過去の話が気になります
小林の思い切った、公開告白によって、不穏だった飲み会は、ハッピーエンドで終わりを迎えた。
彼女にお茶に誘われ、増岡は緊張しながらも川野達に挨拶をし、夜の街へと消えて行った。
その初々しい後ろ姿を、微笑みながら見送る一同。
「良かった⋯。本当に良かった。2人とも、ありがとうねっ!しかし、よく凪ちゃんを連れ戻してくれたね。佐渡君、どうやって説得したの?」
川野が佐渡に尋ねた。
「えぇ、まぁ⋯。僕もそれなりに、恋愛経験を積んでますからね。分かる範囲で、助言をしたまでです。」
髪を掻き上げながら、佐渡は答えた。
「へぇ~。恵介って、そんなに恋愛に詳しいんだねっ!友達の俺でも知らなかったわ。」
「チッ!俺だって、色々とあるんだよ。」
佐渡は山本のいる手前、その恋愛経験のほとんどを、川野への想いで積んだとは言えなかった。
「そっかそっか。それにしても凪ちゃん、カッコ良かったな〜。堂々と告白出来て、ホント凄いよ。」
川野は、自ら積極的に告白した事が無い。
山本と出会うまで、心から恋焦がれる相手がいなかったという事もあるが。
「では、僕はここで。今日は何だかんだ、楽しかったです。⋯また飲みましょうねっ。」
駅の改札で、別れを告げる佐渡。
彼は、川野達とは反対方面の電車に乗る。
「今日はホントに、ありがとうねっ!気をつけて帰ってね。」
川野はそう言って山本と一緒に、佐渡に手を振った。
「さて、俺達も帰りますかっ。」
佐渡の姿が見えなくなると、すかさず山本が川野の手を握った。
嫉妬深い山本だが、今日の宴では比較的、冷静だった。
いつもなら、他の男が川野に近付くだけで、目くじらを立てるのだが。
手を握られて、嬉しくて照れ笑いする川野。
そのまま2人は電車に乗り、最寄り駅まで戻って来た。
川野を家まで送ると言う、山本。
駅から2人並んで肩を寄せ合い、歩き出した。
「哲也君、今日は、ありがとうねっ。」
「いえいえ。小林は俺の部下だし。増岡課長と、良い方向へ行きそうで良かったねっ。それに、恵介とも久々に楽しく飲めたよ。⋯⋯光の過去の恋愛事情も、少し知る事が出来たし。」
そう言って、山本は川野の顔を覗き込んだ。
「俺、光の恋愛が、今まで続いたことないって聞いて、思わず嬉しくなっちゃった。いくらモテても、誰かと深い関係になった訳では無さそうだし。」
山本は意地悪そうに微笑み、パッと顔を離した。
「えぇっ?そこ!?⋯どおりで。増岡が、変な事言い出したから焦ったけど、そういう理由で穏やかだったのね⋯。」
何だかとても、失礼な事を言われているような気がして、顔が険しくなる川野。
「ふふふっ。増岡課長のあれは、何だったのかな?気にはなったけど。⋯⋯でも、不思議と嫉妬心は沸かなかったな。増岡課長の、人としての魅力が分かってきたからかな。それとも、光が俺にゾッコンだからかな?以前より、安心出来るんだよっ。」
山本は前を向きながら、ニコニコと笑っている。
その横顔を見上げて、川野も幸せな気持ちで一杯になった。
「⋯じゃぁ、私も、哲也君の過去の恋愛について、聞いちゃおうかなっ。」
実はずっと気になっていたが、怖くて聞けなかった恋愛経験の話。
彼の事を、心から信頼出来ている今だから、敢えて聞いてみようと、川野は勇気を振り絞った。
山本は少し驚いて、立ち止まった。
「俺の過去に、興味あるの?」
「そりゃ⋯あるに決まってるよ。」
「ふ〜ん。じゃぁ、話しても良いけど?」
「あっ、あまり衝撃的な事は言わないでねっ!」
「ふふふっ。衝撃も何も無いよっ。」
山本はニコリと微笑み、話を始めた。
「俺は、学生時代は何人かと付き合った事があるよ。まぁ、長続きしなかったけど。⋯社会人になってからは、彼女作ってない。俺、こんなにチャラく見えて、基本的に人間嫌いだから。嫌いになっちゃったんだよ、この会社入ってから。まぁ、第二支社の人達は、比較的良い人が多いけどね。」
山本の話を、神妙な面持ちで聞く川野。
「俺、クラブ通いしてたでしょ?⋯クラブにいる時は、素の自分でいられたんだ。普通に笑っても、誰も気にしないし、友達作っても、深く関わらなくて済むし⋯。言い寄ってくる異性がいたら適当に会話して、嫌になったら、店を変えたりして。だから、自由に遊んでたけど、恋愛には興味無かったな。」
「そうだったんだね⋯。本社は色んな人いるし、大変だったんだね⋯。」
川野は、山本から“人間嫌い”という言葉が出て来て、ショックを受けた。
これほど心の優しい男が、人間嫌いになるなんて、どんなに辛い思いをして来たのだろうと想像してしまい、胸を痛めた。
「ふふっ。あんまり、そんな顔しないでっ。光が来てからね、俺、会社楽しいよ?お陰で少しずつ、周りの人にも関わろうと思えて来たし⋯⋯いつも、ありがとう。」
山本は少し照れくさそうな顔をして、再び歩き出した。
「こちらこそっ。⋯⋯哲也君、もう一つ聞いて良い?⋯あの時、一緒に笑ってた人はどういう関係?」
川野は勢いに任せ、あの別れた日に、山本が微笑み合っていた相手の事を尋ねた。
「あぁ、あの子?ふふふっ。あの子はクラブで知り合った子。でもね、顔だけ知ってて名前も知らないんだ。」
なぜか笑う山本。
「どおりで⋯若くてピチピチの可愛いギャルだったから。⋯冬のクソ寒い中、おヘソ出てたもんねっ。てか、名前も知らない子なのに、距離もめっちゃ近くなかった?」
当時の様子を思い出し、だんだん不機嫌になって来た川野。
「ふふふっ。何話してたと思う?⋯偶然会ったんだけどさ、最近クラブに顔出さないねって言われて。彼女出来たんだって、話してたんだよ。」
「そうだったの!?⋯えぇっ?そんなっ⋯それは本当に、誤解して申し訳ございませんでした!」
衝撃の事実に、川野は、自分がどれだけ山本に酷いことをしたのかと、狼狽えた。
必死に山本に頭を下げている。
「本当、そうだよっ。光が俺の話をちゃんと聞かずに、怒って泣き出したから⋯。俺も何で怒られてるか分からなくて、ついキレちゃった。」
「それは⋯キレて当然ですね。」
「でもね、それはきっと、光のヤキモチだったんだね。実は俺より、ヤキモチ焼きだったりして。俺の事、好き過ぎだよな、全くっ!」
そう言って山本は、川野を思いっ切り抱きしめ、頭をグチャグチャに撫で回した。
「本当に、本当に、すみませんでした〜!うわっ!もうっ、やめてっ。髪の毛痛むから〜っ!」
謝りながら、山本の背中に両腕をガッシリ回す川野。
色々あったが、お互いの気持ちが更に深まったようで、何よりだ。
2人は再び肩を寄せ合い、帰り道を歩み出した。




