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IKAZUCHI  作者: 雪 渓
2章-奈良旅行-
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援軍

 死を覚悟する少年。


 その口は............無邪気に歪んだ。





 銀と金の壁を貫き、眩(まあばゆ)き一筋の雷刃(らいじん)が突き進む。


 迫り来る恐怖を消し飛ばし、雷迅(その)の主は戦列に自らの身を投じた。


 来(きた)る敵をことごとく退け、戦場は新たなる進展を見せる。






   ◆◇◆◇◆◇






 迫りくる男の体。引かれた腕。すべてが鮮明に見えた。死ぬ間際には、こんなにも克明に世界が見えるのだろうか。まばたきをするかしないかの短い間に、実に様々なことが見えた。


 その景色に、突如。迸(ほとばし)る魔力を感じた。


 目をそらすと、遠くに彼の姿があった。が、いかんせん遠すぎた。目の前の腕が振り下ろされるまでの一瞬で間合いを詰めるのは無理だった。


(もう助からないなこりゃ)


 少年の頬が自嘲ぎみに緩む。


--すべては一瞬のうちの出来事だった。


 輝善に向かってまっすぐと迫る拳が、一本の閃光によってかき消された。


 目の前が光で真っ白になる。腕を失った者の叫び声。遅れて聞こえる新友の声。そして、あの距離をもう詰めたのか。という輝善の感嘆は、その「一瞬」の最後に付け加えられた。


 破られた障壁の隙間からかけてくる少年。


 駿太郎と泰然によってつくられた結界を外からとはいえ打ち破り、輝善の命を救ったのは周平だった。障壁の手前で魔法を放った彼は五人の囲身を破り、既に輝善のすぐそばまできていた。

  

 突然の乱入者に静まる戦場。周平に続いて秘都美(ひとみ)、采聖(さいしょう)、真利奈(まりな)が結界の中に入ってきた。


 そして、すぐに塞がれる結界。


「朝日さん、大丈夫ですか!」


 駆け寄ろうとする周平を座ったままの輝善が手で制する。


「俺はいいから早く片付けてくれ。できるだろう? 君なら」


 この状況に陥ってもなお、怪しげな光を浮かべる目に周平は止まる。敵は警戒をしながらも、攻撃を仕掛けてくる様子はない。


 囲む敵の真ん中に、九人に増えた戦士。


 真っ直ぐな目をした二人の壁使い。白銀の髪を持つ少年は拳を握りしめる。清楚なお嬢様と五色の魔法を操る悪女は笑みを交わし、金髪の少年は親友に支えられ立ち上がった。そして、どこからか愛刀を出した少女の隣でその少年は不敵な目をて立っている。


 にらみ合う二つの力の間で、気は高まり、満ちていく。


 前哨戦第二幕は、もうすぐ開幕する。






   ◆◇◆◇◆◇






 失われた右手の痛みに顔を歪めながら、男は左手を天に掲げて言い放った。


「現在是時候子攻撃(今こそ攻撃の時)。神啊(神よ)、我們實力(我らに力を)!」


 影が動き出す。赤いオーラ、灼熱の炎が中心となって戦士を襲う。


 氷の壁、雷撃、突風。そして、めくれ上がるコンクリートの地面。


 金銀の結界の中は、天変地異の様相をあらわにしていた。





 秘都美(ひとみ)は周平と共に赤きオーラを纏う青年たちと戦っていた。


 渾身の斬撃はいともたやすく素手で薙ぎ払われ、そのまま彼女に拳が迫る。が、横からの乱入した周平がその腕をつかみ方向を変えた。


「グァッ!」


 だが、腕に触れた瞬間周平は短い呻き越えを上げることになった。青年の腕をもろに掴んだ手のひらは、軽いやけどをしたような状態になっていた。


「周平くん!」


 叫ぶ秘都美の横から短剣が繰り出された。ほぼ反射的に、愛刀によってそれを受け止め間合いを取る。その背中には周平が立った。


「今だけは、絶対に守りますから」


 周平は、くさいな。と思いながらも自分の言葉を、いや。自分に対する誓いを口に出す。


(恥ずかしがってる暇なんかねぇ。今日だけは、本気でこの人を、みんなを、守らなきゃならねんだ)


 そんな周平の言葉や思いに秘都美が答える暇もなく、青年の攻撃は始まる。あの赤いオーラに当たれば、やけどと同じようなことになる。それをさけるため、周平は雷剣(サンダー・ソード)を作り出した。


 右手の打ち。剣で止める。引かれたその手の代わりに出される左足の蹴りを返す刀で受け止めた。



 周平の空いた左胴を狙った短剣が来る。


「あっ!」


 間に合わないと悟り、硬直する周平。だが、刀を反転させた秘都美がその攻撃を遮った。「ありがとう」と口にする暇もなく、一度動き出した戦場は次の展開へと移り替わる。


 再び青年の攻撃が来る。今度は体術だ(・)け(・)でなく、青い電流も一緒だった。


「天雷の守護壁(サンダー・バリア)」


 電流による盾は、魔法による攻撃を受け止める。が、もう一つの攻撃はまだ終わっていない。蹴りが頭部を狙う。のけぞって躱(かわ)した周平に、再び右腕が襲ってきた。作り出し雷剣でそれを受けとめる。しかし踏ん張りが利かずにはじきとばされる周平。後を追う青年。


 周平はすぐに立ち上がり、反撃する。魔法と肢体を躍らせながら戦う二人。そのすぐ近くで、秘都美は別の二人を相手に戦うことになっていたけれど、周平からは常に気を配っていた。


 周平の足をめがけて繰り出された左足の蹴りを跳んでかわす。

 放たれた青雷《せいらい》を雷剣で振り払う。


 反動で崩れる体勢に青年は追い討ちをかけた。


(危ない!!)


 着地に失敗した周平の体を、瞬間移動《テレポート》した秘都美が押した。

 周平へと向かっていた拳はそのまま、秘都美の腹部をとらえ彼女を数メートルも突き飛ばした。


 その情景はこけた周平の頭に、スローモーションで、そして鮮明に、映し出された。


(俺は何をしてるんだ!!!!)


 いっこうに動かない秘都美。


 とどめだ。とばかりに短剣を秘都美に突きたてようとする敵の姿


「やめろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」 

 あふれる魔力によって作り出された雷(いかずち)は、例の敵を灰燼に変えた。


 だが、それで終わりではなかった。


「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!」


 周平を中心に、嵐が巻き起こった。

 標的を狙う力はもはや彼に備わっていない。無造作に、無規則に、無差別に。無数の電撃が砲弾となって撒き散らされ、大地を削り、金銀の壁に区切られた世界を破壊していく。


 爆発した強すぎる力は「周平」という人格を、少しずつ壊し始める。


 「敵」との戦いは幕を閉じ、新たなる脅威「暴走」との戦いが幕を開けた。










 

   

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