最後の朝食
周平はベランダから戻ってきてベッドに座っていた。隣では、秘都美が眠っている。
寝顔が結構かわいい。
いつもこんな風におとなしかったらいいのに。と周平は思う。
さっき、涼稀が起きたのに気付いたのは、胸がざわついていたからだった。たしかに「ぐっすりと」は眠れたのだが、それはあくまでそれが必要だと考えて、そうすることに集中したからだ。
奈良に来てから何となくする胸騒ぎは、今も続いている。何が原因なのかが全く分からない。それが、一番の不安だった。原因がわかっていれば、その対策はいくらでも立てることができる。
涼稀はまたパソコンに向かっている。レポートの続きだろうか。
自分も何かしよう。
とりあえず、準備運動からかな。
まずは下半身から。次に上半身を。ゆっくりと伸ばしていった。
「涼稀」
「なに?」
心のない返事が返ってきた。どうやら、頭はすべてレポートのほうに飛んで行ってしまっているらしい。涼稀はこうなると、自分から戻ってくるまではなかなか言うことを聞いてくれない。無理にそうすると、当然ながら機嫌が悪くなるのだ。
昨晩のこともあるので、周平は涼稀に聞くことはとりあえずあきらめることにした。
「そこにある俺の端末とって」
パソコンの横のコンセントから充電器の伸びている周平の携帯端末を涼稀が周平に渡す。
「はい」
「サンキュー」
周平は端末を起動し、自身では初めて使うことになった今旅行の特性アプリを開く。そして、旅館の中に目的地があるかどうかを調べた。
(えっと、あったあった。てかここのジム相当ひれぇな)
周平が探していたのは、準備運動の後に体を動かすためのジムだった。
さらに、それが終わると奈良要塞全体の地図を引っ張り出す。
山門高校は、旅館と「中心部」をつないだちょうど真ん中あたりにあった。
画面上の指を、昨日行った「中心部」の方向へすべらせる。すると、周平はあることに気が付いた。
「中心部」の周辺の地域に、建物がほとんど見当たらない。よく見ると、「電波が悪いため表示できません」となっている。
だがよく見ると、「中心部」へと一本だけ伸びている道の周りにはいくらかの建物を見ることができた。その道はまさしく、周平たちが昨日通った道であった。おそらく、普通「中心部」へ行くためにはその道を通るしかないのだろう。その道から外れて中心部へと行こうとすると......何らかのトラップが仕掛けてあるのだろう。通信を遮ってまで隠そうとしているのだから、軍の一部が配備されているのかもしれないし、もっと強大ななにかが隠されているのかもしれない。
それに「中心部」は、高い壁で囲まれていた。これだけ見ても、そこがいかに重要な場所なのかが窺える。
(もし、敵が来るんだったら、大切な何かが保管されているだろう『中心部』へ行くだろうな)
「そんなことに巻き込まれたくねぇよなあ~」
ストレッチをしていた周平が、ためいきをはく。
「どうしたんだいしゅうへ......」
「ふみゃふみゃ......あ、だめだよ周平くんねぇ~。ふみゃふみゃ」
「......ひと姉どんな夢見てんだろうね」
「全くだ。変な夢見られるとこっちが困るぜ」
周平のためいきにようやく画面から顔を放した涼稀が笑い、周平も笑う。
「そうそう、涼稀。いちおう、今日はアレ持ってっといてくれ」
「......本気かい?」
「ああ。つうか、俺の悪い予感は外れたことねぇし」
周平が、残念だといわんばかりにためいきをつく。
「わかったよ。でも、使わないことを祈るよ」
「俺だって使いたくねぇよ。でもたぶん......」
「あ、だからダメだってぇ~......ふみゃふみゃ」
「「............」」
二人が顔を見合わせて笑う。
「青影先輩タイミング良すぎだろ」
「まったくだよ」
しばし笑いあう二人。
「さてと、それじゃあ今日の準備はじめるか」
「うん。いい時間だし、周平ついでにひと姉おこして。寝起き面倒だから」
「無理無理」
周平がかたくなに首を横に振る。
「いじゃん、けっきょく昨日晩は周平が先に寝ちゃって、ひと姉とおれだけで今日のスケジュール考えたんだから。まだ9時半だったんだよ?」
「分かったよ。分かった」
といって、周平は昨晩早く眠ったことに少なからず嘆きながら秘都美を起しにかかる。
「で、どうやって起こすの?」
「それくらい自分で考えてよ」
涼稀が昨日の恨み晴らすかのごとく、満面の笑みで答える。
「...........」
こおあと周平は秘都美を起すことに、大変苦労したのだった。
備え付けの電話が鳴った。
「朝食の準備が出来たんだとよ」
秘都美を起こすのに疲れた周平が電話に内容を告げる。
すでに準備を終えてくつろいでいた周平たちは、すぐに食堂へと向かった。
「お、お前らが連絡のあとすぐに来るは珍しい」
「ヒドイですね田邊先輩」
周平たちが食堂へ入ってきたのをはじめに見つけたのは真利奈だった。彼女と同室の鈴、そして部屋は違うが氷華と紫乃もいた。
「間違ってはないけどね」
「それにしても、先輩たち来るの早いですね」
秘都美と涼稀も話の輪に入る。
「まあ、ここは何かと広くて落ち着くんだよ。部屋にいたら狭くて窮屈だし」
「ホントはそわそわしてるだけでしょ」
真利奈がそう言うと、氷華が付け足す。
「いらないことは言わないの氷華」
「はいはい」
「え、先輩それってどういう事なんですか?」
「周平、先輩にはしてもいい質問といけない質問があるのだ」
真利奈は腕を組んで、精一杯の威厳を保とうとする。だが、微妙に赤らめた顔でほとんど台無しである。
「まあまあ。ほかの人たちも来たみたいだし、この話は終りね周平くん」
「は~い」
氷華の言葉に、周平はあっさりと引き下がる。引き際を間違えては、今後面倒なことになってしまうということを知っていての行動だった。
ほかのメンバーも続々と食堂へ入ってきて、朝食が始まった。全員が集まると、氷華のあいさつが済むと、雑談ともに食事が始まった。




