三人寄れば文殊の知恵
「お忙しい中、お時間頂きありがとうございました。失礼いたします⋯。(カチャッ)⋯⋯あぁぁ~っ!!全部断られた。心折れそうっ!」
仕事に関しては、滅多に弱音を吐かない佐渡が、悲鳴を上げた。
2人で取り組んだ、バレンタイン企画が通ったまでは良かったが、予算を上乗せするから、独自の目玉商品を入れてくれと、お店側から追加の要望があったのだ。
「私も全滅です⋯この時期じゃ、もう有名店はとっくに他と契約してるか、そもそも自身の店舗で売り上げが確保出来るから、出店までしてくれないですよね⋯。でも、あの熱い店長さんの要望には応えたいし、これをクリア出来なかったら、消化不良で後悔しちゃいますね⋯。」
向かいのデスクで腕を組み、険しい顔をする川野。
「そうですね⋯。取り乱して失礼。川野主任、都内で話題の洋菓子店を再度リサーチして、手当たり次第、電話をかけまくりましょう。」
「了解です!」
相変わらず、仕事に関しては阿吽の呼吸の2人。
早速、パソコンとにらめっこをし出した。
すると、川野の隣の席の藤田さんが、声を掛けてきた。
「あの〜。川野主任?私、その件で思い当たる店があるのだけど⋯。お話でも聞いていただけるかしら?」
「洋菓子店の事ですか?ぜひぜひっ!何でも教えて下さい!」
川野は、パソコンから目を離し、藤田さんの方を向いた。
「実は、主人と私が贔屓にしているお店があってね。まだ出来て何年も経っていないお店なんだけど、ケーキも焼き菓子も、チョコレートも、それはそれは美味しいのよ。インターネット上でも、取り上げられる様になって来たみたいで、最近は休日だと行列が出来ることもあるのよ。」
「藤田さん、ありがとうございます!可能性があるなら、ぜひ当たってみたいです。因みに⋯そちらのお店のお名前を、教えて頂けますか?」
かなり有望な案かも知れない!
川野は、佐渡と自身で作った、洋菓子店の連絡先リストを見ながら、藤田さんに尋ねた。
「アムールって言うの。店主とはすっかり顔馴染みだから、良かったら私、お店に直談判しても良いですよ。成功するかは分からないけど。上手くいく気がするのよねっ☆」
藤田さんが川野に、茶目っ気のある笑みを浮かべた。
川野はリストを確認した。
アムールさんは載っていない。
交渉出来る可能性が、大いにある!
「ありがとうございます!佐渡係長!良いですよね?」
「了解です!この際、当たって砕けろですね!藤田さん、電話でアポ取れたら僕が運転するので、一緒に行きましょう。場所はどこですか?」
「東麻布ですの。東京タワーの近くの。まぁっ!佐渡係長とのドライブなんてワクワクするわっ☆」
佐渡と川野の顔が、一瞬引きつった。
確か、その近辺で先月デートをしたような⋯。
2人で抱き合い、まるで恋愛ドラマのような一時を過ごしたような⋯⋯忘れよう。
ところで、東麻布の洋菓子店を、ご夫婦で贔屓にしている藤田さんは一体、何者なのだろうか⋯。
川野は、非常に興味を惹かれるのであった。
「私も、提案してよろしいですか?」
沼田さんが、控えめに手を挙げてから話し出した。
「チョコレートと言えば微妙なのですが、変わりダネと言えば、和洋菓子なんてどうですか?下町の方に、チョコレート大福を売っている老舗があって、美味しいんですよ。長期間は無理でも、1日か2日くらいなら、実演販売してくれるのではと思いまして。豆大福が有名なので、同じスペースで販売すれば、ついで買いの効果もあるのではと思いますし。クライアントがOKでしたら、交渉は私が行きますよ。」
また、なんとも心強い意見だ。
川野と佐渡の顔も、明るくなって来ている。
「沼田さん、その案めちゃくちゃ良いです!今回は会場に和テイストも入れているので、馴染むと思います。スペースも何とかなると思います!」
そう言って、川野は意気込んだ。
「では、せっかくなので三浦君の意見も、もらいましょう。もし思い付いた案があれば、恥ずかしがらずに、何でも良いので言ってみてごらん?」
佐渡が三浦君に、意見を求めた。
言い方が優しい。
後輩には優しい佐渡なのだ。
「えっと⋯。僕が思ったのは、チョコレートの目玉商品とは言えないのですが⋯。ギフトに添える、メッセージカードやレターセットを、チョコレート売り場の横に設ければ、相乗効果で売り上げが伸びるのではと思いました!」
パチパチパチッ―
内気で口数の少ない三浦君が、勇気を振り絞って意見を言い切った。
思わず、周りにいた皆で拍手をしていた。
その様子を見て、満足そうな佐渡。
三浦君の事を、とても可愛がっているのが伺える。
「よしっ!では早速、大福とレターセットについては先方に確認しますね。許可が出次第、出店の交渉を開始しましょう!」
そう言って、佐渡は依頼主の店長へ電話をかけ出した。
「皆さん、ありがとうございます!突破口が見えてきました。」
川野はニコッと微笑み、丁寧に頭を下げた。
依頼主の要望と、こちらの提案が全て合致する訳では無い。
一生懸命、絞り出した案でも、ダメ出しや、クレームを受ける事も多々ある。
思い通りに行かない時は、苦しくて仕方がない。
同僚がこうして、力を貸してくれる事が、どれほどありがたいことか⋯。
川野は、その事が嬉しくて仕方なかった。




