バトルマッチ最終戦【下】
炎と氷の矢が飛来する。
氷華は眉ひとつ動かさずにそれを見つめる。
「なかなかいいんだけどね」
そういった直後。2本の矢は、氷華のこめかみと、心臓の20cmほど手前で黄金の障壁によってとめられた。
「天白、そろそろ防御の動作くらいしてほしんだが」
「いいじゃない。何があっても駿君が止めてくれるでしょ」
「いや、もしものことも考えてくれよ。天白家のお嬢様に傷なんかつけたら......」
「なに言ってんのよ。駿君だって五師家じゃない」
「それはそうだが」
「あれ? もしかして駿君。私のこと好き? 」
「............」
先ほどの沈黙はさておき、ふたりの間では、何の緊張感もない会話が先ほどから続いている。
氷華の氷による攻撃の合間に、隙を突いて紫乃による射撃がなされているが、すべて駿太郎の作り出した障壁によって無力化されている。
「とは言え、さっきのはちょっと危なかったかもね」
「だろ。さっきから、だんだん威力が上がってきている。それと涼稀が移動し続けているのも少し気になるが」
「何か書いてるみたいで適当に壊しているけど、様子を見るのもいいんじゃない?
このままじゃ、さすがにおもしろくないでしょ? 。
それに涼稀くんはいろいろと物知りだけど、実技魔法の方は得意じゃないわ。油断してたら百地くんみたいになっちゃうけど、ちゃんと見てるから大丈夫よ」
そうか。と駿太郎はうなずく。腕を組んだ氷華は不適な笑みを顔に浮かべたまま、真利奈と周平・翔コンビの戦いを見ている。
「あのふたりも真利奈相手に良くここまでやるな。もう少し早くギブアップすると思っていたんだがな」
「そうねぇ。周平君はともかく、翔君もなかなかやるわね。だんだん真利奈の槍にもついていけるようになってるみたいだし」
と、なんだかんだと話をしている間にも、氷華によって涼稀たちに氷の弾が打ち込まれたり、紫乃からの攻撃があったりするのだが、ふたりのまったく緊張感のない雰囲気は変わらない。
「そろそろ本気出して終わらせようかな。真利奈もこれだけ戦えたら満足でしょ」
「そうだな。だが、まずはあの攻撃を防いでからだな」
そういう駿太郎の視線の先には、目が淡く光る紫乃と、その周りに展開された五張りの弓があった。
「これで最後だ。紫乃、よろしく」
「分った」
紫乃がうなずくと、立ち上がり、天悠が防御魔法を構築する。
天悠の魔法が完全に発動したのを確認した紫乃は静かに弓を構え、目を瞑ったまま詠唱を始める。
「父祖の御霊よ、今ここに我を扶翼せよ......」
紫乃の構える弓の両脇に、二張りずつ弓が展開される。
「水は爆ぜ、火は流れる。我が我が思う間に彼を襲わん......」
五張りの弓に、それぞれ火と水の矢が現れる。天悠が防御魔法を解除する。
「九ノ弓―散水流火―!」
赤く燃える矢は氷華たちの方へ。そして水の矢は周平たちの方へ孤を描きながら飛んでいった。
「周平! 」
翔は、周平を呼ぶ。
魔法によって作られた水の矢が5本、自分たちに向かって飛んでくることを確認した翔と周平は、一度真利奈から距離をとった。
真利奈はふたりを追おうとしたが、明らかに自分に飛んでくる矢を見てそれをやめ、魔槍より炎の壁を作り出してそれに対応しようとする。
しかし、真利奈に向かって飛んでいった矢は、真利奈の手前で地面に刺さった。
「え?」
真利奈の呆気にとられた声。
そして水の矢は、その場で爆発を起こした。
黒煙は半径10mに広がり、真利奈はもちろん、火の矢から、氷の矢に姿を変えた紫乃の魔法に対処していた氷華たちの視界も塞ぐ。
しかしその黒煙も、真利奈の風の魔法によってすぐに消えた。
だが、三年生たちの意識が自分たちから離れた数秒の間に。周平、翔、紫乃は、涼稀の描いた魔方陣の中に駆け込んだ。
「これから何かあるみたいね」
「あらら、何が起こるのかしら」
氷華と駿太郎の元に戻った真利奈と氷華は、うれしそうにつぶやく。
「はぁ~」
そしてそれを見た駿太郎は、悲しそうにため息をついた。
三人が魔方陣に乗ったのをみた涼稀は、興奮した自分の心を落ち着かせる。隣には九つの魔法に特化した、ブレスレット型MMOの電源を入れた天悠が立っている。
真利奈の魔法によってすでに黒煙はなくなった。
両手に描かれた魔法陣を確認して3年生のほうを向く。彼我の差は約30m。
(ここからがおれたちの勝負。おれが何とかしなきゃ)
涼稀が右手を上げる。
それと連動して天悠が駆け出す。すでに両腕には大地の盾が展開され、両手には剣が握られている。この剣はやはり九つの魔法のひとつ、障壁を呼ぶ剣。
相手側からは、やはり真利奈が出てくる。
真利奈が魔槍を振るうと、その軌道の先に炎が現れ天悠に向かっていく。
天悠は、障壁を呼ぶ剣を振るう。すると、炎は瞬く間に小さくなり、消えた。
その現象に真利奈は顔をしかめる。が、更なる驚きが彼女を襲った。
涼稀は詠唱する。
「雷の舞となり、我導くところに雷鳴轟かん。......雷流乱舞!」
予選の一回戦で周平が使った大技を、涼稀が使っている。
(え、涼稀くんって魔法使えないんじゃなかったの? )
その事実に、混乱した真利奈は唖然としてただそれを見ているだけだった。雷の乱舞が彼女へ一直線に伸びていく。
真利奈、危ない。氷華がそう思った時には、自分にも雷が迫ってきていた。反射的に防具尾魔法を発動する。しかし、それよりも早く駿太郎の魔法が発動していた。
「......揺るぎない防壁」
氷華の目の前に、白銀の壁が姿をあらわす。その壁は、涼稀の魔法の貫通を許さない。
「真利奈は! 」
「俺は、緑谷俊太郎だ」
氷華が真利奈の方を見ると、彼女もまた、駿太郎の作り出した白銀の壁に守られていた。
「たっく。こういうことがあるから、油断したらだめだって言っていただろ。お嬢様? 」
「分りましたよ。......それにしても、もう本気を出したほうがいいみたいね」
「ああ、後は頼んだ」
水系統・冷却魔法による攻撃。それこそが氷華の真骨頂。これまでの抜けた雰囲気とは別の、五師家の風格ともいえるものをかもし出し、氷華は詠唱をはじめた。
「流々と流れる水よ、凍てつきて彼らを襲え......氷花月水! 」
氷華から、無数の氷柱が放たれる。その氷柱は空中で五つにまとまり、亜音速で一年生5人に吸い込まれて行く。天悠が防御魔法を構築するが、花のように美しくまとまった氷柱になす術もなく、五人は貫かれた。
ダメージが上限に達した五人は会場の外に強制転送される。
『校内バトルマッチ決勝戦はッ!
三年生の勝利。ダッーーーー!!』
ここに三年生の勝ちが決まった。
会場に沸き起こる歓声。
氷華、駿太郎、真利奈の3人はは、その真ん中でその歓声に答えた。




