雑談と道のり
奈良市街中。周平と涼稀はふたりで並んで先頭を歩き、その後ろには、翔と天悠が突いて行く。1年生で唯一の女の子である紫乃は、彼らについてきた上級生と話しながら4人の後ろを歩いている。現段階では、全員制服だ。
「なあ涼稀、今適当に歩いているけど、どこ行ってんだ? 」
「ん〜......どこなんだろうね?。今回は。そういうのあんまり見てないんだ」
とぼけたような顔をする涼稀。
「何でだよ......」
「いや、だって行き当たりばったりのほうが楽しいだろ? 」
そういったとたん、涼稀の顔はぱっと明るくなり、周平の顔が険しくなる。
「こんな時だからこそだろ。住んでる京都からそんなに遠くないとはいえ、一応県外だぞここ。見ず知らずのとこに行くのに、ちゃんと調べてなくてどぉすんだよ!
こういうときはお前の役目だろ!」
自分が調べていないことは棚に上げて聞いておいて、周平は涼稀を怒る。
最近は誰かさんのせいであまり振るわなかったが、周平はもともと学年トップの秀才である。よって、勉強と同じく、こういうときには意外と下調べをしっかりしてから楽しむタイプなのだ。行き当たりばったり遊びにいくことは今までにも数えるほどしかない。
ただし、それは「一人で遊びに行くとき」というとき限定で、今回のように涼稀がいるときは、ほとんど涼稀に押し付けっぱなしだ。
「まったく、まともなこと言ったかと思ったら、結局いつもみたいにおれに責任押し付けるのかい? 」
「ああ、当然だ。お前がいるときは、道案内はお前の仕事だからな。
それに、最近俺は、お前の従兄弟のお姉さんのせいで調子が狂って困ってんだよ」
涼稀はまたハハハと笑い、それをかる~く受け流す。もう何年も彼と付き合っているのだ、周平が怒っていないこともお見通しだ。
「さてと、このくらいで冗談はやめにしといて」
と言って、涼稀はポケットの中から端末を取り出す。
「今回の旅行は仮にも学校の行事の一環だからね。修学旅行ほど窮屈な日程じゃないかもしれないけど、ある程度やることは決まっていると思うんだ」
涼稀は、切ってあった端末の電源を入れ、メモ機能を起動。「奈良旅行」と書かれたところをタップする。
「昨日のうちに、もらったパンフレットに書いてあったサイトからダウンロードしといたんだ」
「ふ~ん。なんだかんだいてちゃんとやって来てんじゃねぇか」
「中身は全然見てないんだけどね」
「......そうか」
周平は、はぁ〜。とため息をつき、あきらめた様子で何気なく後ろを振り向く。
すると、紫乃と話していた秘都美が気づいて周平のほうをむいて手を振った。これは返さないとやばいよな、と思った周平は振り向いたことに後悔しながら小さく秘都美に手を振った。
「周平。資料によると、どうやら僕たちが最初に行かないと行けないのはこれから一週間泊まるためのホテルだね」
「ふ~ん。で、どこにあるんだ? 」
「適当に歩いてきたのに運がいいね。このまままっすぐ行ったところを、右に曲がったらすぐだよ」
「そうか、市内を見て歩いて見学でもして、適当に時間をつぶせばいいかと思ってたけど創も行かないんだな。まあ、近くに目標地点があるんだったらそれはそれでいいけど」
「ま、奈良の古都を見て回ってみたいって気はあったけど、こんな状況じゃなぁ~。
見て回ってもあんまり面白くないかもしれないね」
涼稀が残念そうに方をすくめる。
「ま、それはおいといて、みんなに知らせんのがさきじゃねぇか? ま、瀬戸先輩にメールでもして、思念波でみんなに伝えんのが一番だろうな」
「そうだね、おれもこれ以上注目を浴びるのはいやだし」
ただでさえ、平日に高校生が10人以上で出歩いているのだ。10時という、通勤通学とはずれた時間帯ではあるが、しかし。この集団は美男美女のオンパレード。すでに周りよりだいぶ浮いている。ここでみんなに指示を出すために、いきなり大声を出してしまえば、いやでも周囲の目が集まってしまうのは目に見えている。
「んじゃ、瀬戸先輩にその旨のメール送っといてくれよ」
「え、周平が送るんじゃないのかい? 」
理由にだいたいの予想がついている涼稀は無駄に驚いてみせる。
すると、周平はめんどくさそうに、小声で答える。
「俺が瀬戸先輩にメールなんかしたら、青影先輩がまた面倒なことになるだろ」
「ん、まあそうだろうね。ひと姉の周平への愛情は、半端なモンじゃないからね」
「まったくだ。そろそろあのお芝居はやめてくれてもいいと思うんだけどな。まったく、いい迷惑だぜ」
(いや、あそこまでいくと、もう芝居じゃあないと思うんだけどな。周平ってほんと鈍感だなぁ)
「涼稀、なに呆れたような顔してるんだ? さっさとメール済ましちまえよ」
「分ってるよ。って言うか、今打ち終えた。そーしんしま~す」
(いや、おれは周平に呆れてるんだけどね~)
と心の中でつぶやいた涼稀は、メールを送信した後の画面を周平に見せる。
後ろでは、鈴がメールをもらったことに気がつき、内容を確認した。
(ふ~ん、それじゃあみんなに伝えよっか。市街地で魔法を使うのはあんまりいい事じゃ無いんだけどな)
『......みなさん』
一年生がピクッとなった様子を後ろから見えた。
鈴は、彼らの反応が周平に初めてテレパシーを使った時と同じものであることに気が付き少し懐かしみを覚えたが、すぐに彼らのその対応にかかった。
『一年生の皆さん、今聞こえているのは瀬戸鈴の思念波によって頭のなかに話かけている声です。驚いたかもしれませんが大丈夫です。
さて、本題ですが、一番前にいるふたりからの連絡で、今回の旅行の宿はこの通りをまっすぐに行って、その後右に曲がってすぐだそうです。報告は以上です』
(ふ~。ま、こんなもんかな。私たちが泊まるとこ、どんなとこなのかな〜? )
鈴も生徒会執行部のメンバーの一員ではあるが、計画者である氷華からは一切の情報を聞かされていなかったために、(采聖とのデートも兼ねると決めている)今回の旅行がどのようになるのかとても楽しみだった。




