結界の外側
輝善の瞳では、炎のような闘志が煌々と燃えていた。
「何か、私にできることがあるんですか?」
輝善しの言葉に、勢いよく秘都美の口が開けられた。輝善の瞳から、自虐的な笑みと共に炎が消えた。
「まあ、一応の作戦なんだけどね。それで、俺が提案しておいて悪いんだけど、秘都美さんには一番危険な仕事を頼まないといけないんだ。もちろん俺たちは全力でサポートさせてもらうつもりなんだけどね」
すまなさそうな顔をする輝善に対して、秘都美は力強く頷く。
「わかった。それと、私のことは秘都美って呼んでよ。あと、敬語もいいよ」
「分かった。それじゃあ秘都美のみなさん説明を開始します」
輝善の口から、彼の戦争が紡ぎだされた。
◆◇◆◇◆◇
指令室にある大きなディスプレイ。その一つには金と銀巨大な半球体と、その中で燦めく雷が映し出されている。
だが、今はそんなこと関係ないと言わんばかりに、涼稀は手元にある液晶画面の方を見たまんまだった。
ノートパソコンのよう形状をしたそれには、奈良要塞全体、及び周辺地域の地図と、そこに展開された味方の兵力。そして現在確認されてる敵兵力の分布が詳細に映し出されていた。
この部屋に翔と天悠はいない。彼らは自ら義勇軍として戦闘に参加している。
もちろん、この近辺で(近畿地方でという意味で)最も安全な場所の一つであるこの指令室への案内人である楓は、正規軍のいる現在の状況で、元々義勇軍にそれほど大きな役割は無いとはいえ、猛烈に反対したし、鈴もそれに従った。だが、どうしてもと食い下がる二人についに折れ、仕方がなく一番安全な仕事をする部隊(と言っても戦闘はある)に編入されることになったのだ。
また、姿の見えないもう一人の生徒である紫乃は、治療室で負傷者の手当に携わっている。
ごくわずかな騒音の後に、涼稀のイヤホンマイクから翔の声が流れた。
「涼稀、次はどこ」
それと同時に、手元の端末に翔が映し出される。黒いアーマーに身を包んだ彼の後ろには、同じ装備をした同年代の少年が何人か立っている。義勇軍に志願したものの大半は魔法の才を持つもの。つまり、山門高校の生徒であった。
その山門高生ばかりの中において、翔が中心的な位置にいるのは、彼の実力もあったが、それよりも涼稀との繋がりに由来するものだろう。
「まずは戦果と負傷者の報告だよ。翔」
「あぁ、ごめん。えっと、
敵二十八名は殲滅。こちら側の負傷者は無し......だよ」
詫びと共に、苦虫を噛み潰したような顔をする翔。自分たちが殺害の対象だったとしても、実際に人間を殺すというのはやはりためらいがあり、精神的なダメージを受けるものだ。それが、まだ大人になり切っていない少年たちであればなおさらだった。
そんなことを気にする素振りもなく、いや、分かっているからこそそこにあえて慰めの言葉はかけず、涼稀はいつも通りの口調で続ける。
「了解。次は500m前進のあと、左折して300直進。そこへ右に曲がるとさっきと同じく30人前後の敵がいるけど、敵を確認したらその曲がり角の壁に隠れて。この先は次の連絡で伝達する。もし何かあれば本部から通信する。以上」
「分かった」
翔がそう言い終わるのを最後に彼らを映す画面が閉じられた。翔が端末をスリープ状態に切り替えたのだ。
「涼稀くん。どうなの?」
涼稀に話しかけたのは、彼と同じようにイヤホンマイクをつけた鈴だった。隣には、同じ格好をした楓が立っている。
「そうですね。現在のデータでは、敵の総兵力はゲリラ兵400、正規軍200、『中心部』で戦闘を行っていた特殊軍が30。
そのうち、半数は撃破、4分の1は捕虜としているので、敵の残存兵数はゲリラ兵が約50、正規軍は約100で合計約150だと思われます。
これを対処すれば、要塞内の的兵力はほぼいなくなった都考えていいです。まぁ、翔と天悠には、もう少し頑張ってもらわないといけなさそうですね」
一度画面から手を離し、後ろにいる鈴たちの方を向いてスラスラと言葉を紡ぎ出す涼稀。
「君は全部情報が頭に入っているの?」
楓が驚きながら問いかける。
「えぇ、まあ。こういうのは得意なんですよ」
「義勇軍特設参謀っていう肩書きは本物だね」
楓が褒めるように涼稀に声を掛ける。だが、そのときには、涼稀は画面へと目を戻していた。
この、「義勇軍特設参謀」という肩書きは、涼稀が楓の案内でこの指令室へ避難したときに、たまたま義勇軍が組織されていることを知り、それについてのデータを何とか貰い受けた数分後、すべての資料に目を通した彼が指令室の上官に自らの戦闘戦略を述べた結果、そのまま義勇軍の指示を与えてくれと言われて受け取ったもにであった。無論、超々大抜擢である。指令室の隊員ははじめ反抗的な態度をとっていたし、いくら成績がいいとはいえ、一介の魔法科高校生である涼稀が軍の指揮をすることは異例中の異例だった。だが、隊員たちの意見は上官が押さえつけ、また彼らは涼稀のことをすでに認めつつあった。
それは、彼が綿密な計画性と的確な判断力を中心に、確かな実力を保持しているということであった。
そして、軍の指揮を行うことは、ある意味彼らの命を握っていることであった。だから、普通なら無作法だと思われてもおかしく無い涼稀の態度に対して、楓が特に気にしているような様子は無かった。
再び、少しだけの騒音が涼稀のイヤホンマイクに走る。
「涼稀、着いたよ。敵はちょうど三十名。装備が粗末だから全員ゲリラ兵だと思う」
「了解。天悠、いるかい?」
中心部。金銀の結界に覆われた雷嵐の外では、軍師、灰桜涼稀発案の、殲滅作戦が始まろうとしていた。




