旅館
先ほどの通りを右折した周平たちは、最初の目的地である旅館へと到着した。彼らに前にあるのは高層ビルの立ち並ぶ町の中にあった。大きさこそ程ほどあるもののつくりは木造で、ボロそうな旅館。
「宿泊費が安そう」と言う雰囲気を露骨にあらわし、周囲の近代的(というか最新鋭)な建築物とは一線を画するその見た目から、この旅の企画者を除く一同の思考は、『費用の約半分の金額を負担している生徒会費の無駄遣いを避ける為、安い旅館を選んだ』というものにまとまった。
しかし、
「外見と全然違うな、旅館ってスケールじゃないよ。ここ」
「ホントだね......どこかの高級ホテルに匹敵するレベルだよ......」
「これ、あらかさまな生徒会費の無駄使いじゃねぇのか? 」
「............」
中に一歩足を踏み込んでみると、そこにはどこぞやの高級ホテルに勝るとも劣らない豪華なロビー。
つくりは外見と同じく木造で、15畳はあろうか思われるロビーには、色彩豊かに描かれたじゅうたんが敷かれており、5組ほど揃えられたソファと机をはさんだ反対側の壁は半分ほどがガラス張りになっており、その奥には美しい庭園が見えている。
「おいおい、ここは大都会だぞ。庭園つくる土地どっから買い占めたんだよ! 」
「周平の言うとおりだ。天白これはさすがに贅沢すぎんか? 校長はともかく教頭は黙って無いだろ」
あまりの豪華さに、駿太郎が|《氷華 》 企画者に問いかける。
彼もその他大勢と同じく、一人ですべてを企画していた氷華から今回の旅行について一切何も聞いていなかったため、 旅館の室の良さに驚きを隠せないでいた。
「そのことに突いては大丈夫ですよ。ちゃんと先生方からの許可は得ていますし。
それに、天白家の名前は伊達じゃないですからね」
自分たちの疑問を解決するための説明が始まったんで、一同の視線は氷華に集まる。
「実は、この旅館は天白家の運営している旅館なんです。ですから、今回は、通常の10分の1くらいの値段でとめさせていただいています。そのお金も、すべて維持費として使わせていただいています。公費を私たちの家につぎ込むことはできませんからね」
五師家は、国内で魔法を司ってはいるが、法律に「五家会議」といわれる会議を季節ごとに開けというがありながら、その単位は、あくまで「家」であり国から補助があるというわけではない。
しかし、「魔法」という技術の開発には、多額の資金が必要になる。
そこで、彼らは家ごとに業界がかぶらないようにその業界の大手の会社を持ち、それを多大な開発費の財源としている。
例えば、天白家は多数の宿泊施設をもち、その数は国内の3分の1を占めると言われているし、駿太郎の緑谷家は国内の電気メーカーの最大手の会社を持っており、その系列だけで電気製品においては、この国のの生産力の約半分に値すると言われている。
しかし、どの会社も「天白家の旅館」や、「緑谷家の会社」などと言った肩書きは使用せずに、あくまで「一般企業」ということになっている。
唯一頭が悪い翔以外の者は、「ふ~ん」と言ってとりあえず納得した様子だ。
「(ねえ、涼稀。どういうこと?)」
「(僕たちがこの宿に泊まったとしても、天白家に儲けはない。ってことだよ)」
翔のささやくような問に、涼稀が答える。
五師家である天白家の、それも直系である氷華が仮にも学校の行事の一環である今回の旅行で公費である学校の費用を自分たちの運営する旅館の費用に充てたとなれば、何かしらの批判材料となることはほぼ確実である。
「とは言え、この近辺に気に入った宿が見つからなかったっというのもひとつの原因なんですけどね」
言い終わった氷華は、珍しくテヘっとした表情を見せ、一同は首をかしげながらもとりあえず納得したようすとなった。そして、こんなときに口火を切るのは大体彼女の仕事である。
