも強い光が当たった。
「んっ!」
いきなりの光に目を閉じる秘都美。そして少しずつ閉じた瞳を開いていく。
光が差し込んでいるのは自分の目の高さのところだけで、その向こうには氷ごしに金と銀の半球体が見える。そのなかで、かすかに真利奈や氷華の姿が見える。
(よかった、みんなちゃんと......ん?これって)
どうやら向こうでは氷華たちが動いている。それはよく見ていくと、
(私を、呼んでる?)
たしかに、彼女たちのジェスチャーはそんなものばかりだし、それならわざわざ壁から自分たちの居場所だけを秘都美に見せようとしたのもうなずける。
「よし! それじゃやっちゃいましょ」
目算で相対座標を読み取る。みんなのいる安心。パニックなんかにはならない。
【自我の距離、21.8m......】
【石より術式を抜粋......】
【変数を入力。転送完了......】
今までに何度もやってきた工程。みんなのとこに行くために。
【術式を認識.......】
【瞬間移動発動】
ふわっと、体が軽くなるのを感じ、足に体重がグッとくるのを感じたときには、目の前に氷華や真利奈の顔があった。
横で、口を重くつぐんでいるのは智晴くん。涼しい顔で、だけど強い眼差してこっちを見ているのは輝義くんかな。秘都美は心の中でどうでもいいことを考える。そんな心の余裕もできたということだった。
「秘都美。来てくれてありがとう」
「よくきてくれた秘都美」
氷華が微笑み、若干恥笑を浮かべた真利奈が腕を組みながら声をかける。
「でも、本番はまだですから。今はそっちです」
そんな一つ上の先輩に、秘都美はキッパリと返答する。
秘都美の目には強い力が滾っていた。
そして、それに劣らない目の光を湛えた少年が口を開く
「秘都美さん。そのことなんだけどね」
と。




