不安
「中心部」へと移動する中で、周平は脳裏に浮かぶ一抹の不安を消し飛ばせないでいた。
それは先輩たちの安否。ではなく、自分が正気を保てるかどうかについて。
まだ自分が不完全な魔術師であることを見てめざるを得ない状況。高校一年であることを考慮すれば、当然なことであるとしてもこれから行く戦場でそんなことは一切関係ない。
殺るか殺られるかのまさしく死闘。
そしてだからこそ、一つ気がかりなことがあった。
「青影先輩」
周平はすぐ隣を走る秘都美に声をかける。ありえない侵攻に混乱する要塞内で、軍の関係者でもない彼らを「中心部」まで送ってくれる車があるはずもなく、摩利奈と采聖は魔法で、周平と秘都美は身体強化で目的地へと向かっている。
いきなり言葉をかけられ、少し驚いた顔で周平を見る秘都美。摩利奈と采聖は二人の前を走っているため、そのやりとりに気づいていない。あるいは、気づいていても聞いていないふりをしている。
「今から先輩のMMOに術式を送ります」
そう言って周平はMMOを取り出し、走りながら操作する。
「え、それってどういうこと」
驚きを隠せない秘都美をよそに、MMOを操作し未知なる術式を秘都美のMMOに転送する。
なぜこのタイミングでそんなことを言い出すのか。ということも驚きの理由の一つだが、本当に驚いたのはまた別の理由があった。
魔術師は魔法を発動すとき、まず自分の発動したい魔法の魔力情報を石から抜き出す。この時、現代の魔術師の大半はMMOを介してその術式を簡略化。つまり、石から抽出する術式の無駄な部分を省略する。
そして、その術式に自らの魔力を通すことで魔法は魔法として発動することが許されるのだ。
つまり、MMOは石から送られてくる術式を簡略化するだけの機械であり、自らに術式を記録するには容量が足りないため、現代の技術では不可能とされている。
だが、周平が行ったのはその術式をMMO本体に記録し、それをほかのMMOに転送する。という技術。
秘都美は術式が本当に自分のMMOに送られてきたことにまたしても驚く。
「どうしてこんなことができるのかとか、詳しい説明はあとです......」
そんな秘都美に周平が言葉をかける。
「それは、俺の『暴走』が認められた時に発動してください」
「暴走」それは彼が最も恐れること。自我をなくし、魔力の膨張に魔術者自身が耐えられなくなる現象。
「でも......」
「暴走」をおさえるということは、一時的に魔力をすべて奪い取るか、それを無理やり体内に抑え込むということであり、それは発症者にとって大変危険なことだ。
だからこそ「暴走」を止めるのは普通、高位の魔術師である必要がある。
そもそもこのような現象はどのような者にでも起こるわけではなく、とてつもなく膨大なな魔力を保有する者で、なおかつそれを制御しきれない者にしか起こらない。つまり発症者のほとんどは情緒の不安定な5歳頃から10歳の「子供」だ(精神の安定と共に魔法の制御は上達するため、周平のように比較的精神が安定しているにもかかわらず「暴走」を起こすのは珍しい)。
また、魔法はそのほとんどが遺伝によってその力を継承するため、暴走の可能性を秘めた子が誕生する家系にはそれに比例する何かしらの権力を有している。
よって子が幼少の時には暴走を止めるために魔術師を雇うだけの資金と力を持っている......のだが、周平の送った術式がもし本当に「暴走」を止めることができ、秘都美のような一般(というと少し変だが)の魔術師にも使用できるのであれば、この常識は根本的に覆る。
その事情と、「暴走」を抑えることの危険を踏まえての秘都美の「でも......」であった。
「涼稀の作った術式なんで心配は無用です。それにその術式は俺にしか効きませんから」
秘都美の意思を汲み取ったかのように周平は笑顔で答える。
いつしか秘都美は立ち止まり、周平、そして真利奈と采聖も歩みを止めていた。だれも言葉を発さない。少しだけの沈黙。沈黙は、周平の言葉を待つ為のもので、周平が決心するための時間だった。
「念のため、田邊先輩と百地先輩にも送っておきます」
出したままのMMOを操作。すぐに術式を転送する。そして再び口を開く。
「ただ、この術式はゼロ地点。つまり、俺に触れていなと効果を発揮できません」
「それじゃあ、秘都美にさせるのは少し危ないんじゃないのか」
「暴走」の危険をよく知る摩利奈が周平に問いかける。爆発的に広がる魔力の奔流のなかでは、基本的に術者の最も得意とする属性の魔法が常時発動された状態となる。例えば、雷流乱舞のように、周平を中心に雷が散乱するような状態にもなりかねないのだ。そんな中で「暴走」のもとに触れるということは言わずもかな大変危険な行為なのである。
「だからこその青影先輩です。先輩も、目視できる距離なら瞬間移動は使えますよね」
「ええ、さっき使ったみたいに目視できる範囲で、座標が自分で指定できれば使えるわ」
「ならだ丈夫です。これは、まず俺の発動している術を抑えることから発動するので先輩に危害はないと思います」
「わかったわ」
そう言って、手でOKのサインを出す秘都美。
そのあとのことはわかってるだろう。と、周平は判断し、先を行く。
彼は、もはや一刻の猶予も許されないという面持ちを浮かべていた。逆に言えば、彼にとって「暴走」ことはそれほど大事なことであったのだ。
上級生は、先にゆく後輩にの後を追う。
仲間の安否を思い、一刻も早く駆けつけようと自分を急かす。
その思いは無駄になるのか............それとも届くのか。
◆◇◆◇◆◇
乱舞――――拳が交わり、また離れた。
氷が飛び、灼熱の業火がそれを無力化する。
白銀と黄金にふちどられた戦場で熾烈を極めた戦いは続く。
ボロボロの制服、滴る血。広がる黒点。
転がる死体は死の香りを放っていた。
ほとんど死に設定になってしまっていたMMOとかストーンとかを呼び起こしました。
何か、バリバリ説明回になってしまった気がする......。
頑張って話し進めます。




