不安
登校中の電車の中で、天悠は考えていた。
今日の対戦で、本家相手に自分はどこまで戦えるのか。
彼の頭の中では、この言葉がグルグル回り続けている。
空峰家は、五師八弟家の五師家。緑谷家の分家。
天悠自身は、駿太郎とふたいとこの関係である。
(俺は出来ることは全てやってきた。昨日、青影先輩と一対一で戦い切ることが出来たのもその成果だ)
やれることは何でもやってきた。これまでの試合で少なからず自身もついた。
だからこそ、今日、無残に負けることは天悠にとって何より恐ろしかった。
もし、これまでの努力をその力でねじ伏せるられたら?
もし、結局分家は本家に勝てないと再び思い知らされたら?
今までの自分の努力を、分家という不足のせいで無駄だったと思われるのが嫌だった。
もちろん、自分の今の実力を試してみたい。という気持ちがないわけではない。しかし、負けたときに襲ってくるであろう絶望感と周囲の評価が、天悠にそれ以上の恐怖をもたらしていた。
「おい天悠! なにボーッとしてるのさ。駅についたよ」
電車が止まっても動き出そうとしない天悠に隣から翔が声をかけた。
我に返った天悠は、おお。と返事をして通勤ラッシュで少し混み合った駅へと降りて行った。
いつもと違い無気力に突っ立っただけだった天悠に声をかけ、翔は電車を降りた。
(今日はいつもと違うな)
天悠は元々口数が多い方では無い。いや、むしろ無口と言ってもいいぐらいだ。必要なこと以外はほとんどのしゃべらない。
しかし、彼がその沈黙の中で様々な考えを巡らせていることは、親友である翔は十分すぎるくらい知っていた。
だが、今日の天悠は翔の知っている天悠ではなかった。
しゃべらない。じゃなくて、しゃべれない。かな?
これが、彼が直感で感じたこと。今日の天悠は何か考える様子もなく、ただ呆然とそこにいるだけ。
今日の試合のことなのかな?
翔はまた天悠の家が緑谷家の分家であることも知っていた。
翔がそれを知ったのは中3の春。
共に学年のリーダー的存在だった二人が、始めて同じクラスにいるようになった日。
馬鹿な自分は、その時のことよく覚えていない。でも、俺が天悠と一緒にいたいと思った日で、二人が親友になったきっかけの日。
おぼろげな記憶ではあったが、そのときに天悠から絶大なインパクトを受けたことだけは覚えていた。
今から一年ちょっと昔。昔と言えない過去のことを思い出すことのできない自分に、翔は少し腹を立てた。
だが、アホな優男の風切 翔はそんな気持ちを入れ替えた。
彼は元々今日の三年生との対決を
「最高の腕だめし」
程度にしか考えていなかった。
そして、今更天悠が今日の対戦のことで悩んでいても、翔は、自分が天悠を納得させられる言葉をかけることが出来ないことを知っていた。
(俺にできるのは、天悠を信じること)
これまでのように信じていれば、天悠は必ず自分で進んで行く。
甘い、楽観主義。しかし、いつも細かくいろいろなことを考えている天悠にとっては、こんな人間だからこそそばにいて助かっているのだ。
考え事で頭を重たくした二人は、いつの間にか南門をくぐり、靴箱まできていた。
「お、翔、天悠! 」
「二人ともおはよう」
そこには、もう一組の二人組。
周平と涼稀が立っていた。
「おはよう」
「おっはよ〜。周平に涼稀」
低い重たい声と、明るい張りのある声が、周平と涼稀のあいさつに答えた。
最後の試合が始まる。
一年生は、緊張を隠せずに会場に入る。
三年生は、悠々と歩を進める。
誰が見ても、両者の差は歴然。一年生もこれまで頑張ってきたが、今回だけはすぐにやられるだろう。というのが観客の本音だ。
そんな中、司会によるアナウンスが始まり、氷華と涼稀が頷くのが見えた。
北には、後ろから氷華、駿太郎。そして、黒を基調に白いもそうの入った槍を持つ真利奈。
南には前に周平と翔。後ろに涼稀、紫乃、そして天悠が構える。
『それでは、いよいよ校内バトルマッチ決勝戦の開始だー! レディ......ファイト!!』
いよいよ、最後の対決が幕を開けた。
なんだか翔が乙女キャラに見えてくる部分があるかもしれませんが、これは作者の文章力のなさ故です。
翔くんは決してホモじゃないですからね〜。
あと、なかなか話が終わらなくて申し訳ないです。




