見学開始?
周平たちが食堂に着いた時には、すでに他のものたちはそろっていた。
周平と涼稀は中世の貴族が使うような細長いテーブルの一番後方の席に座る。秘都美は鈴に呼ばれて?女子たちの集まる前方の一つだけ空いた席へと歩いて行く。
「みんな席に着きましたね」
氷華が、長いテーブルに一同全員が席が揃っていることを確認する。
「それでは、いただきます」
豪勢な食事が始まった。といっても、ランチであるためそこまで重たい料理が出てくるわけではない。ご飯と松茸のお吸い物、鯛のアラ煮、鰻の蒲焼......確かに高級ではあるが。
「ん~ん。美味しい~」
「うまいな」
「さすが天白家だね。こんな料理食べたのは久しぶりだよ」
口々に感想を言いながら、一同は食事を口に収めて行く。しばらく食べながらの雑談タイムが続いたが、料理の量自体は少ないこともあり、皆が食べ終わるまでにそこまで時間はかからなかった。
徐々に食べ終わる者が増え、食器が片付けられていく。食事を済ませたものたちは、周平と同じように課題を共にする友人とところへ行き、今後の予定について話し合い始めた。
「そういえば、周平たちの課題は何だったんだい? 」
周平の前に座っていて、今なお食事中の翔が問いかける。座る席については、基本的に上級生が氷華に近い方へ座っているので、必然的に一年生は後方に固まる。翔のとなりには天悠がいる。
「奈良要塞についてのレポートだな。しかも結構メンドイやつ。お前らの方は何なんだ」
「山門高校についてだよ。どんな雰囲気なのか、何が有名なのか、みたいなのを調べるんだって」
「そっか。それじゃあ朝日家の人とも会えるかもね」
周平のとなりに座っている涼稀が話に入ってくる。
「やめてくれよ。これ以上に有名人と親しくなるのはもうごめんだ」
鯛を口に運びながら翔が言う。
天悠もそれに賛成するように頷いた。
「ハハハ、確かにそうだね」
涼稀が軽快に笑うと、周平はよくいうぜというような顔をしながら言った。
「涼稀。そろそろ行かねぇか? 準備とか色々大変だろ」
「そうだね。それじゃあ翔、天悠、あとでね」
「うん、がんばってね」
天悠は頷いただけだった。
部屋へ戻った涼稀はパソコンの電源を入れた。
「またやんのか? あと三十分したら出るぞ」
「うん、分かってるよ。もう準備はできてるんだ」
「そっか。まあ時間がきたら教えてやるからご自由にどうぞ」
「は~い」
と返事をして、どこまで打ち込んだかなと考える涼稀であった。
徳帝高校奈良研修旅行特製アプリを起動しますか?
[はい] [いいえ]
............はい、が選択されました。
アプリを起動します。
ーーー起動が完了しました。
使用者の目的を認識。
以下のファイルを開きます。
ファイル:「奈良要塞の機能と国家における役割」
編集者:灰桜 涼稀
これ以上の仲違いで勝敗を覆される前に早く勝負を決めてしまいたいアジア側が、前大戦でその勝負を決定づけた非人道兵器ーー原子爆弾ーーの使用に踏み切るのにそれほどに時間はかからなかった。
開戦から三年目。アジア同盟のトップは核爆弾の使用を匂わせる声明を発表した。
爆弾発射のボタンは、1時間後から時間を空けて順々に押される。ことになっている。約一分間間隔で欧米側の3つの都市に核爆弾が投下されるように発射するためだ。
狙われた都市は、東京、ニューヨーク、ロンドン。いずれも当時一千万人を超える超大都市である。
そして、声明から欧米側の人々は自分たちの敗北を悟った。
が、日米の軍事トップは違った。原発使用の気配を察し両軍のトップがが声明発表時にすぐ近くにいたことは何も偶然などでは無かった。
日米の軍事トップが数分間の会談のち極秘の命令を発したのは、アジア側の声明発表から20分後ほどのことだった。
命令を受けたのは日米から選び抜かれた6人の英雄。彼らこそ、魔法という存在を完全にこの世に知らしめた初めての人間であった。
―――――――――――――
激しい訓練によって鍛え抜かれた6人は二人ずつに分かれて瞬間移動という魔法を使って各都市へと散らばっていった。現地についた英雄たちは、米国の最新鋭コンピューターによって計算しつくされた座標。真上で爆弾が炸裂するであろうと予測された地点に待機する。
このころの「魔法」というものは、まだMMOの開発もほとんどなされておらずほとんど人間の処理能力のみ頼っていた。現在はMMOによってほとんど起きることがなくなった、魔力の制限がきかなくなる「暴走」もこの時期の実験段階の魔法では、珍しいことではなかった。6人も、それぞれに「暴走」を経験している。核爆弾を止めるということによって、自分の魔力を暴走させてしまわないかという懸念はそれぞれにあった。
しかし、やはり彼らはそれを抑え込む術を持っていた。死すれすれの訓練が、人々を守るという強い意思が、そうさせたのかもしれない。自信を与えたのかもしれない。
そして、時はきた。場所は東京。霞ヶ関ビルの屋上に二つの人影があるのを、爆弾に搭載されたカメラは捉える。
黒革のジャケットスーツを身につけた二人の男は、向かい合ってたち、弾道が自分たちの方向へ向かってきていることを確認した。
都市には、向かってくる死への恐怖で立ちすくむ者もいれば、諦めて点を仰ぐ者もいる。
そして、彼らが想像もしなかったであろう光景を目の当たりにするのは、核爆弾が眩い閃光が張り裂けた直後だった。否、その眩い閃光こそ、奇跡の光であった。張り裂けた専攻は一つの小さな球状になり、波打ちながら、絶望に打ちひしがれた人々を柔らかく包み込んだ。
――――――――――――
編集を終了しますか?
[はい] [いいえ]
............はい、が選択されました。
上書き保存が完了しました。アプリを終了します。
周平から時間が来たことを知らされ、涼稀はパソコンから顔を上げる。
「そんじゃ行くぞ」
「うn。さ~てと、楽しい旅行にしなくちゃね」
「ああ。そういえばさ、青影先輩、こねぇよな? 」
「呼ぼっか? 来たほうがいいでしょ? 」
「............遠慮しときます」
周平がドアに手をかける。
「周平、それを開けるとひと姉がいるかもよ? 」
ビクッ! っと背筋が寒くなる周平。それでも、勇気を出してドアを開けると、そこには秘都美が............いるわけなかった。
「ま、いるわけないよね。ひと姉は瀬戸先輩たちの部屋でお喋り中だろうから」
「涼稀。知ってたのか? 」
「もちろん! 」
満面の笑みを涼稀は返す。周平のこめかみがピクリと動く。
「そんなことより周平。予定詰まってるんだしさっさといかないと時間なくなるよ〜」
そういった言い主は、ドアの前に立つ周平をフラっと抜けて廊下に出る。
周平もため息をついて歩き始めた。
「さ〜てと。これからも楽しい奈良旅行の始まりだよ。ワクワクするな〜」
「あっそ。ま、さっさと課題終わらせて役になりてぇし、今日は重要施設の見学だけどな」
2人は廊下を抜けて豪華なロビーへ行く。フロントで鍵を預けて外へ出ると、ついに要塞都市奈良の見学が始まる。




