バトルマッチ最終戦【上】
開始の合図が鳴ると同時に、無数の氷弾が展開された。それは当然、駿太郎に庇われるようにして立っている氷華によるものだった。
亜音速の氷弾が群れをなして周平たちに飛来する。
しかし、それが未だ密集体形の彼周平たちに降り注ぐ直前、天悠が開始の合図と同時に展開した神聖なる障壁に遮られた。
「やるね」
「だいたい予想済みだったので」
氷華の微笑みに対して、涼稀は自嘲気味に笑った。 天悠に初手から防御魔法を発動させたのは、一年生側から先制攻撃を繰り出せるだけの余裕がないという理由によるものだったからだ。
天悠の防御魔法によって最初の一撃を耐えた一年生チームだったが、すでに目の前には氷華と駿太郎から離れ、突出していた真利奈がいる。
半球体に広く展開した障壁には、彼女が手に持っている黒槍の攻撃を受け止められるだけの防御力はない。
そこまで見切った涼稀の作戦により、神聖なる障壁を解除すると同時に、周平と翔が秘都美の相手となるべく飛び出した。
さらに、紫乃は短弓型MMOを使い氷華が周平と翔に攻撃が及ばないように牽制。天悠は防御魔法を逐次展開することで彼らを守るという図式が出来上がった。
一方、リーダーの涼稀は............天悠の後ろで地面に何かを書いている。
「天悠」
涼稀は立ち上がりると天悠、紫乃とともに、別の場所に移動する。
反対側では氷華が不敵な笑みを浮かべ、駿太郎が紫乃の攻撃から彼女を守る。遠距離の攻防が続く中。会場の中央では、派手な接近戦いが繰り広げられていた。
「先輩! ちょっとは手加減してくださいよ! 」
「そんなこと言ってる間は大丈夫ね周平くん」
(クソ、真利奈先輩どんだけつえぇんだよ! こっちは翔もいんだぞ! )
と、心の声を響かせる周平は、翔とともに真利奈の魔槍、そしてその魔槍から放たれる5属性の魔法と戦っている。
真利奈の属性は驚くことなかれ五属性。使われる魔法も一般的な魔法士のレベルは超えているものこ、五師八弟クラスが使う常識はずれな威力を持つものではない。しかし、氷華や駿太郎のように突出した力がないかわりに、彼女は魔法の多彩さ、組み合わせ。そして、手に持ってる魔槍によって、五師家直系の神童たちと頭をならべてる実力者として、同年代の魔法士たちの間でも名を馳せている。
周平によって繰り出される雷剣と、真利奈の魔槍が交わり、その瞬間に魔槍から炎が噴出し周平を襲う。数歩離れたところにいる翔は、それを風の魔法によって相殺した。
「サンキュ翔」
「ああ」
周平のウインク付きの笑顔とともに送られてきた感謝の言葉に一応答え、翔は黙々と援護を続ける。真利奈は、その多彩な魔法に負けず劣らず槍術も強力。もちろん実践型が。
だから槍との連携で放たれる魔法には翔が対処している。さらに、時には翔の方にも真法を飛ばしている。よって翔はそれだけで限界であり、周平も槍の相手をするだけで手いっぱい......のはずなのだが。
(さっきのウインクは何だよ! まだ余裕なのか?)
翔にはまったく気を抜く余裕はないのだが、どうしても突っ込みたくなる。が、本当にそんな余裕はない。
今度はいつの間にか彼に詰め寄った魔利奈の魔槍がその胸を狙って繰り出される。
突き。からの時計回りに旋回するなぎ払い。翔は一撃目を左へのステップとジャンプでそれをかわす。つかの間の滞空。人は空中では上手く身動きが取れない。
飛んだままの翔に真利奈の魔槍の矛先が迫る。
翔にはその突きが、とてもゆっくりに見えた。
(......もう終わりか)
カッッン!
翔があきらめの表情を見せた刹那。魔槍は翔の胸元寸前の所で、電流を纏う剣によってはじかれた。
「おい翔。あきらめてんじゃねぇよ。まだ戦いは終わっちゃいねぇ」
周平はそういうと、バランスを崩し、着地のときにしりもちをついてしまった翔を横目に、周平の介入により獲物を逃がしてしまった真利奈と打ちあう。
(とか格好つけたものの、こっちも結構やばいんだけどな。とにかくあの魔法どうにかしねぇと)
心の中でそう呟く周平に、真利奈は雷撃と白炎の魔法を繰り出す。
「雷鳴の守護者よ、我を守らん......雷の守護者」
周平は雷剣をやめ、雷による防御魔法を発動する。が、周平はもともと防御は得意ではない。もちろん人並み以上にはできるが、それは一年生の間でのみ。三年生の、それもトップクラスの高威力魔法が対象であれば......。
「グハッ」
「周平!」
周平の防御魔法は真利奈の魔法に耐え切れずに崩壊。周平は5メートルほど吹っ飛び地面にたたきつけられた。
しかし周平はそれでもなお起き上がる。
「お~。さすが周平くん。まだまだやれるみたいだね」
「......このぐらいじゃ俺は落ちませんよ」
真利奈の言葉に周平は苦し紛れに答え、腰につけてあった大会専用MMOを見る。
これまで(ほぼ無傷だったため)使うことはなかったが、これにはあと自分がどれくらいダメージ(魔法によるダメージ)を受けると負けになり強制移転されるかがHPとして、%表示されている。
今の周平の残りHPは%換算だと54。
(こういうゲームみたいな設定は好きじゃねんだけどな。まあ、あと一回はあれ食らっても大丈夫かなっていう目安くらいにはなるけど)
「おい翔。いつまでそこに突っ立ってんだ。そろそろ俺の援護しやがれ」
「あ、あぁ」
周平と真利奈の打ち合いに見入ってしまった翔をこっちの世界に引き戻し。優秀な援護役と周平は戦いを再開した。
「涼稀、あといくつだ」
「ダミーもあるけど、作りしだい壊されてるからね。よしできた。あと4つだ」
涼稀、天悠、紫乃は三人人組で移動しながら戦っていた。
目的は、昨日の喫茶店での天悠の作戦を実行するため。涼稀が地面に刻んでいるのは、空間転送魔法の魔方陣。
(果たしてこれがどれだけ役に立つかな ? )
「涼稀、伏せろ! 」
突然の天悠の声に、涼稀はうつ伏せになってそっちを見た。
それは、丸太程もある氷の柱だった。それが、涼稀たちに向かって飛んでくる
そして、三人の5メートル程手前で、
散った。
氷の柱は無数の破片となって涼稀たちに降り注ぐ。
天悠が発動させる魔法を、それまで丸太のような氷柱を貫通させないために一点集中にしてあった防御魔法から、散乱した氷片の防御のための全方位防御魔法へとシフトする。
焦る天悠は、自分に落ち着けと言い聞かせる。
コンマ1秒の違い。それで魔法は無効になった。
涼稀、天悠、紫乃の三人のを囲むようにできたドーム型の防御魔法には、氷の欠片が無数に食い込んでいた。
「紫乃」
「わかってる。
焔と水よ。互いを高め合い、我にさらなる力を与えよ......」
紫乃の短弓型MMOに二本の矢が現れた。
天悠が魔法を解く。
「............氷牙白炎」
パラパラと氷が落ちる無力化された氷片をよそに、紫乃の短弓型MMOから冷たい光を放つ氷の矢と、灼熱の炎の灯った矢が現れたかと思うと、次の瞬間。氷華めがけて一直線に飛んで行く。
だが、その魔法が氷華に当たったかどうかを確認する前に、三人は別の場所へ走った。




