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倉庫の光さん〜左遷先で恋が動き出しました〜  作者: 桃山あんづ


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初めての感情

「川野ってさ、恋人出来ても、長く続かない事ばかりだったからなっ!こんな姿見るのが、本当に初めてなんだよ。俺も、ひと肌脱いだ甲斐があったわ。」


そう言って、増岡は微笑みながらビールを口にした。



「一言、余計だよっ!そんなに言うほど、彼氏いなかったし。」


険しい顔をしだした、川野。


「そうか?でも少なくとも、お前が知らないだけで、横浜の時から、意外とモテてたぞ?俺はずっと、その様子を見てたからな。でも、川野は恋愛に対して、ドライだったよな?勝手に諦めて行った奴も何人かいたな。えっと、まだ会社を辞めてない奴でいうと⋯。」


「やめてよっ、それ以上、思い出さなくて良いから!」



あれこれと、川野の過去の恋愛話を、ほじ繰り返そうとする増岡。

だが、その話を聞いても、ここにいるメンツの誰一人、得をしないであろう。


皆、何とも言えない表情をしている。



「増岡課長、川野さんの話はこれくらいにして下さい。話題を変えましょう。」



増岡の暴走を見かねた佐渡が、止めに入った。

それでも増岡は、佐渡の忠告を、受け流そうとしている。


顔はニヤついているが、とても平静ではいられないようだ。



山本は、テーブルの下で、川野の手に自分の指を絡ませた。


こんな話は、山本に聞いて欲しくない川野は、不安そうに彼の横顔を見た。


「ン、ンッ!」


山本が、勢いよく咳払いをした。



「増岡課長のお陰で、光と寄りを戻すことが出来ました。ありがとございますっ。今、とても幸せです。今日は、俺がご馳走しますので、もっと飲んで下さいっ。」



山本には、増岡の嫉妬心が、友情から来ているのか、恋愛感情から来ているのか、分からなかった。


ただこれ以上、嫉妬心を目覚めさせ、川野に熱を上げられては困るので、彼に釘を刺した。



「そう?⋯じゃあ次、何飲もうかなっ。」



場の空気を乱したことを悪びれもせず、増岡はタブレットを手に取った。



「⋯やっぱり、そうですよね⋯。」




ずっと一連の流れを、静観していた小林が、重くなった口を開いた。


隣に、自分を想ってくれている子がいる事を、すっかり忘れていた増岡。

彼のデリカシーの無さが、浮き彫りになった。



「皆さんを呼んでおいて、なんですが、山本係長がご馳走して下さると言うので、お言葉に甘えて。私、今日はここで失礼します⋯。」



そう言って小林は、皆に一礼をして、川野達が止める間も与えず、足早に去ってしまった。


後を追いかけようとする川野。



「川野さんっ。今は、あなたが追いかけては駄目です。僕が追いかけますので。それと、増岡課長、説教は後ほど。ではっ。」


そう言って、佐渡は小林の後を追って行った。



「ごめん⋯。頭イカれてたわ。」



我に返り、増岡はその場で、頭を抱えた。







「小林さんっ!待って!」


小林は、佐渡から逃げるように歩く速度を早めたが、店を出てから間もなく、腕を掴まれた。



「すみませんっ。本当にすみません。皆さん、お忙しい中、来て頂いたのに⋯どうしても、あの場にいられなくて。」


そう言って小林は、泣きそうな顔を佐渡に向けた。



「分かってたんです。増岡課長は、川野主任を特別視してるって。でも、いざ目の当たりにすると、耐えられなくてっ。」



「はぁ⋯⋯。そうですね。その気持ち、少しは分かります。増岡課長が、川野さんに恋愛感情を抱いているかは、分かりません。今までの2人の様子を、近くで見ていた立場としては、普通に仲の良い友達のような関係に見えましたが。先程の反応をみると、正直、以前のようには断言できませんね。⋯好きな人の近くに、仲の良い異性の友達や同僚がいたら、関係を疑ってしまうのも、無理もないです。」



佐渡は、小林の気持ちが理解できるので、精一杯、その心に寄り添ってやった。

その上で、彼は話を続けた。



「でも、小林さん。あなたは、それで良いのですか?増岡課長の事、長いこと好きだったのでは?幸い、川野さんは山本に夢中です。増岡課長も、小林さんの事を何とも思ってない訳では無さそうですし⋯。ここで諦めるのは、愚策だと思いますよ?僕のようにヘコたれず、もう少し頑張ってみては、いかがでしょう?」



そう言って佐渡は、小林にニコリと笑った。



「そうですね⋯。そうですっ。私、元々たかぴーのファンで、推しの幸せは自分の幸せとだ思っていましたが⋯もうそれじゃあ、物足りません。佐渡係長、ありがとうございますっ!おかげで目が醒めましたっ。」



佐渡の助言を受け入れた小林。


先程までの、悲しみに囚われていた彼女の暗い顔は、徐々に晴れやかになっていった。



「それで良いです。戻りましょう。」



そうして2人は、川野達がいる居酒屋に戻って行った。






「ただいま、戻りました。」



佐渡が、後ろに小林を引き連れて、川野達に声を掛けた。


「良かった〜!佐渡くん、ありがとうっ!凪ちゃん、お帰りなさいっ。」


川野はそう言って、2人を迎え入れた。


テーブルには、焼酎グラス3つと、泡盛のボトルが1本置いてあった。

小林と佐渡がいない間に、増岡のやけ酒に付き合ってた川野と山本。

一体、何杯飲んだのであろうか?




小林は、意を決して増岡の隣の席に座った。


随分と出来上がっている増岡は、酔っぱらった重い頭を上げ、小林の方に視線をやった。



「小林さん⋯。さっきは、すみませんでした。自分自身でも、良く分からないんだけど、川野があまりにも山本の前で、乙女になっていたから、何だか面白く無くてね。仲の良い奴を取られたみたいな⋯。」


増岡は、素直に自分の嫉妬心を小林に打ち明けた。


「ふふふっ。」


笑い出す小林。



「増岡課長。私の方こそ、勝手にお呼びしておいて、途中で逃げて、すみませんでした。でも、何だかスッキリしました。増岡課長の気持ちは、一旦、置かせて頂いて⋯。私は増岡課長が好きですっ。そう簡単に諦めませんからねっ。」



あまりにも突然の、堂々とした彼女の告白に、周りの方が驚いてしまった。


増岡が、固まっている。


「ほらっ!あんたはどうなのよ?ちゃんと言わなきゃっ。」


川野が増岡に返事をする様、促した。

酒で酔っ払っているせいなのか、照れているのか、増岡の顔は赤くなっている。



「え、えっと⋯。俺、恋愛はあまり得意ではないんだけど⋯。だいぶ年齢差もあるし⋯。小林さんは、それでも大丈夫?」


「ええ、もちろん!伊達に長年、たかぴーのファンやってないんで。ちゃんと、好きになってもらえるように頑張りますっ!」



小林の健気な姿に、増岡の心は既に動いていた。



「ありがとうっ。こんな不甲斐ない俺だけど⋯俺も頑張るから。宜しくお願いします。」




そう言って、川野達がニコニコと見守る中、増岡は小林と握手を交わした。






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