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倉庫の光さん〜左遷先で恋が動き出しました〜  作者: 桃山あんづ


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倉庫の堀田さん

4月1日

新年度が始まった。


東京第二支社に、川野の姿はもう無い。

彼女が座っていた席は、今日から沼田主任の席だ。


そして、企画・営業部の事務所の向かい側にある、薄暗い倉庫のデスクには、かつて川野をここへ追いやった男が座っている。


堀田 宏 48歳 既婚(別居中)



この男は、横浜支社で課長をしていたが“名ばかり課長”として、有名だった。


本社勤務の時は、上司が近くにいることもあり、それなりに仕事をこなしていたが、横浜支社に来た途端、自分より上の者がいないのを良いことに、やりたい放題やっていた。



・仕事は基本、部下に丸投げ。


・上部からの評価が、上がりそうな案件のみ参加。


・自らの見逃しミスでトラブルになった事については、雲隠れをし、部下に謝罪に行かせる。


・気に入った女子社員への、際どいスキンシップ。


・気に入らない社員への、執拗な叱責。



ここに書き出したらキリがない程、堀田は紛れもないクズ野郎だ。

今まで、このような男がクビにならず、のうのうとしていられたのは、本社の人事部長に取り入っていたからだ。


横浜支社の社員達も、サラリーマンである以上、上司の堀田には強く言えない、半ば諦めの状態だった。


歯向かえば、何をされるか分からない。


増岡と川野は、堀田に正論をかます、数少ない社員だったが、結果は言わずもがな。


今だから言うが、東京第二支社の営業課長に増岡がなったのも、堀田が厄介払いしたせいだ。


増岡は実力があるので、立ち上げ時から何も問題無かったが、彼も横浜支社に思い入れがあったので、異動の際は辛かったようだ。




さて、横浜支社で散々、やりたい放題やって来た堀田は、今日から平社員として、どのような働きぶりを見せてくれるのだろうか?



トントンッ、ガチャッ―



「ヒェッ⋯。」


怯える堀田。


「失礼しまーす。あぁ、堀田さん、ご無沙汰してます。僕の事、覚えてますよね?横浜時代は大変お世話になりましたー。」


ニコニコと、白い歯を見せながら、増岡が入って来た。

佐渡も一緒にいる。


「いやぁ~、堀田さん。聞きましたよ?大変でしたね〜。でも、ここに来たという事は、初心に帰って、再起を図ると誓って頂けたんですよね?素晴らしいっ!僕は見捨てませんよ〜。」


憎たらしい元上司を相手に、白々しく善人のような言葉を並べる増岡。


「フンッ!調子に乗りやがって。」


両腕を組みながら足を投げ出し、不機嫌そうな態度を取る堀田。


それを見て増岡は、肩をすくめながら、首を傾けて呆れている。


「初めまして、係長の佐渡です。宜しくお願いいたします。新たに、横浜支社の課長になられました川野さんは、こちらにいらした際も大変、人望が厚く、なぜ?あんな素敵な人が、パワハラで左遷されたのかと、私も周りの者も、大変驚いていました。」


丁寧な言葉の中に、威圧感を醸し出す佐渡。



「川野か。アイツは俺のお陰で課長になれて、ラッキーだったなっ。じゃあ、今日から頼みますよっ。」



そう言って、堀田は鞄から煙草を取り出した。

イライラしていて、一服でもしたいのだろう。


佐渡の眉間に皺が寄った。



「堀田さん。まず仕事を覚えて頂くのが先ですので、煙草は休憩時間に、お願いします。それと川野さんは、こちらでもとても慕われていましたので、他の同僚の前で軽々しく川野さんを蔑む様な発言は、しない方がよろしいですよ?」



「君!私の方が年上だぞっ!なんだその態度は!」



「チッ!はぁ⋯。堀田さん、あなたは、まだ自分の置かれている状況が分からないのですね。年上だろうが何だろうが、私も増岡課長も、勤務態度には厳しいですよ?もし、少しでも問題点が出てきましたら、逐一、本社へ報告させて頂きますので。」



「やれるもんなら、やってみろ!」



「はぁ⋯。増岡課長、あとは頼みました。」



想像以上に、程度の低い堀田の発言に、失望する佐渡。


彼は、こんな上司と長年一緒に働いていた、増岡と川野を、心の底から気の毒に思った。



「はいよっ!じゃぁ堀田さん、まずは倉庫の整理整頓から覚えましょうねっ!」



増岡は、今までの恨みを込めて、堀田をいびってやろうとは思っていなかった。


自分から手を下さなくても、きっと堀田は半年も経たないうちに“川野を陥れた奴だ”という、周りの目に耐えきれなくなって、辞めていくだろうと予想していたからだ。


果たして堀田は、心を入れ替えて、この倉庫内からリスタートできるのか?

それとも、増岡の予想通り、辞めて行くのか?





その頃⋯。


青い空の元、白くそびえ立つマリンタワーを、瞼の上に手を当てながら、見上げる川野。



「さぁっ、戻って参りましたよ〜っ。」



そう、ポツリと呟き、川野は歩み出した。

いよいよ、横浜支社への凱旋だ。


カツッ、カツッ、カツッ―



桃山あんづです。

お読み下さった皆様、ありがとうございます!


倉庫の光さん〜左遷先で恋が動き出しました〜

次回、最終話の予定です。



1話あたり 約1200文字〜3500文字 程度

サクッと読める長さになっております。


また、作品紹介の方で、大まかにエピソードを分けて、あらすじを書いております。


こちらの最新話からお読みになられて、ご興味持たれた方がいらっしゃいましたら、他エピソードも読んで頂けると、嬉しいです。

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