移動中に
あのあと、幾度も張峯を投げ飛ばして満足した様子の洪成は、少し体を休めることにした。
「戦う前から体力を使っていると、戦えなくなりますよ」
腰を落として休む洪成に、張峯が心配そうに笑う。
「なにを、このくらいなんともない」
「それならいいですが」
「そもそも私たちが暴れるkとはないかもしれんがな」
そういうと、洪成は言葉を切った。
実を言うと、今回の作戦の最重要任務は奈良要塞「中心部」に存在する国家機密級の情報の迅速な奪取である。もっとも重要なこと最優先させることはあくまで情報を奪い出すことであり、多数の殺戮によって人口を減らすことではない。よって、戦いによって時間の浪費をするよりは、しっぽを巻いて情報を持って要塞内から逃げ出せばよいわけだった。
もちろん、任務と妨げとなりそうしなければ避けて通れない場合になったとき、人を殺める覚悟はみな持っている。いや、その経験をすでに積んできた者ばかりだった。
洪成は立ち上がり、侵入のための準備を再び確認することにした。
周囲にも気を配ることは忘れない。
近畿地方南部の人口はその大半が奈良要塞に集中しているため、その周辺地域にはほとんどと言っていいほど人は住んでいない。さらに、洪成たちのいる現在地は奈良要塞の入り口のもっとも近いところから十数キロはなれている深い森の中であるため、通常であれば関心目は皆無であるはずだった。
しかし、衛星の画像などから国籍不明の船が接岸し、何らかの物体を陸にあげたということを気付かれていないという確証はない。
いや、この国の技術力を考えると、自分たちが侵入していることはすでに気付かれている。と考えたほうが普通だろう。
だから洪成は首位に気を配る。もし何かあった時にすぐに対処でいるように。もちろんこれは部下たちにも言ってあった。
ここについてから何度目かになる確認を済ませた洪成は、その場に寝転んだ。
別に疲れているということではなかった。それどころか、目は冴え、体も思うように動く。だが、異様な緊張に包まれているのだと洪成は思った。
おそらくそれは
「巨大な敵と対戦する予感」
なのだろうか。先の大戦の最後に一度だけ体験したあの感じだった。
本国の南東の戦線であった。現在、六人の英雄と呼ばれる者たちの中で――その時には顔など知らなかったが――たちの中で唯一の東洋人と言われた男を目の当たりにした時だった。
男の名は カナリア・ジャドウ だといわれている。
彼の相方だ遠距離から電撃の球をまき散らしていたのに対して、彼は身の丈の3倍ほどになる大きさの体験を振り回して戦っていた。それに触れた金属は一瞬で気化して爆破するという、尋常ではないおまけつきではあったが。
今の感じはその前夜に感じた感覚と似ているのではないか。洪成は考える。軍の中でトップクラスの実力があった時には何もできなかった。ただ自らの命が助かることだけを願って縮こまっていたっていた。
だが今の自分はあの時とは違う。今回は攻める側であるし、信頼のおける者もいる。
思想の中をさまよっていた洪成の顔に影ができた。
張峯だった。
彼は心配そうな、笑っているような顔で洪成を覗き込みながら言った。
「洪成様。作戦の決行が早まりました」
◆◇◆◇◆◇
朝食を終えた一同は速やかに部屋へと戻り、少しだけの荷物をもって再びロビーに集まった。
「それでは行きましょうか」
全員がそろったことを確認して氷華が言った。
11人の学生たちは、旅館を出て一番近いバス停へと向かった。のだが、そこに停まっていたのは普通のバスではないようだった。
そして、
「おお。天白、緑谷、それに真利奈。久しぶりだな」
一同に声をかけたのは、がっちりとした体系の男だった。その後ろには、二人の少年が立っている。一人は金髪で、もう広りはひどく堅苦しそうだった。
「ほぉ、泰然迎えに来てくれtのか。わざわざ悪いな」
「というか、なんで私は下の名前で呼ぶわけ?」
駿太郎が軽く感謝の意を表し、真利奈が不機嫌そうに問う。
「なんというか、ほかの二人に比べて威厳がないというかさ」
「それ、どういうことよ」
真利奈がほおを膨らませて怒る。周平たち下級生は、真利奈をこんな風に扱うことのできる泰然に尊敬の目を向ける。
「まあまあ、そのくらいにしとけって。それより泰然、乗ってもいいか?」
駿太郎の目線の先のは、中型のバスがある。外見は普通のバスと対して変わらないが、開いた扉から見える内装は普通のものと違うようだった。
「そうだな。立ち話もなんだし、さっそく乗ってもらうか。なあ二人とも」
そういって泰然は後ろにいる輝善と智晴に聞く。
「そうですね。皆さんには早く山門高の紹介をしたいですし」
「はい」
二人とも異存はなく、一同は早々にバスに乗り込んだ。
周平は一番奥の席に座った。隣はもちろん涼稀だ。他の者たちも、それぞれ思い思いの場所に座った。
やはり内装は普通のバスとは違い、席は向かい合いように設置されていて、その真ん中にはテーブルもあった。
「なぁ、涼稀。これじゃバス型リムジンじゃねぇか?」
「ハハ、そうだね。それにしても、このバスは学校のものなのかな」
「いいや、これは朝日家で手配したものだよ。せっかくの友人を命の危険にさらすようなまねはしたくないからね」
周平が隣の涼稀にバスの感想を言って涼稀が疑問を投げると、いつの間にか涼稀の隣に座っていた輝善が答えた。
「朝日さん。それはちょっと大袈裟じゃないですか?」
「いいや。そうでもないんだよ涼稀くん」
輝善の顔に影が浮き出る。二人はそんな感覚に襲われた。
「おそらく、山城先輩や氷華さん、緑谷さんたち五師八弟家の人は知っていると思うけど」
そういって輝善は周平を見た。目に光が灯っている。強く、深く。そして何より重たかった。心にのしかかっているような目だ。
それは影の差す顔と合わさって、異様な雰囲気を醸し出している。
敵を見つけて不敵に微笑む。
幼くして【破者】の称号を与えられた者。
これこそが、彼の本性だった。
「ねえ、周平クン。君は隠そうとしているけど、何かを感じているね」
そう言われた本人は、あらかさまに驚いた表情を見せるた。
その通りだったのだ。
「君と涼稀クンには特別に教えておこう。そして、いざとなたら俺たちと共に戦うことを許可しよう。
周平クン。君は自分で築いていないかもしれないけど君の力は氷華さんや緑谷さんをはるかに超えているよ。そして......」
輝善は不気味に笑う。周平と涼稀は昨日あった彼と、今の彼が全くの別人ではないかと思ったほどだった。普段の「優しいお兄さん」というような印象はまったくない。敵を見つけて愉快に笑い、静かに獲物を狙う虎のようだった。
「実はね、今奈良要塞には敵軍が侵入しているんだ」
話が忙しくなって申し訳ありません。




