「刻」
やはり、簡単に勝たせてくれる相手ではなかった。体中に負った少なくない傷の微妙な痛み。もう慣れたその痛みに、少しだけ関心を寄せて、輝善は自分の目の前に立つ集団を睨む。
自分の魔法は、「非生物」に対して絶大な効果を得る。「破壊」を目的にするならば、世界的に見ても強力な部類に入る。そして、現在においての戦闘といえば、最新の科学力による叡智の結晶のぶつけ合い。
輝善の魔法は、その叡智を「刻」む。
時には真っ二つに。そして時には原子レベルにまで。
よって、「科学」をほぼ無条件に無力化することが可能である輝善の魔法は、現在の戦闘において最高級の強力さを誇ている。
だが、どんなことにも長所があれば短所があり、美点があれば欠点がある。
彼の魔法は「生物」に効果を発揮しない。それが「物」になってしまえば、塵になるまでその姿を変えることができるが、「生」があるときには二つに両断するどころか、傷一つすら付けることはできない。
今回の戦闘において、これはかなりの痛であった。
再び動き出した的に、輝善は魔法を発動する。眼下の地面が壁のように切断されたのを感覚で悟り、彼の名を呼ぶ。
「智晴!」
迫り来る敵を目前にコンクリートが浮かび上がる。輝善が地中で切り出したコンクリートを、智晴の魔法によって浮かび上がらせたのだ。しかし、それで足止めができたのは僅かの間だけだった。
蒼きオーラを纏う青年の拳に、壁は一時の内に崩される。
再び、旧友の名が叫ばれた。
「泰然!」
「わかっている」
駿太郎に呼ばれる前から発動の準備していた泰然が、右腕を前に突き出す。突出している輝善に迫る剣と拳がその動きを止める。剣はは白銀に輝く壁に音を立ててぶつかり、拳もその速度を失った。
「氷花散吹!」
5人を包む壁は消え、氷華の魔法によって作り出された氷柱の弾が円が広がるように飛んでいった。
しかし、それは虚しく灼熱の壁に遮られた。
敵の大将と思われる男の隣に立つ青年が魔法を発動させたようだった。
地面で呻く者と「生」を失った物輝善たちが戦闘不能にした敵の数は10。死体のすべてが敵のものであるこいうことは5人にとってありがたいことだが、それでもなお、敵の数は自分たちの数倍。さらに、強者ぞろいにとなってきた。余裕というにはいささか程遠い、一刻も緊張を解けない状態が続いている。
相手はとなりの大国の特殊部隊。
例えこのことを知っていないとしても、気を抜けばそこで終わりであることは感覚的に想像できることではあった。
赤く燃える壁が消えると同時に敵はまた攻めてくる。5人は背中合わせにまとまり敵がまたその周りを囲む。
劣勢なのは生徒たち。それでも、情報を盗み出すことが任務である洪成たちが撤退しないのは、泰然と駿太郎が結界のを強化し、展開し続けているからだ。
輝善は自らの腕に魔法をかける。
触れた物体を最も力のかかる点を起点に、自分の触れている面に垂直に物体を両断する。という魔法だ。本来であれば、彼で全体をこの魔法で覆い防御と攻撃を兼ねたアーマーとなるのだが、現在の敵の装備は特殊らしく、少々の魔力を流しても効果が得られなかった。だから彼は「腕」という一点に絞って魔法を発動し、その威力を高めた。
多くの集中力を必要とする代わりに本来と同等の効果を得られたことが、あたりに散らばる両断された短剣や、アーマーから見て取れる。
束の間の静寂を破り、ひとりの男が動いた。輝善が前に出る。
敵は相手の大将――だと思われる男。ひとりだけ違ったアーマーが目立つ。
右手の突きが来る。輝善は半身になることでかわしその勢いで回し蹴りを繰り出す。だが、それは男の左手に受け止められた。今度は男の右足が輝善の体重を支える左足へと伸びる。
猛スピードで舞う二人のすぐそばでも、別々で同一な戦いは動き出している。
「揺るぎない防壁」
駿太郎が黄金に輝く壁を作り出す。
それに囲まれた氷華と智晴がそれぞれに詠唱付きで魔法を発動する。
「流々と流れる水よ。凍てつき彼らを襲え!
氷花月水! 」
「彼の力を助け、その真価を導き出せ。
聖霊の祝福」
無数の氷弾が現れたあと、その数が一気に倍になった。生成された氷は巨大な花のようにまとまり、黄金の壁をすり抜けて敵に飛来する。
紅蓮の炎による壁が現れるも、幾つかの氷柱は壁を越え敵に突き刺さる。
また、二つの影が倒れた。
死には至らないまでも、このまま戦闘に加わることはできないほどの傷。
しかし、それに怯んだ様子は全くない。
一瞬、だけ蒼き魔力が解き放たれた。膨らむんだ魔力はすぐに内に納められた。
青から赤へと纏うオーラを変貌させた男がそこにいた。
彼は動く。これまでより一段と輝かしい障壁が築かれその攻撃は阻まれた。
男は一度下がり、構えを取った。
◆◇◆◇◆◇
青瑛が本気をだした。大きく噴き出された魔力を感じてすぐに彼のものだと気付いた。二人の壁使いを一気に殺るつもりだろう。
洪成は目の前の少年を見据える。ボロボロになりながらも自分の体術についてきている彼にに、少しばかりの称賛を心の中で与える。正直、ここまで手こずるとは思っていなかった。
(だが、それもここまでだ)
構えを取り直し、集中の度合いを一気にあげる。
もう、彼しか見えない。その代り、そのすべてがわかる。呼吸、筋肉の動き、重心の位置。あらゆる情報が自然に自分の中に入ってくる。
今までの、数倍の速さで動き始める洪成。金髪の少年もしぶとくついて行くが、限界が近いようだった。
左手の突き。と見せかけ右足の蹴り。しゃがんでかわす少年。そのまま踵落しの要領で足を落とす。少年は左に転がりすぐに飛び起き、すぐに距離を取る。
再び対峙。肩で息をする少年に、構える洪成。足を滑らせる。胸へ右拳がかわされた。変わり飛んできた蹴りを左手で薙ぐ。そして、重心のかかった右足にフルスピードで蹴り。
先ほどと同じやり取りでかわされた蹴りは......当たっていた。飛ばされた少年は起き上がろうとするが襲いくる激痛に耐えることができずに倒れる。あの精神状態では魔法は使えないだろう。という考えが脳に行き届く前に、洪成の体は動いていた。
獲物を仕留める肉食獣のように猛々しく、だが静かに。一瞬で間合いを詰めながら洪成は拳を引く。
(これで最後だ)
◆◇◆◇◆◇
最後の拳が迫るとき。彼は何かを感じ取り、瞳を横へ向けた。
(やっと、来たんだね......)




