佐渡のイライラ
営業部の事務所に、戻って来た川野。
何食わぬ顔で、仕事を再開させているが⋯。
倉庫から、山本が出て来ないのを見て、増岡と佐渡は“作戦は失敗だった”と頭を抱えた。
トントン―
「おはようございます!バード運輸です。荷物をお届けに上がりました。」
タイミングが良いのか悪いのか、バード運輸の吉井くんがやって来た。
「あっ、はいはいっ!いつもありがとうね。」
藤田さんが、荷受けの対応をし始めた。
「全部で8口になります。こちら重いので、いつもの様に、倉庫に入れちゃって良いですか?」
吉井くんが、親切心で尋ねた。
「あ〜っ、いえっ。大丈夫です。今日はこちらで入れますので。そのまま廊下に置いておいて下さい。お気遣いありがとう。」
藤田さんは、山本が倉庫の中にまだいる事を、何となく察していたので、機転を利かせた。
「そうですか。ではっ、失礼します!」
吉井くんが帰って行った。
藤田さんは、そのまま倉庫をノックし、中へ入って行った。
しばらくして、藤田さんと一緒に、疲れたような顔をした山本が出てきた。
そして、吉井くんが持ってきた荷物を、倉庫の中へ一つ一つ、運び始めた。
山本の顔を覗き込むように、何かを話している藤田さん。
慰めているのだろうか?
最後に、経理部の荷物らしきものを2つ抱え、山本は藤田さんに少し微笑み、事務所へ帰って行った。
営業部の事務所に戻って来て、自身のデスクに着いた藤田さん。
何か言いたげな顔で、ちらっと川野の方を見たが、小さな溜息をつき、荷受けした伝票の整理を始めた。
「チッ!あぁぁ〜っ!⋯川野主任。外回りの時間、早められますか?」
佐渡は、川野と山本の事について、おおよその想像がついてしまい、何故そうなったのかが気になって仕方ない様だ。
「あっ、あと5分待ってください。メールチェックがもう少しで終わるので。」
パソコンを眺めながら、淡々と答える川野。
佐渡の眉間に、皺が寄った。
腕を組み、貧乏ゆすりをして、珍しく落ち着きがない。
「はぁっ⋯。分かりました。先に行ってエンジン温めておきますので、チェック終わったら、すぐ来てくださいねっ!」
川野が返事をする前に、佐渡は社用車のキーを握り、行ってしまった。
「⋯⋯よしっ、完了。外回り行ってきます!」
そう言って、川野は佐渡の後を、追いかけた。
ガチャ―
川野は、佐渡がすでに乗った、社用車の助手席に乗り込んだ。
「お待たせしてすみません。」
軽く会釈をし、謝る川野。
「いえ、こちらこそ、我が儘を言って申し訳ございません。ところで⋯。山本と何があったんですか?」
回りくどい言い方が苦手な佐渡は、単刀直入に川野に尋ねた。
「あぁ⋯。大まかに言えば、何もなかったよ。細かく言えば⋯、ちゃんと別れた。」
「だから、そこですっ!何でそうなるんですか?川野さんは山本の事、まだ好きですよね?山本だって⋯。川野さんの事、まだ好きですよね。それが何で、上手く行かなかったんですか?永井ですか?」
「いやっ、そんな⋯。まぁ、永井さんが現れたってのもあるけど。やっぱり、私は哲也君の事を、幸せに出来ないなっと思って。いくら彼の事が好きでも、私は仕事も大事だし、同僚とのコミュニケーションも大切にしたい。だから哲也君には、永井さんみたいに、もっと側にいてくれる人と、幸せになって欲しいなと。」
「はぁっ⋯。やっぱり原因は永井ですか。チッ!タイミング悪かったな⋯。」
深く憤る佐渡。
彼は彼なりに、川野への気持ちに折り合いをつけて、山本と上手く行くように、応援してくれていたのだった。
「私も、もう少し若ければ、恋に焦がれて、夢中になってたかも知れないけど。この歳になると、先々の事をつい考えすぎちゃってね。何だか、つまらないねっ⋯。まぁ、私には、お酒と仕事があるから。大丈夫だよっ!」
そう言って、川野は少し寂しそうに笑った。
「だいたいは理解しました。永井と山本が上手く行っても良いって事ですね?⋯川野さんがそういう考えなら、これ以上、口出しはしません。」
口ではそう言いつつ、納得のいかない顔をする佐渡。
「それと、川野さん。これだけは言っておきますね。山本と別れたからって、僕の方に来ないで下さいね。僕はもう、川野さんは仕事仲間としか見ていませんから。」
「ねぇっ!ちょっと!そんな風に見える?私、そんな軽くないからっ!やめてよっ!うふふっ。」
ペシペシと、佐渡の左肩を叩く、川野。
真面目な佐渡からの、あまりの意外な一言に、思わず吹き出してしまった。
川野に笑われてしまい、眉間に皺を寄せる佐渡。
黙って車を発進させながら、頬を赤めるのであった。




