お昼にデザートはいかがですか?
外回りから帰って来た同僚達と、次々と丁寧な挨拶を交わし、一段落ついた。
新しい部署の同僚は、係長の佐渡を除き、皆気さくに接してくれた。
これも増岡が、川野がここへ来て居づらくならないように、根回ししてくれたお陰なのだろう。
川野は増岡に、改めて感謝していた。
とはいえ、初日から誰かをいきなりランチに誘うのは気が引けるし、増岡は外回りに出てしまったし。
何より、汗だくのこの状態をなんとかしたい!
昼休憩の時間になり、川野はそそくさと会社からすぐのコンビニに向かった。
汗ふきシート、サンドイッチ、冷たいお茶を買い、再び倉庫へ戻った。
外で食べた方が涼しくて快適なのだろうが、今の川野にとっては、暑くてもこの倉庫の中が一番安心するのだ。
キンキンに冷えた烏龍茶を一口、いや二口、止まることなくグビグビと飲み干していく。
「くうぅぅ〜っ!うんま〜っ!」
あまりの喉越しの良さに、思わず声が出る。
自宅から水筒を持って来てはいたが、午前中で既に空になっていた。
経理部の前を進んで行けば、休憩スペースがあり、自動販売機も何台かあるのだが⋯
(あの人とまた会ったら、何かにつけて笑われそうだし。親切な人かも知れないけど、含みがあるんだよなぁ⋯)
そう頭に思い浮かべながら、川野がツナサンドを頬張った時だった。
ガチャッ
「こんにちはー。あっ、やっぱりいた。お昼もここで食べてるんですね。暑いところ好きなんですか?」
ちょうど思い浮かべていた相手がやって来た。
経理部の山本だった。
あまりにも急な、招かれざる客。
口に詰めたツナサンドのこともあり、川野はとりあえず、軽く会釈するしかなかった。
むせなくて良かった。
何の用で来たのか?
川野が警戒していると、山本は先程同様、デスク近くにあるパイプ椅子を川野の方に向け、ゆったりと腰掛けた。
「ふふふっ、川野さんて一口がけっこう大きいんですね!」
山本がニッコリと笑いながら、元気よく言った。
「うん⋯(ちょっと待って)うん⋯(ちょっと待って。ゴクンッ)あのね。職業病なのよ。ずっと時間に追われて来たから、つい早く食べなきゃってなるの。一人の時は特にね。」
山本の嫌味とも取れる言葉に、川野は思わず早口で反論した。
「営業やってると、話すペースも早くなるんですか?ふふっ。テキパキって感じで良い感じですね。あっ、これ、あげます。」
何とも言えない、ふわっとした言葉を口にしながら、山本はソーダ味の棒アイスを川野に差し出した。
「どうも。」
この男は、本当は親切な奴なのか、嫌味な奴なのか⋯ますます分からなくなった川野は、とりあえず棒アイスを受け取った。
ガサガサッ
山本は、自分の分の棒アイスを開け、シャリッ、シャリッと、ニコニコ美味しそうに食べ始めた。
(あんたもここで食べるんかいっ!さっき会ったばっかりなのに、距離感がおかしい!)
引いてる川野をよそに、山本は更にマイペースに話を始めた。
「いやぁ〜、やっぱりこういう棒アイスって、暑い所で食べるとめっちゃ美味しいですよね。俺は、本当はクリームとかチョコとかの味が好きなんですけど〜。暑い時はさっぱりしたやつが良いですね。川野さんは何のアイスが好きなんですかぁ?」
「う〜ん。何だろうな?何でも好きだけど、チョコミントとか特に好きかも。スッとして、チョコの粒がアクセントになってて。」
「へぇ〜、チョコミントかぁ。意外なとこ行きますね。俺はチョコミントのスースーが苦手で食べないですけどね。あっ、川野さん、早く食べたほうが良いですよ。これ、どんどん溶けてきます。」
山本に促され、川野も棒アイスを口にした。
「いただきます(シャリッ)ん~~っ!美味しい!カッチカチをかじるのも良いけど歯に来るから、このぐらい溶けたのがちょうど良いや。」
川野は初めて、山本に笑顔を見せた。
「ふふっ、⋯良かった⋯⋯⋯(ボトッ)うわぁっ!川野さん、ちょっとアイスを床に落としちゃいました!ティッシュ持ってますか?下さいっ!」
慌てて山本が立ち上がった。
「はいっ!はいっ!これ使って!うふふっ。」
川野は、笑いながらウエットティッシュを渡した。
この人は嫌味な奴ではなく、天然男なのかも?
シャリシャリと棒アイスをかじりながら、川野の山本への不信感はもう、ほとんど薄れていた。
決して、アイスで餌付けされた訳では無い。
「あぁ~、本当にすみません。棒アイスって暑いとこうなっちゃいますよね。次はカップアイスにしますね!」
床を拭き終わり、山本が立ち上がった。
(また来るんかい⋯)
心の中でそう呟きながら、川野はアイスのお礼を言った。
「あと⋯やっぱり扇風機だけだと暑いので、これ挟んで行きますね。10cmくらい空けておけば、廊下歩く人と目が合うこともないし、涼しくなると思いますよ。よいしょっ⋯では。」
こうして、山本はドアストッパーをドアの隙間に差込み、倉庫を後にした。
廊下から、なんとも涼しい風が流れ込んできた。
「⋯極楽だ。」
川野は、山本への偏見を心から詫び、感謝をしたのだった。