「さてさて、どんな理由でも、こんな良い旅館に破格の値段で泊まれるだからいいじゃない。ねぇ氷華。部屋割りはどうなってるの? 」
微妙な空気を明るくさせるためにか、わざと明るい口調で言ったのは真利奈だ。
「えっと、そのことなんだけど。こればっかりは私一人で決めるのは悪いかなってまだ決めてないの。
悪いんだけど、今から話し合ってもらえるかしら? 」
氷華はそういって、かばんの中からÅ4サイズのタブレットをとりだし、「一番奥のソファで決めませんか?」といって、そこを指差す。他の者は、特に異議なしと言うようにうなずき、「は~い」とか「さっさと決めよ~ぜ」などと言いながら歩いていく。
ふと隣を見れば美しい庭園が見えるソファに氷華が座り、先ほど起動が完了したタブレットを机の上に起き、操作をしながら説明を始める。
「部屋のつくりは普通の旅館とだいたい同じです。お風呂はシャワーが個室にもありますが3階に大浴場も用意されています」
目的のページを開けた氷華は、それをみんなに見せながら説明を続ける。
「さてとっ、部屋は、ツインが4つとトリプルが1つです」
その後、少しだけ館内の説明をした後、いよいよ部屋決めとなる。
それは、男子にとっては熾烈を極めた
「ねぇ~、采聖~、私たちは一緒でいいよね~」
「おい、こんな時だけ色目使うな! それに、いくらなんでも一緒に寝るのは......」
「真利奈、俺はお前と一緒はごめんっだからな」
「え~。なんでよ~。別にいいじゃなぁ〜い。こんなことめったに無いわよ~」
男子は肉食すぎる女子に対しでうめき声を上げることしかできない。
まあ、こういったときにはもちろん、彼女も参加するのであって......。
「しゅうへいく~ん。同じ部屋でいいでしょぉ~」
秘都美は、もはやここが自分の定位置と言わんばかりに周平の右腕をつかみ、上目遣いで周平を見上げる。
(いやいや、今回ばかりはやべぇだろ! なんとしても男子だけの部屋分けにしねぇと......)
周平は、一番頼りになりそうな幼馴染に視線を送る。涼稀もそれに気付いたらしく、周平のほうを見る。が、その目は変にニヤついていた。
周平の背筋に悪寒が走る。
「あ~あ~。誰と組もうかな~」
涼稀の明らかな棒読み口調が始まる。
「そうだ、天悠、翔、一緒の部屋にしないか? 」
「お、それいいな。天悠もそれでいいだろ? 」
「ああ、問題ない」
涼稀の後に続く棒読み。
周平は心の中で叫ぶ。
(いや、俺にとってはマジで大問題だから! )
しかし、三人が三人。みな目が変に笑っている。
「な、なぁ、涼稀。一緒の部屋にしないか? 」
「え? 周平にはひと姉がいるだろう?」
涼稀が満面の笑みで答える。
「涼稀、跡で覚えとけよ......」
周平が、涼稀をにらみつける。自体が冗談ではすまなくなりそうなので、翔が割って入った。
「まあまあ、周平。おちついて、冗談なんだから」
冗談と聞いて少しだけ、周平の顔に光が戻る。
「そうそう、俺はちゃんと周平たちと一緒に泊まるから」
「え?たちって?......」
「天白先輩、俺と周平とひと姉でトリプルもらってもいいですが? 」
氷華はタブレットを見て、そこがあいているのを確認してから、笑顔で「いいわよ」と答えた。
再び周平の顔から光が消える。
彼の右腕では、青い髪の美少女が、満足げに微笑む。
(はぁ、結局俺はこうなんのかよ......)
男子のうめき声が漏れる中、部屋割りは半強制的に決められていった。
とは言っても、女子たちもさすがに女子だけで泊まることを選んだらしく、周平たち以外に異性同士の部屋はできなかった。
ちなみに部屋割りは以下の通りとなった。
部屋割り
4階 南 トリプル【周平・涼稀・秘都美】
4階 北 ツイン 【翔・天悠】 【氷華・紫乃】
3階 北 ツイン 【緑谷・采聖】 【鈴・真利奈】




