仲直り
久しぶりに、山本と出勤をした川野。
満員電車に押しつぶされて、いつもは悲惨な顔をする川野だが、今日はどんなに、ぎゅうぎゅうにされても、足を踏まれてもへっちゃらだ。
近くに山本がいるだけで、これほど心穏やかになれるとは。
恋のパワーは、凄まじいものだ。
企画・営業部オフィス
「おはよございます!」
廊下で山本と、さりげなく目線を合わせて別れを告げ、川野は事務所に入った。
「おはようございます。はぁ⋯。上手く行ったら行ったで、面白くないですね。」
佐渡が廊下を睨みつけながら、言った。
川野の席からは見えなかったが、どうやら山本は佐渡にスマイルを送ったようだ。
「うふふっ。川野さん、今日は見違えるほど元気ね!何か良い事があったようで。良いわね〜♪」
藤田さんも、山本との復縁を察して、喜んでくれている。
「色々と助言をいただき、ありがとうございました。お陰様で。」
川野は耳を少し赤らめ、お礼を言った。
今日は、増岡は本社での会議に直行らしく、事務所にはいない。
一言、お礼と文句を言いたい相手なのだが。
モヤモヤする気持ちをグッと抑え、川野は仕事をスタートさせた。
経理部の永井はというと⋯。
山本を思いっきり殴った翌日から、さっそく経理部の方で、取り巻きを作ったらしい。
チヤホヤしてくれる男が、3名出来たのだ。
山本に熱を上げたのは、川野に馴染みの同期を取られたという、嫉妬心からだったようだ。
しかし、いくらアプローチをしても、山本が自分に振り向かず、ウジウジしている所を目の当たりにして、恋愛感情が怒りへと変わり、あっさり冷めてしまったらしい。
甘ったるい声や、ベッタリとした態度とは裏腹に、そこら辺は、意外とさっぱりしている女性なのだ。
「只今、戻りましたっ。」
夕方になり、やっと増岡が事務所へ帰って来た。
モジモジする川野。
いざ、増岡に話そうとすると、どこから話して良いのか、分からなくなってしまった。
「⋯川野、ちょっと来い。面談だ。」
「はい⋯。」
先手を打たれた。
増岡が、川野を倉庫に呼び出したのだ。
いつもとは違う、低いトーンで話しかけられたので、冷戦状態は継続されているのではと、怯える川野。
ガチャン―
増岡はそのまま、川野の使っていたデスクの椅子に腰掛けたので、川野は近くに置いてある、パイプ椅子に座った。
「で?⋯どうだったのよ?」
増岡は両腕を組みながら、ふんぞり返っている。
「増岡課長⋯。その節は大変お世話になりました。お陰様で⋯。」
川野は姿勢を正し、そう言って男前な顔をし、ゆっくりと力強く、GOODサインをした。
「はぁ~、もう〜っ!ずっと心配してたんだぜ?俺はもう、この作戦が上手く行かなければ、お前達の修復は不可能なのだと思って、責任すら感じていたよ。」
増岡は、いつもの調子で、大げさにリアクションをとりながら喜んだ。
「色々とありがとう⋯。でもさ、キツかったよ?Wデートの電話の時だって、ヒドい言い方だったし。おまけに、あと1ヶ月あるイルミネーションを、まだ見てないだけで、業務怠慢なんてさっ、一番言われたくないかも。一応、改善点はまとめたから、提出するけど⋯。」
川野は、山本との恋を応援してくれた増岡には感謝していたが、何故あそこまで突き放されたのか、納得がいっていなかった。
「ごめんっ!ごめんて、川野〜。俺は水面下で作戦を遂行させるつもりだったのに、小林さんがお前に言っちゃったからさ⋯。お前に嗅ぎつけられたら、全部バレると思って。俺が、嘘つけないの知ってるだろう?苦肉の策だよ。」
増岡は苦笑いしながら、両手を必死に合わせた。
「まぁ本当に、感謝してもしきれないんだけどね。増岡に冷たくされると、さすがに凹むから、もうしないでねっ!」
「お、おうっ。悪かったな⋯。」
「ところで?そちら様の方は、いかがでしたか?デートはどうだった?本命もらえたんでしょう?」
胸のつかえが取れ、すっかり晴れやかな顔になった川野。
今度はさっそく、増岡への尋問が始まった。
「うん、まぁね。チョコは貰えたよ。」
「何?その煮え切らない態度っ。」
「うん⋯。なんか、貰っただけなんだよね。告白もラブレターも無くてさっ。あれ、義理チョコだったのかな⋯。」
「えっ?凪ちゃんからだよね?そんなはず⋯。デートの格好も可愛くお洒落してたし、チョコだって⋯何でだろう?」
両腕を組みながら、考え込む2人。
「やっぱり遊園地が、いけなかったかな?現地に着いて早々、永井さんは山本と別行動するからって、どっか行っちゃって。残された俺と小林さんで、園内を散歩してイルミネーション見て⋯。」
「イルミネーション見て?」
「見終わって、それで帰って来た。」
「はっ!?何それ〜!!」
頭を抱える川野。
増岡は、他人の復縁作戦なんて、している場合ではなかった。
忘れていたが、増岡も川野と同じぐらい、恋愛に対してのスキルが無いっ!
「増岡くん、分かりました⋯。それは私にも責任があると思うので、なんとかしましょう。困った時はお互い様なので。」
「川野先輩〜っ!頼みますっ!」
「うん、うん。」
川野は、泣きつく増岡に、勇ましい顔で微笑むのだった。




