部屋決めの後
「さてと、周平。どうする? 」
「どうする? つってもなぁ~」
周平たちの部屋割りが終わってから、他のメンバーの部屋割りが決まるまでの少しの時間をあの豪華なロービーで過ごし、それが決まり終わると各自呼び出しがあるまで自分の部屋に待機することになった。
もっとも、秘都美は部屋に入って大きな荷物を置くとすぐに「他の部屋見てくるね」と言って、部屋から出て行ってしまったが。
そんなことがあり、現在部屋にいるのは周平と涼稀だけだ。
周平は自分たちの泊まることになった部屋を見渡す。
一番に目に付くのは、大きな薄型テレビ。そして、一番気になるのは三つ横に並んだベッド。
「......涼稀、寝る時はお前が真ん中な」
「え~、それは周平の位置じゃないのかい? 」
「冗談はよしてくれよ。マジで危ないことになりそうだろ? シャワーとか、浴びてたら入って来そうだし......」
「まぁそうだよね。とりあえずおれが真ん中。周平は壁があるのと無いほうどっちにする?」
「壁のほうは襲われたときに逃げ道がなくなりそうだから壁が無いほう」
「了解。でも、普通襲うのは周平のほうなんだけどなぁ」
涼稀が笑う。
「あの人には通用しねえよ。つうか、今この場で瞬間移動とかしねぇよな? 」
言った本人である周平が、ビクビクしながら言う。
「それは無いよ。ひと姉は生徒会執行部だから学校ではMMOの所持と魔法の発動が許可されているけど、ここはその外。基本的に魔術師は有事以外に魔法を使うことを禁止されているからね」
「それくらい俺でも知ってる」
周平は涼稀をにらみつける。
魔術師の魔法使用が基本的に許可されていないのは、魔法の使えない一般が魔法の被害に遭わないようにすることとともに、魔術師が無駄に目立つことを避け、魔法を使えないものたちの嫉妬などから来る襲撃の対象にできる限りならないようにするためである。
世界における魔術師の数は、魔法の使えない者の比べて圧倒的に少ない。ある学校に生徒が1000人いるとして、その中で国内において通用する力を持てる者の数は10人もいない。
しかし、現在国を動かしているのはその100分の1にも満たない魔術師たち。力の無い一般人の中でも、心ある人たちは現在の危うい世界情勢の中であればいた仕方ないと考えるものもいるが、世の中はそう言った人ばかりではない。彼らに悪意を持つのは当然。とまではいかないだろうがそれに近い思想を持ち、実行するものたちが全くいないわけでは無いのだ。
そして、いかに魔法が使えたからと言って、1対多数で攻められてしまえば、無傷で生き残ることは難しい。というのが現実なのだ。とくに、周平たちのような魔術師の卵たちには。
説明の間に、周平は涼稀をにらめつけることをやめ、今度は「はぁ~」ため息を吐くとまたつぶやく。
「にしても、この部屋広ぇよなぁ」
教室ほどもある部屋を眺めながらしみじみと言う。
部屋の広さは全部で約20畳分ほど。
3分の1ほどが周平たちのいるところからは四角となって見えないが、洗面所と浴室になっている。そして、3分の1はベッド。残りの3分の1はフローリングが一部見えており、きれいなじゅうたんが敷かれている。その上には1組の木のイスと机を挟んで、ベッドと反対側の壁側には台があり、その上に薄型テレビ、パソコンが置かれている。そして、
「振り子時計とか珍しいよなぁ」
周平の目線の先には、現在ではデジタル時計にその役割を奪われ、あまり姿を見かけることが少なくなった振り子時計が壁にかけてある。
秒針はカチッカチッと音を立てながらその位置を刻一刻と変る。長針は2、短針は1を指していた。
(そろそろ腹が減ってきたな。ま、次の呼び出しは1:30って言ってたし、昼飯なんだろうな)
「そうだね、さすが天白家の旅館。といったところかな」
周平の思考を無視して、涼稀が言葉を返す。周平は、「おまえ腹へってねぇのか!」と言いかけそうになったが、今思いついた疑問を涼稀に問いかける。
「ああ、そういえば、学校から課題とか出てねぇのか? 」
「お見事だよ周平。今回の旅行。さっき周平が『下調べはお前の仕事だろ!』的なこというから、さっき部屋が決まったあとに少しだけ調べてみたんだ。そしたら、ちゃんとノルマが出てたよ」
「一応バトルマッチの景品できてるわけだから、頑張ったご褒美。ってのが本来のような気がするけど、一週間もあけて、仮にも学校の行事として来てるわけだから、単なる観光旅行になるわけねぇよなぁ」
「そうだね、ちなみに、これをちゃんとしてなかったら帰ってから、『一ヶ月補修の刑』になるらしいよ」
「............」
いくら周平が学年トップの頭脳を持っていても、さすがに一ヶ月の補修はこたえる。
「まあいい、で、課題の内容は何なんだ? 」
がっくりきた周平だったが、持ち直して本題に入る。
「人によって違うみたいだけど、俺たちの場合は『要塞都市奈良の機能と国家における役割』だね」
「......マジデスカ?」
さすがの周平も、初耳の最悪情報に心が折れてしまった。しかし、それは一緒に課題をしろと書かれていた涼稀も同じだ。
「普通高校1年生に『奈良要塞』のレポートなんてさせないよね」
涼稀は、乾いた声でハハハと笑った。




