バス
「それじゃ、行こっか」
「あぁ」
周平はボソッと返事をして、涼稀と共に旅館を出て歩き始めた。
「そーいやさ。俺たちどこ行くんだっけ」
「えっとね、今日はとりあえず要塞の中心部かな」
「あ? いきなりそんなとこいけんのか?」
「うん。おれも最初にこれを見たときは目を疑ったんだけどね」
涼稀はそう言ってポケットから二枚のカードを取り出し「コレは周平のね」と言って一枚を周平に渡した。
「コレが特製のパスポートらしくって、これを見せれば中に入れるんだって」
奈良要塞といえば、国家機密レベルの情報があってもおかしくないような国の重要地点である。普通彼らのような高校生が、いや、一般人であれば国家のお偉いさんでも入ることが困難な場所なのだ。
「やっぱこれも五師家の力なのか?」
周平の頭に上品に微笑む氷華の顔が浮かぶ。
「わかんないな。もしかしたら、今回は緑谷先輩も関わってるかもしれないけど......」
「旅館といい、このパスポートといい、この旅行は驚かされることばっかだな」
「そうだね。自分のこれまで住んできた世界が急に狭くなったみたいだよ」
二人は会話を続けながら、とりあえずバス停まで歩いて行った。
周平たちの住む時代にも、シャトルバスというのは未だに存在していた。ただし、燃料は石油ではなく、ほとんどが電気になっていた。
二人がバス停についた頃、周平が何か不安気な顔をして言った。あたりに人はいない。
「あのさ、涼稀。今回なんか嫌な予感がするんだけどさ」
「例えば、ひと姉が来るとか?」
「いや、マジの方だ。なんていうか......」
周平は涼稀の冗談にいつものオーバーリアクションをせずに静かに続ける。
「......俺が暴走するかも。って言った方がいいかもしれねぇ」
「そっか......」
涼稀の顔に影が浮かぶ。
「その時は、頼む」
「わかってるよ」
涼稀は、少し無理に笑顔を作ると、ポケットから今度は端末を取り出した。
「何すんだ?」
「さっきの続き」
「......そうか」
徳帝高校奈良研修旅行特製アプリを起動しますか?
[はい] [いいえ]
............はい、が選択されました。
アプリを起動します。
ーーー起動が完了しました。
使用者の目的を認識。
以下のファイルを開きます。
ファイル:「奈良要塞の機能と国家における役割」
編集者:灰桜 涼稀
東京では英雄の活躍によって核爆弾の脅威から人々を守ることに成功したが、アジア側によって目標地に選ばれた他の地域でも、だいたい東京と同じような成り行きで、核爆弾よる甚大な被害が起きるということはなかった。だが、戦争の終結を早めるという、本来の大きな役割にはなったようだった。もちろん、使用者に不利な形で。
核爆弾の被害を無に帰した6人の英雄は、各地の激戦区といわれる地方へと瞬間移動し、誰に知られることもなく6人で一夜を過ごした。なぜ一夜を過ごす必要があったのかというと、単に疲れていたらであった。
あの第二次大戦から大幅な進歩を遂げた核兵器に対して、二人一組とはいえ、生身の状態で魔法をつかい、各戦場まで赴いたのだ。 そのうえ戦闘に加わることなどいくら彼らでもできはしなかった。
しかし、翌日戦局は一気に変わった。
日が沈んで昇り、ロンドンの時計が10:00を刻む頃、各激戦区では新たなる残虐が始まろうとしていた。それは戦車による砲撃でも、戦闘機による爆撃でも無かった。
戦場のど真ん中。戦車のぶつかり合う大平原に、あるいは戦闘機と砲弾の飛び交う海の上に、不意に人影が見えた。それがになものなのか、誰も知ることはできなかった。
レーダーの上で、あるいは自分の肉眼でその存在を確認できるのみだった。
だがその直後、彼らが敵なのか味方なのか、戦場の人々は直後に知ることになる。
それは時間が一瞬止まったようだった。
戦場を縦横無尽に駆け抜ける雷
何の前触れもなく押しつぶされて行く戦車
空中を音速で飛ぶ戦闘機は壁にぶつかったようにペシャンコにしゃげ、ある兵のいた場所には小さなクレーターができていた。
6人は一つの戦場を地獄絵のようにしてしまうと他の戦場の中心へとテレポート(いどう)していく。
彼らの訪れた後には、酸鼻極まる情景が残るだけであった。ある兵は勝利に歓喜し、ある兵は事実を受け入れられずにただ唖然とするばかりだった。
編集を終了しますか?
[はい] [いいえ]
............はい、が選択されました。
上書き保存が完了しました。アプリを終了します。
「涼稀、バスきたぞ」
「あ、うん」
少し早くきすぎたのだろうか、目的地へと一度でいけるバスがくるまで30分近くかかった。
二人はようやく来たバスに乗車する。と言っても、暇にしていたのは周平だけで、涼稀はレポートに熱中していたのだが。
それはておき、二人は今しばらくバスに揺られるため、また周平は時間を持て余し、涼稀はしばしレポートに集中することになる。
「涼稀。中心部までどれくらいかかるんだ?」
「えっと、あと30分くらいかな」
「そうか」
(あ〜。ひまだなぁ〜)
これを聞いてと心の中で叫ぶ周平であった。




